インタビュー:『サイタマノラッパー』入江悠監督

ライムスター宇多丸の噂で火がついた映画の第3弾、世界へ!

インタビュー:『サイタマノラッパー』入江悠監督

撮影:内堀義之

ヒップホップの聖地アメリカから埼玉まで約8000マイル ーー
ライブハウスもない埼玉の片田舎でラップを叫ぶ若者たちを、映画『サイタマノラッパー』の中に描き出した監督、入江悠。自身の故郷である埼玉県深谷市を舞台に作り上げた壮大(?)な新生ラッパー映画の叙事詩はついに第3弾を迎えたが、どこに向かおうとしているのだろうか。英題 『8000mile』に込められた果てしない距離感は、決して目的地に辿り着けない埼玉ラッパーズの心を自虐的(?)に表現した、監督ならではのセンスが光っている。

1作目では、農家の息子&キャバクラ店員&引きこもりの3人組ヒップホップ・ユニット「SHO-GUN(ショーグン)」の奮闘を描き、2作目では、群馬県でガールズ・ヒップホップ・ユニットを再結成しようとしているアラサー女性を通して「ここではないどこか」にいる自分を夢想しながらも、どこにも行けない現実を表現してきた入江。登場人物は、実家のこんにゃく屋や借金だらけの貧乏旅館を手伝う者、キャバ嬢など…。そんな地方都市の故郷に対する理屈では切っても切れない愛憎の様なものがこの作品の原動力になっているのかもしれない。「僕が通っていた日本大学芸術学部では、最初の2年間は埼玉県の所沢市の校舎に通っていました。東京に出ようと思ったらまた埼玉だったんです(笑)」。

『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』など数多くのTVドラマなどを手掛けてきた32歳は、フィルム界のローカルエキスパートとして何を語ってくれるのだろうか。



『サイタマノラッパー』(以下、SR)シリーズを始めたきっかけを教えてください。
入江悠(以下IY):久しぶりに、仲間&少人数で自主映画を撮ってみようと思って始めました。それまで多かったVシネの仕事などはスケジュールがとてもタイトなので、もっとじっくり 時間をかけて映画を作ってみたいなと思ったのがきっかけです。それで同級生や後輩たちに声をかけて、2ヶ月くらい準備期間をかけて作りました。ここでは、 いわゆるプロの仕事だと許されないことを全部やりたいと思いました。ワンシーン、ワンカットで長回ししたりとか、撮ってきたものを見てダメだったらもう一度リテイクに行くとか…。『SR1』の舞台挨拶やイベントで出演者たちと全国を回っていたので、みんな『SR2』の時にはラップが上手くなってましたよ(笑)。

『SR1』と『SR2』で描かれた、女の友情と男の友情の違いは何だと思いますか。
IY: 『SR1』の仲間はまだ10代なので服などの趣味や思考を共有しているけれど、『SR2』の女性たちは20代後半で、お互い趣味も変わってそれぞれの生活がバラバラになり始めている時期です。男の方が、おっさんになってもベタベタしてお互いを切り捨てることはないんじゃないでしょうか。

舞台となった埼玉と群馬は、入江監督にとってどんな場所ですか。
IY: 正確には横浜生まれなんですけど、3歳で埼玉県深谷市に引っ越してきました。深谷はなんだか中途半端な街で、そんな地元が嫌いでした。だから大学進学をきっかけに、なんとかしてここから出たいと思っていました。でも実際に離れてから10年くらいして戻ってきて思ったのが、街としては確かに何もないんですが、意外と人が面白い。映写機を持って“移動映画館”をしていたおじさんが、俺が東京にいる間に夢をかなえて映画館『深谷シネマ』を作っていたりとか。街としては相変わらずだったけれど、そういう人もいるんだなと思いました。群馬は、浪人時代に予備校があったので通っていた街です。途中からは映画館にしか行かなくなっていたけれど、地元以外で一番馴染みのある場所でした。音楽で夢を見る映画って、大体東京に出るじゃないですか。なので、このシリーズでは逆に東京から離れていこうかと思いました。

例えば河瀨直美監督が奈良、ペドロ・コスタ監督がフォンタイーニャス地区にこだわる様に、ある土地にこだわる、地元愛の様なものが原動力になっている作品だと思いましたが。
IY:でもペドロ・コスタにしても、風光明媚な地元ではなく、そこにはある“愛憎”みたいなものがありますよね。俺も知らない土地に行って題材をみつけるよりも、深谷でやる意味があると思っています。中上健次がずっと同じ事をやってるのと近いのかもしれないです。

“憎”が先ほど仰ったような「中途半端な田舎」という言葉にこめられているとすると、“愛”はどんなものなのでしょうか。
IY:中途半端さ加減のなかで、右往左往してる滑稽な人間、でしょうか。もしくは中年になっても退職しても限られた中で生活している清々しさ。俺はいわゆる中央集権的なものにすごく抵抗があって、東京に行けばなんとかなる、みたいなのが嫌なんです。

震災のとき、どこで何をしていましたか。
IY: 都内で『神聖かまってちゃん』の編集をしていました。HDが落ちないように、必死に押さえてましたよ。Twitterで何が起きたかを知ってUstreamでニュースを見ていました。それから3月13日のリテイクを本当にやるのかどうか、必死にスタッフとメールのやりとりをしていました。

震災の様に、地元深谷が明日なくなるとわかれば、最後に見ておきたい風景はどこですか
IY: 深谷の駅です。自分の中で反復している、外(東京)の世界との、自分の唯一の出入り口であり接続地でしたから。そこからいつか出ていかなきゃいけないと思っていたし、逆に帰ってきたときも、そこに降り立った瞬間「帰ってきた」と感じる場所でした。

海外の映画祭を巡って、観客の反応はどの様なものでしたか。
IY: モントリオールやNYなど色々なところで作品を上映しましたが、感想はどこも同じでした。「ここではないどこかに行けばなんとかなる」と思ってる奴らの話だ、という受け止められ方です。例えばそこがヒップホップの生まれたNYであっても、自分がかつて思い描いていた自分になりきれていないというギャップは、どこにでもある話なんです。

インディーズ映画であることにこだわっていますか。
IY: いや、メジャーな作品でも条件がそろえば面白いと思います。ただ海外の映画祭ではいわゆる、どメジャー作品は見かけないんです。個人的な動機で作られた作品の方が、世界を回っていますね。ペドロ・コスタがあれだけ執念をもって張り付いて撮った作品だって、この期間だけで撮れって言われたら、撮れないじゃないですか。 商業的になると、どうしてもそういう執念みたいなものは削ぎ落とされていくんだと思うんですよね。

監督のブログで、経済的な問題で東京を離れることになったと綴られていましたが、実際にどういう状況だったのでしょうか。
IY: 『SR』 の上映がロングランで上映されていて、自分の貯金を全部使って宣伝しながら同時に『SR2』を撮影していました。ちょうど経済的にも体力的にもどん底になった時期でしたね。『SR2』からアミューズがスポンサーに入ってくれたり、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の助成金はありましたが、『SR』を公開して半年で『SR2』を作り始めていましたから、興行収入を回収する余裕がなくて…。

ヒップホップを題材にした作品、またヒップホップの ミュージシャンが語るような、「成り上がり」というドリームは定式だと思います。しかしこの作品は決してそのようなエンドを迎えず、変わらない日常の中で夢見る若者の夢の原点に戻るという終わりを迎えます。夢を叶えさせないということに、どういう意味を持たせているのでしょうか。
IY:今はもう、「成り上がり」っていう図式がないですよね。昔は矢沢永吉とかダウンタウンとかがそうだったのかもしれないですけど。今はニコ生とかUstreamなどを使った、マスとは違う自分から発信出来る方向というものがあるんじゃないんでしょうか。それがあるから地方にいても音楽をやってて有名になれちゃったりする時代なんだと思うんです。

『SR3』はどの様な作品になるのでしょうか。また『ムカデ人間』にも出演されていた北村昭博さんとの出会いはどのようなものだったのでしょう。
IY: 『SR3』は、このシリージの締めくくりとして、夢の終わりみたいなお話になってます。北村くんとの出会いは、以前たまたま『東洋経済』に紹介されていた、僕と同じ年の彼が四国の高校を卒業してからアメリカで頑張ってる彼の記事を読んだのが最初です。実は、僕はニューヨーク大学を受けようと思ったことがあって、結局行かなかったんですけど、同じ瞬間に同じ年で 実際にアメリカに行って志した人がいるんだなって思いました。その後偶然にも、僕と同じ事務所の園子温監督がLAに行った時、運転をしていたのが北村くんだったんです。それからゆうばり国際ファンタスティック映画祭の打ち上げで初めて会った時、その話で盛り上がって仲良くなりました。それから日本で『ムカデ人間』舞台挨拶で彼に呼ばれて、「『SR3』があるんならぜひ出たい」と言われました。半ば強引にラップを披露されたり(笑)。日本の俳優とは違った、半端じゃない熱量、パワーに圧倒されました。舞台挨拶の時も、観客全員を楽しませて帰る、そんなプロフェッショナルなところはすごいなと思って、これは面白 い作品が出来そうだと感じました。新作での彼はすごく悪いラッパーの役を演じてくれることになっています(笑)。


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SRサイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者」(twitter

監督・脚本:入江悠(twitter
出演:奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、北村昭博 ほか
公開:2012公開予定

野外フェス・クライマックスシーン撮影エキストラ募集中
場所:日本レンガ工場跡地(深谷市浄化センター向い:埼玉県深谷市上敷免2)
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テキスト 津留崎麻子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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