映画『ナイトクローラー』レビュー

ジェイク・ギレンホール演じる狂気のパパラッチと報道番組の裏を見る

© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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『ナイトクローラー』タイムアウトレビュー

テレビを観る人なら、特にローカルニュースの犯罪報道を観ているならば、流血事件や神経過敏な目撃者、報道番組は「刺激的な映像」の肥溜めと化していることに気づいているだろう。かつて映画『ネットワーク』、『ブロードキャスト・ニュース』のような作品によって予言的に描かれた内容は、いまや当然のことになっている。監督、脚本を務めたダン・ギルロイが作り上げた今作『ナイトクローラー』は、不道徳で面白い作品に仕上がっており、そのような事実を前提にしながらも、核心を突くことは賢明に避けている。その代わりに、ショッキングな映像を求める低級で熱狂的なネタ探しと、隠れたサイコパスが、予想通り、トップまで登り詰めるキャリアにおける野心を、対にしながら描いている。本作は、マーティン・スコセッシ監督による映画『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』に見られるメディアにより増幅された常軌を逸した行動を描く精神に近いものを持ちつつ、人間の異常かつ飽くなき欲求を描いている重要な作品だ。

飢えた狼のような主人公ルイスを、痩せ細ったジェイク・ギレンホールが好演しているが、彼が一般的なロサンゼルスに住む一匹狼ではないことはすぐに感じ取れるだろう。ルイスは、出っ張った目をぎらつかせ、夜間に盗品を売買しながら徘徊する生活をすることで、楽観的でありながらも挫折感を抱えていた。ある日、ハイウェイで炎上する車に救助作業が行われる場面に遭遇し、現場に群がるカメラマンたち(テレビ局にネタを持ち込み、即金を得るフリーランサー)を見かけた時に、ルイスはひらめく。自らもビデオカメラを入手し、犠牲者を車で引きそうになるほど誰よりも近い場所まで接近し、発砲事件が発生した住宅に無許可で侵入するのだ。

最初はブラックコメディの要素があるサクセスストーリーのように映る。ルイスは、自分の新たな情熱に対して(微かに狂気じみているが)優れた規律を課し、まるで駆け出しのビジネスマンのつもりでいる。馬鹿げた面接を実施した後、仕事を切望するリック(リズ・アーメッド)を「インターンシップ」として無給でアシスタントに採用する。そしてリックに、撮影中は車を見張らせて、粗野なニュース担当のディレクター(レネ・ルッソはトリッキーな役を見事に演じられる女優だ)に映像を売りさばかせる。しかし、横転事故の現場に警察よりも先にルイスが一番乗りしたときに、この作品は予想外の展開へと大きく移り変わる。ライトが上手く当たるように、ルイスは死体を移動させる。そこから底が崩れ落ち、物語はおぞましさで気分が悪くなるような倫理観のフリーフォールへと突入する。

ジェイク・ギレンホールは、キャリア最高の作品を呼び込んだが、数年前に、このキャラクターを演じることは不可能だっただろう。少年のようなハンサムさは、狡猾そうな器用さへと変化を遂げた。ほとんど強迫性障害に近い、猛烈な独白によってルイスの異常な熱意を好演し(それは観客を驚かせ、賞賛を受ける部分の一つだ)、彼が本当に危険なやり手の俳優だと証明している。また、主人公のバックグラウンドを描く意図が見られない点も良かった。ダン・ギルロイにとって初監督作であるが、ロサンゼルスに関するスペシャリストでもある撮影のロバート・エルスウィット(映画『ブギーナイツ』、『マグノリア』)による多大なサポートを受けながら、ダン・ギルロイは熟練したプロフェッショナルの素質を見せつけるように監督を務めている。リックが「なぜ他の皆と同じように、ヴィンセント・パークの強盗事件を取材しないのか」と弱音を吐くが、彼らが抱く最高に大それた夢を超えて、上司のルイスはさらに別の成功に向かって突き進むのだ。どこかで夢が違った方向へ行ってしまった人たちにとってハッピーエンドを迎える作品である。

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『ナイトクローラー』

2015年8月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストンほか
配給:ギャガ
© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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原文 ジョシュア・ロスコフ
翻訳 小山瑠美
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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