李闘士男『てぃだかんかん』を語る

岡村隆史が主演、世界初“サンゴ礁再生”に夢をかけた夫婦の物語

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李闘士男『てぃだかんかん』を語る

(C)2010『てぃだかんかん』製作委員会

世界で初めて養殖サンゴの移植産卵を成功させ、2007年に環境大臣賞・内閣総理大臣賞をダブル受賞した金城浩二。そんな金城の10年間の軌跡を徹底取材し、映画化した『てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~』が2010年4月24日(土)に公開される。監督を務めるのは『デトロイト・メタル・シティ』の李闘士男。主人公の金城健司を演じるのはナインティナインの岡村隆史。そして金城の妻役は、『フラガール』や『容疑者Xの献身』などで各種女優賞を受賞した松雪泰子が演じている。

金城による“サンゴ礁再生の物語”は現在も進行中だが、なぜ映画化を決めたのか、李闘士男に話を聞いた。

:人って、自分の話をする時に、良いことばかりを話すじゃないですか。でも、金城さんは違って、失敗話をたくさんしてくれました。それがとても面白かったんです。信頼に値すべき人だし、素晴らしいと思いました。 他の日本の都市が西洋化される中、沖縄は海に囲まれていることもあって、日本のまほろばみたいな、日本人がもともと持っていた人と人とのつながりや、大らかさ、逞しさのような原始的な良さが残っている場所ですよね。だから、金城さんのような、普通に考えるとバカかと思うかもしれないけれど、奇跡を起こすような人が残っているんだと思います。

確かに、沖縄の方の話を聞いているだけで気持ちが柔らかくなる感じがしますね。

:そうなんですよ。今の時代は誰かと自分を比較し、優位に立とうとすることがあると思いますが、沖縄にいると、人と比較することの無意味さを感じます。だから今回、沖縄を舞台にして良かったと思うのは、まだこんな場所があるんだということに気づいたことです。癒やしの島と表現されることが多いですが、景色が美しいということ以上に、人の性質が癒やしの理由になっていると思います。

東京にはそういう人がもたらす癒やしのエッセンスが少ないですか?

:この作品が面白いのは、映画がすごく良いと言う人と、あまり良くない言う人が極端に分かれるんです。要するに、映画にサムシングニューというか、新しい刺激を欲しがっている人は、僕はこの映画の中で何も新しいことをやっていないので、良いと感じないんですよ。ただ、もっと人にある普遍的なものを求める人は、共感してくれる。都会では常に新しいものを追い求めるのが良いとされることが多いけど、そういうのって、行くとこまで行くと壊れてしまう。

今回僕がやりたかったテーマはひとつなんです。環境映画を作りたかったわけではなく、本人次第で人生を豊かにすることができる、ということを伝えたかった。例えば、お金がなくても豊かにはなれる。金城さんはたまたまやりたいことを見つけて豊かな人生を送っている。でも、それだけじゃなくて、金城さんを応援する人たちもいて、彼ら自身に何か達成したいことがなくても、応援することで豊かな人生を送っていると思うんですね。だから、豊かな人生っていうのは、きっと誰にでも送れるんです。そういうことに共感してもらえると一番良いと思います。

僕はね、「ちょっといいね」って言われる作品が作りたいんです。

金城さん役に、岡村隆史さんを選ばれたのはどうしてですか?

:見た目のイメージよりも、話し方のイメージで選びました。沖縄の方って、とつとつとした話し方をされるでしょう。金城さんの話し方もピュアで実直でまっすぐで、ちょっと切ない感じがする。そういうことを役者さんに置き換えた時に、考えるより先に、岡村さんがぴゅーっと浮かんだんです。岡村さんは役者さんではないし、こんなに真面目に演じることを「どうしよう、どうしよう」って言っていましたが、「真面目にやらなくても、普通にやっていれば金城さんになりますから」と話しました。スーパーマンみたいな何でもできる役者さんが金城さんの役を演じても、つまらないと思ったんですよね。

以前、李監督にお話を伺った時に、映画の現場は“天国”だとおっしゃっていましたが、今回はどうでしたか?

:僕は“祭り”という言い方もしますが、映画のスタッフってバカなんですよ。時給換算したら、いい大人が時給何百円で働いてるんだよ、って世界なんです。だけど夜中に、「これ、もう1回撮りなおそうよ」と言うと、「それいいね!」って撮り始めるバカばっかりが集まってるんですよね。で、金城さんもバカなんですよ。

“珊瑚バカ”ですね(笑)。

:そうです!だから、世の中を動かすには、知識もお金も力も大事だけど、やっぱりバカになれることがすごく大事です。バカになるということは、信じることだと思うんです。だから、映画の現場は素晴らしいと思います。僕の演出テクニックとか、芝居の上手下手はあるかもしれないけれど、気持ちが入っていれば、何か伝わるもんだと思っています。いつも言っているのは、インフォメーションより、インプレッションを大切にして作っていきたいということです。

撮影でずっと沖縄に行ってらっしゃいましたが、旅の必需品はありますか?

:FMラジオです。AMでも良いんですが、地元ローカルの音を聞きながら歩いていると、景色が変わるんです。それを1番最初に気づいたのは20年くらい前、ロサンゼルスの空港でだったんですが、たまたまラジオからクラシックが流れてきたんですよ。そしたら、まわりの景色がスローモーションに見えて、ものすごいかっこ良かった。音楽と一致した時に景色が変わって、本とかガイドブックを見て得た知識とは全然違う解釈ができて、その街をより深く理解できるなって思ったんです。

だから今回、テーマ曲を決めるのに、海の上でいろんな音楽を聴きました。そうしたら、部屋や車の中では良いと感じていた曲が、海の上だと自然に負けてしまうんです。ポップミュージックの中で自然に負けない音楽が、山下達郎さんでした。そして、山下さんにお願いした時の注文はひとつ。「山下さんなりの『What a wonderful world』を作ってほしい」ということです。永遠に残るような映画を撮るので、永遠に残るメロディを作ってくださいとお願いしました。ぜひ映画を最後まで観ていただいて、その曲を聴いてほしいと思います。「さぁ、これからも行くぞ」という感じが素敵だなと思っています。

『てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~』
公開:2010年4月24日(土)
新宿バルト9ほか全国ロードショー
ショウゲート配給
ウェブ:tida.goo.ne.jp/
(C)2010『てぃだかんかん』製作委員会

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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