2011年12月09日 (金) 掲載
ベルリン映画祭で上映され、絶賛されたヴィム・ヴェンダース監督の最新作『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が2012年2月に公開される。同作は、ヴェンダースの20年来の友人であるドイツの天才舞踊家・振付家のピナ・バウシュのダンスドキュメンタリー。アート系作品としては世界で初めて3Dで撮影された映画としても話題になっている。
残念ながらピナは2009年に癌で逝去しており、生前の映像と、ヴッパタール舞踊団のメンバーによるパフォーマンスやインタビューで構成されている。作品が、第24回東京国際映画祭の特別招待作品として上映されたため、来日していたヴェンダース監督にインタビューした。
― 85年にピナ・バウシュの作品を初めて見て、彼女と親交を深めたそうですね。彼女の第一印象はどんな感じでした?
ヴェンダース:ピナは謎の人物だったから怖かったよ(笑)。彼女はあまり喋らずに煙草を吸い続けていた。目が印象的で、見つめられると全然嘘がつけないんだ。まるでこちらの胸の内を見通されてしまうみたいで、裸にされたような気分だった。ただ、とても親しげで優しかったので、見つめられても嫌な気分ではなかったよ。
― 映画にはピナが主宰したヴッパタール・バレエ団のダンサーが、ステージから飛び出して、街頭や自然のなかで踊りますね。その際、演出面で気をつけたことはありますか?
ヴェンダース:ピナのダンスは自然のイメージを取り込んだものだから、ダンサーたちは自然環境のなかで踊る心構えができていたんだ。ピナは舞台のうえでダンスを考えるのではなく、街や自然に出て、何時間もかけて人間の動きを観察して、人間本来の在り方や魂の美しさを感じようとしていた。彼女はそれを舞台にして、私はそれを映画にしたんだ。
― 映画化にあたって3Dという方法がとられたことも驚きでしたが、実際3Dで撮影してみていかがでした?
ヴェンダース:私は3Dはドキュメンタリーに向いていると思っているけれど、確信を持ってそれを証明してくれた作品はまだない。だから、これからいろいろと開拓していって、自分で確かめる必要があると思うんだ。ドラマにしても、3Dで撮る必然性を感じさせたのは、これまで『アバター』だけだしね。そんななかで、ダンスをとるには3Dが最適だということを、今回の作品で証明できたんじゃないかと思っているよ。
― あなたの前作『パレルモ・シューティング』の主人公のカメラマンは、コンピュータなど最新の技術を使って作品を作っていました。今回3Dに挑戦したあなたと重なるところがありますが、アートとテクノロジーの関係については、どのように捉えていますか?
ヴェンダース:これまで言えなかったことを言える可能性を与えてくれるテクノロジーなら、そのテクノロジーはビューティフルで、すごく意味があるんじゃないかな。今回はその一番良い例で、3Dがあったからこそ自分がやりたいことを表現できたんだ。今回、MOT(東京都現代美術館)で、私が3Dで撮影した建築に関するインスタレーションとしてのフィルムが公開される。それを観てもらえば、私が3Dというテクノロジーについて、どう考えているかがわかってもらえると思う。
― 映画にはダンサーや関係者が登場して、ピナについて語りますが、彼らに対してはどんなアプローチをしましたか?
ヴェンダース:彼らはすでに、ダンスを通じてピナにお別れを言ってきたと思う。だから、映画のなかでの彼らの発言は、自分のなかにあるピナに対する記憶を整理するようなものだ。今度、彼らはイギリスでピナのダンスを10演目、踊ることになっていて、それだけ踊るのは初めてのことだと思う。つまり彼らは、ピナの作り出したものを受け継ぐ後継者という新しい役割を与えられたんだ。今回の映画を通じて、後継者としての自信もついたんじゃないかな。
― では、あなた自身、今回の映画に対して、どんな気持ちで挑まれましたか?
ヴェンダース:ピナの仕事がいかに美しく素晴らしいかということを見せることを、まずいちばんに考えた。そういう意味で、自分の作家としてのエゴは控え目だったし、そうして当然だったと思うよ。
― では最後に、あなたから見た、ピナ・バウシュの魅力について教えてください。
ヴェンダース:私には姉はいないけど、25年の付き合いのなかで、私にとって彼女は次第に姉みたいな存在になってきた。同じ地方で生まれているから、話をしていると子供の頃の訛りが出て、お互いに幼い頃に戻ったような感じだったんだ。彼女はプライベートではよく笑う女性だったよ。あと、知り合った時から最後の最後まで、とにかく働く量が並じゃなかった。彼女は年がら年中働いていたんだ。それが一番強烈に印象に残っていることかもしれないね。
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
公開:2012年2月25日(土)
劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9 ほか全国順次3D公開
監督・脚本・製作:ヴィム・ヴェンダース
出演:ピナ・バウシュ、ヴッパタール舞踏団ダンサーほか
ウェブ:pina.gaga.ne.jp/
Copyright © 2014 Time Out Tokyo
コメント