Blind』放射能汚染された後の世界

ガスマスクをつけた女子高生が暮らす渋谷を描いた、シュールな短編映画

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Still from Blind, currently in production in Tokyo
Blind gas masks, from a production currently being shot in Tokyo

東京に住む人たちの最近の大きな悩みのタネは、安全性の問題。「東京はどこまで安全なのだろうか」といった率直な疑問から、「魚が緑色に光ったりすることはないのか」といった少し愚かしい質問まで、それは様々だ。そういった質問に答えることは決して簡単ではなく、次のような言い方でまとめるのが一番良いのかもしれない。「東京は正常に見えるが、何かが違っている」という世界であると。もっと踏み込んだ言い方をすれば、「“何か”違うものが、空気の中に混ざっている…」という感覚だ。

新しく東京で撮影されたシュールレアリズム的な短編映画『Blind』は、鮮やかな映像を通して、観る人々を不安な気持ちにさせる。『Blind』で描かれている“放射能汚染された東京の街の日常”は、今の東京の姿ではなく、数年後に訪れるであろう姿だ。その時には、ガスマスクは生活を送る上での必需品となっているが、この映画で注目すべきなのは、女子高生がつけている“原宿スタイル”にアレンジされたガスマスクだ。それはすでに新しいマストアイテムとして生活に溶け込んでいる。自然な演出と美しい画面の中から感じられるのは、「目に見えない何か」に対してどのように社会は順応してゆき、ゆっくりと生活が変えられていくのか。そこに問題提起を感じることができる。そして、とても速いスピードでスタイルが浸透していき、社会は同化してゆく。それは果たして良いことなのだろうか。そんなことを考えさせられてしまう。

この映画は、クリエイターの活動のための資金調達を支援するサイトKickstarterを用いて製作された、完全に自費製作の映画である。今この文章を書いている段階で、主な撮影などは終わっているらしいが、映画を最後まで完成させる為には、もっと資金が必要だとプロデューサーは言う。そのような背景を知った上で、新進気鋭の日本人ビデオディレクターのショウダ ユキヒロと、東京で活躍するジャーナリストでありプロデューサーの Pasha Alpeyevにインタビューを試みた。


まず、『Blind』とは、どういう作品なのですか?
『Blind』は、放射能汚染が始まった東京の街で、2つのパラレルワールドを基本に描いています。現実である側の世界に、もっと不運な結果になっているパラレルワールドから、5分間だけ世界が交差します。そこでは、ガスマスクはスーツやグッチのバッグと同じようなアイテムとして使われ、山手線内のトレインビジョンには天気予報と同じように“放射能予報”が流されているんです。

この映画のアイデアはどのようにして生まれましたか?
あの事故以来、東京を舞台とした、シュールリアルな世界観を反映した作品を作りたいと思っていました。同じように繰り返される退屈な毎日に、ジワジワと迫る放射能、その脅威により少しづつ緊張感が加えられていく。ドラマティックな過剰演出をするよりも、ガスマスクを用いることで“そこに迫っている恐怖”を明確に描き出せると、プロデューサーの1人が提案したんです。

どのような女優/俳優を起用しますか?
最初は、映画『バベル』で有名になった末松暢茂を起用しようと思っていたのですが、主役にしてはちょっとハンサムすぎると(笑)。主役に小田哲也と、若い女性役にきたのゆめ、妊娠した母親役には渡邉理沙を起用しました。

映画に登場する“原宿スタイル”のガスマスクは誰がデザインしたのでしょうか?実際には買えませんか?
メイクアップアーティストのMio Shojiがこのマスクを作る為に、相当な時間をかけてくれました。結局、この映画で一番お金がかかっちゃってるかもしれません。今回の『Kickstarter』での資金調達の商品として、ひとつ400ドルの値段をつけてサイトで紹介したのですが、2日のうちに全部売れてしまいました!もしも本当に欲しかったら、Mioに頼んだら作ってくれるかもしれませんよ…!

この映画に何を期待していますか?どのような結果になれば良いと思いますか?
最初からですが、これからも映画を通してメッセージを伝えたいと思っています。日本は今、大きな分岐点に立たされています。生活が正常な状態に完全に戻るまでに、現実の姿に目を凝らし、様々な可能性について考えてもらえれば、と思っています。そして、日本の多くのクリエイターたちに『Kickstarter』を知ってもらえたら良いとも思っています。まだまだ知られていない沢山のクリエイターが世界中にいるんです。

東京の日常生活も福島の影響を受けていると思いますか? 東京は、現在“節電対策”があたりまえになっています。電気が制限され真っ暗になった街、薄暗い店頭のサイン。会社の勤務時間をずらす努力を始めている企業もあり、色々な意味でバラバラになりつつある状態にあります。そして、もちろん、食品の汚染問題もあります。牛肉や魚、野菜からセシウムが検出され始めている。まだまだ始まったばかりでしかありません。

福島はこれからどのようになれば良いと思いますか?
この問題に関しては、撮影クルーはみんなそれぞれ違った意見を持っていますが、みんなの意見が一致しているのは、福祉や援助が何よりも先になされるべきだ、という点でした。しかし必ずしも常にそうではありません。特に子どもの場合になると…。彼らはまだ、その権利さえ十分に行使できていない年齢なのですから。

『Blind』の次の目標は何でしょうか?
現在、『Kickstarter』でのキャンペーンまで1週間弱あり、そしてそれからポストプロダクションの段階に入ります。世界中でこの映画のプロモーションが出来れば、と考えています。その勢いで次のプロジェクトも始めたいです!


Blindに関するKickstarkerのページはこちら

By ジョン・ウィルクス
翻訳 西村大助
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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