映画『さよなら、人類』レビュー

面白グッズを売り歩くセールスマンコンビが目撃した人生とは

© Roy Andersson Filmproduktion AB
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『さよなら、人類』タイムアウトレビュー

鳩の行動は面白い。腐食性の自身の糞を踏み、足を自傷したり、仲間の死骸を共食いするからだ。鳩は実存を省みるだろうか(原題『A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence』は「実存を省みる枝の上の鳩」の意)。しかし、スウェーデン出身のロイ・アンダーソンが監督した奇妙なブラックコメディから、その答えは見つからないだろう。彼が描き出すのは「人間の本質」だからだ。もし、この3部作の中の過去作品『散歩する惑星』、『愛おしき隣人』を観たことがなければ、今作は今までに観たことのないような、唯一無二の作風に感じられるだろう。全39シーンに映し出されているのは、実存主義の哲学者によって脚本が描かれ『The Fast Show』(イギリスBBCの人気TVドラマシリーズ)の特色をとらえた、『モンティ・パイソン』の寸劇なのである。

本編は、3人の人物がそれぞれ死を迎えるシーンで幕を開ける。ある臨終の床の老女は、現金や宝石が詰まったハンドバッグを天国に持って行けると信じて放さず、子どもたちは彼女が握りしめたバッグを放そうと奮闘するが、ゆっくりとベッドが移動し始める。といった具合に、様々なブラックユーモアがちりばめられている。主な登場人物は、くたびれた茶革のスーツケースに、吸血鬼の歯や、変わったマスクなど面白グッズを詰め込んで売り歩いている冴えないセールスマンコンビ、ヨナタン(ホルガー・アンダーソン)とサム(ニルス・ウェストブロム)。地味なグレーベージュのスーツに身を包み、落ちこんだ表情のマスクを付けているかのように表情を固めた2人は、微笑まず、太陽も見ず、何十年も生きてきたかのように見える。そして、客に向かって「みんなを楽しませたくて」と無表情で語りかけるのだ。

絵画の額縁のように固定したカメラで、1シーンが長回しで撮影されており、夢を形成する脳の領域に、映像が入り込んでくるような感覚を味わえる。劇中、印象に残ったのは、18世紀初頭のスウェーデン国王カール12世が騎馬隊を率いてロシア侵略に向かう途中に、数人が静かに飲んでいるバーに立ち寄るシーンだ。女性たちを店から追い出した後、国王は「鞭打ちを味わせてあげよう」と男性に鞭を振るうのだ。ロイ・アンダーソン監督の真意は何なのか。人生は不条理で、死に至るまでの道程でしかないのか。しかし、難解な本質的問題を提起する作品には、優しさと笑いが存在する。物語と人生に対するアプローチが狂気的であり、観客は発狂しそうになるかもしれない。そうでなければ、鳥とともに空へ舞い上がるだろう。

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『さよなら、人類』

2015年8月8日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督・脚本:ロイ・アンダーソン
出演:ホルガー・アンダーソン、ニルス・ウェストブロムほか
配給:ビターズ・エンド
© Roy Andersson Filmproduktion AB

『さよなら、人類』公式サイトはこちら

テキスト カッス・クラーク
翻訳 小山瑠美
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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