2014年09月18日 (木) 掲載
のどかなアメリカの郊外に降り立ったETは、自分の星に帰りたがった。しかし、現代のグラスゴーに降り立ったスカーレット・ヨハンソンに似た生物は、定住を考えるのである。
原作はミッシェル・フェイバーが2000年に発表した、映画と同名の小説『アンダー・ザ・スキン』。ジョナサン・グレイザー監督作品としては約10年ぶりの新作で、『セクシー・ビースト』『記憶の棘』に続く3作目となる。ボロボロのバンで雨の降りしきるスコットランドを運転する1人の女の日常を、SFをベースに巧みな特殊効果を使用し、同時にホラーの様な張りつめた空気感を作り出していた。観ているとこの作品の世界に引きずり込まれ、奇妙な感覚を体験できる傑作だ。
スカーレット・ヨハンソン(異星人の女)は、フェイクファーをまとい、黒髪のカツラをかぶり、近隣住民を遠くから穏やかだが、感情を持ち合わせていない様な眼で物色する。単なる好奇心か。食事を求めているのか。情事の相手を探しているのかは分からない。必ず男が1人であることを確かめてから、道路脇やクラブのダンスフロアで誘惑してバンに連れ込む様は、連続殺人犯の物語を見ているかのようだった。しかし、女の罠にはまり、油の海に裸のまま命を落としていく男たちの最期の瞬間はまた異なる世界が展開する。そして、顔に障害を持つ男との出会いにより、憐れみを見せ、人間らしい感情を持つようになると、映画の印象は再度変わるのだ。ここまでの物語の流れは、人によっては苛立たしいほどにゆっくりとした速度で進んでいく。グレイザー監督が『記憶の棘』で完成させた冷淡かつ緻密な展開から、さらに荒削りのスタイルが加わったかのようだった。
劇中スカーレット・ヨハンソンは、物静かな演技から外見にはこの世のものでないような雰囲気を漂わせ、少ないセリフを洗練されたイギリス英語で発音していた。(他の役者の発音は完璧ではなかったのだが。)サウンドトラックを担当したミカ・レヴィの音楽は恐怖を覚えるほどで、新種の電子音の言語か、エイリアン同士のやりとりのように聞こえてきた。また、深くは掘り下げられてはいないが、イギリスの火星派詩人であり批評家のクレイグ・レインの詩のように、世界を新たな目で見つめるよう呼びかけてくるかのようだった。もっとも、重点を置いていたのは、おそらくセクシャルな魅力をむやみに使用することへの視点だろう。大胆かつ思想に富んだ作品である。
10月4日(土)より、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー 監督:ジョナサン・グレイザー 脚本:ウォルター・キャンベル 原作:ミッシェル・フェイバー 音楽:ミカ・レヴィ 出演:スカーレット・ヨハンソン、 ポール・ブラニガンほか 配給:ファインフィルムズ ©Seventh Kingdom Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014
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