映画『野火』レビュー

大岡昇平の戦争文学を塚本晋也監督が20年の構想を経て映画化

(c)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
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『野火』タイムアウトレビュー

映画『鉄男』などの作品で知られる、塚本晋也監督が20年の構想を経て映画化にたどり着いた『野火』は、塚本が初めて読んだ時に大きな衝撃を受けたという、大岡昇平がフィリピンでの戦争体験を踏まえて書いた同名小説をベースにしている。今作では、塚本が監督、脚本、製作、主演を務めた。戦後70年となる今年。監督は「戦争体験者の多くが90代となってどんどん亡くなっていく象徴の年であり、戦争に向かう動きが強くなったと感じる年でもある。今年の公開は必然性を感じる」と語り、資金集めも難しいなかようやく完成した作品だ。

舞台は、第2次大戦末期のフィリピン、レイテ島。主人公、田村一等兵は結核を患い、所属部隊を追い出され野戦病院へと送られる。しかし、病院は臨死の人々で溢れており、田村はあっさりと「退院」させられてしまう。再び部隊に戻ろうとするが追い返され、空腹や孤独、いつ自分の身が危険にさらされるかという恐怖のなか、原野をさまようこととなる。

ジャングルをさまよいもうろうとした田村の目線から捉えた映像で展開するシーンが多く、観客は、自分が戦場にいるかのような疑似体験をするだろう。また、塚本は「戦場は人間が無になってしまう場所なのだ、ということを描きたかった」と語り、人肉を食べるかどうかの判断を原作では、1つの主題とし、神の領域まで持ち出して描かれるが、本編ではそのような状況に置かれた時、「無」の状態で人間がどのような判断をするかを真っ正面から描いていた。戦争が遠いものと感じられなくなっている昨今、あらためて本作から戦場とは一体どういう場所なのかを知り、考えるきっかけになるのではないだろうか。


『野火』

2015年7月25日(土)よりユーロスペースほか全国公開
監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
原作:大岡昇平『野火』
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也ほか
配給:海獣シアター
※終戦記念日となる8月15日(土)は、25歳以下に限り500円興行が決定。また、ユーロスペースでは毎日19時00分〜の回は英語字幕付きで上映。

『野火』公式サイトはこちら

テキスト Mari Hiratsuka
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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