『キッズ・オールライト』クロスレビュー

演技派、実力派の役者陣が揃い、第83回アカデミー賞主要4部門ノミネート

『キッズ・オールライト』クロスレビュー

タイムアウトロンドンレビュー

暖かく、ウィットに富んだユーモアが、『キッズ・オールライト』を一線を画した映画にしている。監督そして脚本家であるリサ・チョロデンコが、この映画を楽しいホームコメディとしたことも功を奏した。内容は、レズビアンのカップルが精子バンクを利用して子供を2人出産。やがて子供達が匿名の精子提供者を探し、太陽が降り注ぐカリフォルニア郊外にあるこの心地よく進歩的な一家の生活に、生物学的な父親を招きいれる。

この家族の2人の母親(もしくは子供たちが彼女たちを呼ぶようにママ達)は、ニック(アネット・ベニング)とジュール(ジュリアン・ムーア)である。2人は長い間“夫婦”生活を続けており、広い家で進歩的な家族の形を築き上げてきた。ニックは経済的に不自由のない医師であり、ジュールは思いやりと愛情に満ちた昔ながらの主婦だ。しかし、ジュールにとってキャリアがないことは不本意であり、そして彼女の会話の端々には、かつてヒッピーに傾倒していたことが見受けられる。2人の子供のうち、年上のジョニ(ミア・ワシコウスカ)は物静かで毅然とした、大学進学の決まっている優等生。一方、15歳の弟、レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)は多感なスポーツ万能少年だ。そして観客の我々には、彼こそが家庭内における“男性”という存在に飢えているかのように見える。ある日、ジョニはレイザーに頼まれ、精子バンクに精子提供者の正体を問い合わせる。

程なくして子供たちは自分たちの生物学的な父親であるポール(マーク・ラファロ)に会う。ポールはオーガニック野菜を提供するレストラン『WYSIWYG(ウィジウィグ:見たものが、手に入るもの)』を経営している。少年のような彼は、従業員といちゃついたりしながら、気楽なボヘミアン生活を送っている。ポールと子供たちは意気投合し、何もかもうまくいくかのように思われた。だが、ニックとジュールがポールを家に招待するところから、この映画の面白いところが始まる。ニックとジュールの親としての厳しいしつけが、ポールの自由気ままな生き方と相反する。しかし、ニックとジュールはリラックスしながら人生や愛、そして家族を楽しむことの意味を考えさせられる。そして“夫婦”間に生まれていた小さなわだかまりや、子供たちとの問題が浮き彫りとなる。

この作品は確信をついている。登場人物の滑稽な癖や小さな弱点の突っつき方を心得ている。そして家族のあり方をダシに、たくさんの笑いが散りばめられている。全ての要素が無駄になることがない。ポールを交えたディナーで、ニックがジョニ・ミッチェルの“オール・アイ・ウォント”をアカペラで歌いだすところなどは、思わず目を背けたくなるほどだ。

『キッズ・オールライト』は基本的にはとても楽しい映画である。その一方で、登場する人物の人生がアメリカの新しい家族のひとつの形を映し出すものとして、考えさせられるだけの説得力、そして心に響くものがある。監督は、ポールが無神経にニックとジュールの家庭に踏み込んでいくのを“いけないもの”として描きながらも、決して彼を悪者として扱うことはない。2000年に公開された『ユー・キャン・カウント・オン・ミー (原題: You Can Count on Me)』でマーク・ラファロは本作に似た自由気ままに生きている役を演じており、彼のかわいげのある存在が映画全体を丸くまとめている。

ただ、マーク・ラファロは、極上な一連の悲喜劇を引き出すきっかけにすぎない。ジュリアン・ムーアはカーキ色のガーデニング着で体を張って笑いを誘う一方で、非常にもろい内面もうかがわせる。アネット・ベニングは可能な限り歯を食いしばりながら笑い続けるが、深刻な結末のシーンでは、本作でもっとも心を動かす演技を見せる。

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タイムアウトニューヨークレビュー

ロスのある家族の物語。カリフォルニアの太陽のように役者達は輝いている。ジュリアン・ムーア扮するジュールは庭師の卵。一方アネット・ベニング扮するニックは本気なキャリアウーマン。レズビアンのカップルであるこの2人は、ロスに住み、匿名の精子提供を受け、ティーンとなった2人の子供、ジョ二(ミア・ワシコウスカ)と弟のレイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)と暮らしている。2人の子供の生物学的な父親は、マーク・ラファロ扮するオーガニックレストラン経営者のポール。ポールは目のはれぼったい、半分いかれた独身男性。ジョニは興味本位でこの男にコンタクトをとる。子供らはこの“いわゆる父親”と意気投合するが、(子供たちが呼ぶように)ママ達は関係が深くなる前に何とかこの男を追い出したいと考える。ポールを交えたぎこちない夕食で、ジュールはポールの裏庭を手入れすることを約束する。しかしニックはポールに対する不信感がいまいちぬぐえない。それもそのはずである。

リサ・チョロデンコ監督のこの控えめなホームドラマは、映画祭では大きな話題を呼んでいるが、連続テレビ小説の粋に留まっている。監督は、様々な出来事をきっかけに物語を展開し、キャストは優れた演技力を発揮、観客は思わず登場人物に感情移入をしてしまう。ジュールとニックが、男同士のゲイポルノを見ながらセックスをするシーンは本当に面白い。そして、この映画の多くの過ちを和らげている。彼女達の演技力には頭が下がる。このうそっぽいレズビアンの性生活さえも本当に見えてしまう。マーク・ラファロの演技力も、彼女達と同様にすごい。特に彼がナンパなときの演技がいい。寝てはいけない人と寝た後の彼の笑顔は最高である。不倫も浮気も間違っているのはわかっていても、なんせ楽しい。ただ、彼の存在はこの映画の中でなんとなく不自然である。あたかも、彼の持つ本当の意味での悩み(肉欲は抑えられないが、子供たちに抱き始めた父性)が、監督の描く、説得力に欠ける古典的な家族像の中で行き場を失っている。物語のクライマックスに出てくるジュリアン・ムーアの「結婚って大変」演説が特に残念である。オスカーを狙っているのにそれを隠そうとしているかのようで、一見深そうに聞こえる台詞はイソップさえもうんざりさせてしまう。

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4月29日(金)より、渋谷シネクイント、TOHOシネマスシャンテ、シネリーブル池袋ほか全国ロードショー

タイムアウトロンドン原文 デイヴ・カルホン
タイムアウトニューヨーク原文 キース・ウーリッチ
翻訳 タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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