インタビュー:ジョニー・デップ

新作『アリス・イン・ワンダーランド』、ティム・バートンについて語る

インタビュー:ジョニー・デップ

アリス・イン・ワンダーラン ド © Disney Enterprises, Inc.

俳優と映画スターは違う存在だが、ごくたまに、両方になりうる人物が誕生する。ジョニー・デップはいつだって、役になりきるためならどんなことだってしてきた。『パイレーツ・オブ・カリビアン』の向こう見ずな船長ジャック・スパロウから、ティム・バートンの最新作『アリス・イン・ワンダーランド』でお茶会を主催する“帽子屋”のマッド・ハッターまで、あらゆる役を完璧に演じてきた。思考家で、思慮深く、ねじ曲がったユーモアセンスを持ち合わせ、繊細で物静かなデップ。実際に会ってみると、若かりし頃の勢いがいまだ健在で、自然体でいるのにとてもクールな男だった。

1951年のディズニー映画のイメージが強いのか、『アリス・イン・ワンダーランド』を古臭くい少女文学だという人もいます。しかし実際には、ルイス・キャロル原作のこの児童文学は、暗くて超現実で、不快なものですね。ティム・バートンには恰好の素材なのでは。

ジョニー:この作品は“不条理なサーカス”のような空気感に包まれている。どっぷりとした深淵と、危険な要素が隣り合わせになっていた。それと同時に、楽しい気分にさせてくれるし、見事に詩的でもある。これら全ての要素が、ティム・バートンをティム・バートンたらしめる重要な要素なんだ。暗く、斬新でユニークかつ滑稽。この言葉たちは物語を説明するだけではなく、ティムそのものでもあると思う。

原作のファンでしたか?

ジョニー:当たり前だよ。『不思議の国のアリス』はいつの時代もトップ25位内に入る文学だ。僕も子供の頃から大好きな本で、登場するキャラクターたちはもちろん、サイケデリックな内容と、物語の中の不思議な寓話がとても好きだ。美しい作品だと思うよ。

どのように役作りをしましたか?

ジョニー:原作を読み返していたときに、印象深いフレーズに出会った。役のキャラクターを理解する小さな足がかりになると思ったんだ。マッド・ハッターが「Mから始まる例のことについて調査を行うぞ」と宣言する。でもそれっきりで調査なんて行われなかった。水銀のせいなんだよ。彼は物忘れが激しくって、Mっていうことしか覚えていられなかったんだ(笑)。で、“気狂いのハッター”のことを考えてみれば、水銀中毒が原因だってことがわかる。昔は帽子作りには水銀が使われていたから、頭がおかしくなる帽子屋が多かったんだ。

ハッターの外見について、早い段階でアイデアがあったと言っていましたが。

ジョニー:すぐに閃いたよ。すでにハッターがどういう外見かは頭の中に描いていたけど、ティムに相談してアイデアを確認したんだ。ティムに会ったとき、僕が絵の具で描いた絵を見せると、ティムもラフスケッチを出してきた。僕らのアイデアには共通点が多かった。ティムは『髪の毛の色はオレンジがいいね』と言ったよ。へんてこなピエロのような、水彩画のようないろんな色の顔が気に入ったみたいだった。

演じる役についてのイメージはいつも早い段階にできますか?

ジョニー:いくつかの映画では早い段階でイメージを作ることができたね。反対に、演じながら模索していく役柄もあった。不思議なんだけど、前に、すでに撮影が始まって数週間経ったときに突然、「なんてこった!もう一度、撮影をやり直させてくれ」という状態になったことがある。それで、実際に撮影しなおしたね。でもハッターとキャプテン・ジャックに関してはそれはなかったね。

あなたのハッターには実際にモデルになった人物がいるというのは本当ですか?

ジョニー:ハッターのモデルになった人物はいるよ。でもそれを知ったらその人は気を悪くするだろうから誰かは言わない。とあるきっかけで出会った人物で、この人物の話し方に非常に影響を受けた。この人に会ったとき、このキャラクターをいつか自分の役作りに役立てようと思っていた。それで実際にそうしたんだ。

どこかのインタビューで、あなたのパートナーであるヴァネッサ・パラディが、ハッターの前歯の隙間は彼女から盗んだものだと主張していましたよね。

ジョニー:(笑)ああ、たしかにそうかもしれない……。フランスでは、前歯に隙間がある歯を“lesdentsdebonheur(幸運の歯)”と呼ぶんだ。ちょっとしたジンクスみたいなものだよ。でも、最初に考えていたことを教えようか?彼女のとても可愛い前歯は見慣れていたんだけど、実は最初は、イギリス人コメディ俳優テリー・トーマスの隙っ歯を頭では考えていたんだ。

あなたの演じるハッターは、スコットランド訛りとイギリス英語と両方でしゃべりますね。スコットランド訛りの英語は誰かの影響を受けたものですか?

ジョニー:『ネバーランド』(2004年)の中で、東スコットランド出身者の役を演じた。アバディーン地方のね。僕はいつもグラスゴー訛りに興味があった。なんだか危険な香りがするからね。

ルイス・キャロルの原作純粋主義的ファンはこの映画にどのように反応すると思いますか?

ジョニー:映画を見に行かない方がいいよ!ロアルド・ダールの原作ファンは、僕の演じた『チャーリーとチョコレート工場』のワンカを見ない方がいい。でも本当に純粋な原作のファンならば、ジーン・ワイルダー版のワンカも観ない方がいい。なぜってロアルド・ダールはあれもあまり好いていなかったからね。まったく違う構成なんだよ。僕らはキャラクターたちを原作から取り出して、そこに自分たちなりの解釈を与えたんだ。

あなたはバートンの作品7本に出演しています。彼のなにがあなたを主演させるのですか?

ジョニー:彼は、役者に自由に演技させてくれる。「ちょっとやってみたいことがある。もしかしたら大失敗するかもしれないけど、やらせてくれ」と言える環境は、役者にとっては夢のようなチャンスだよ。やりたいことがあるのなら、そこに挑戦し続けなければ意味がない。ハッターのような役は特にね。ティムはフレキシブルに挑戦出来る機会を与えてくれるんだ。

アリスの撮影後、プエルトリコで『The Rum Diary』の撮影が始まりましたね。ハンター・S・トンプソンの小説を原作に、『ウィズネイルと僕』(1987年)のブルース・ロビンソン監督が、1992年の『ジェニファー8(エイト)』以来、初めてメガホンをとりました。彼との撮影はどうでしたか?

ジョニー:ああ、彼が作品を撮るのは17年ぶりだろう。かなり頑固に作らなかったよね。スタジオが押しつけてくるシステムがあまりにも下劣で嫌気がさしたんだろう。二度と同じことをしたくなかったんだと思う。だから今回、彼は脚本を書いて、現場をこなし、やることだけをやったんだ。

この夏、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズ4作目に参加しますね。そして『ローン・レンジャー』のトント役、さらには再びバートンと『ダーク・シャドウズ』を撮影することも決定しています。でもその前にアンジェリーナ・ジョリーと共演している『ザ・ツーリスト』について教えてください。

ジョニー:最初に『ザ・ツーリスト』の話が僕のところに来たとき、すでにアンジェリーナ・ジョリーが出演することは決定していたんだ。脚本を読んで、とてもいいと思った。今まで自分が関わったことのないタイプの作品だった。ジャンル分けするとしたら、『北北西に進路を取れ』(1959年)に似たところが気に入った。彼女の作品はいくつか観たことがあるけど、とても才能ある女優だね。家族と恋人と仕事を愛する、とてもよい女性だと思うよ。

原文へ(Time Out London / Mar, 2010 掲載)

アリス・イン・ワンダーランド
全国大ヒット上映中
公式サイト:www.disney.co.jp/movies/alice/index3.html

原文 マーク・サリスバ リー
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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