インタビュー:アイ・ウェイウェイ [後編]

拘束前にタイムアウト香港に語った、中国ジャスミン革命やアートについての思い

インタビュー:アイ・ウェイウェイ [後編]

インタビュー : アイ・ウェイウェイ 前編を読む


中国本土で大きな展示ができる日が来ると思いますか?

アイ:そうなればいいと思っている。だが、もし展示をするとしたら他のアーティストではなく、何千人もの若いインターネットユーザーに見せたいね。彼らは私を英雄視している。「この人は有名で今後も安泰しているはずなのに、僕らの側に立って政治を批判し、変化をもたらそうとしている」と思っている。だから私の意見は多くの人々に、先行き不透明な暗闇に希望の光を与えているんだ。人々の中には数代にわたって現政策に苦しめられ、絶望の淵にいる者もいる。だが、人が「不可能だ」と言えば言うほど、私は勇気づけられる。そういう性格だからだ。


あなたは世界的に有名なアーティストで、とても成功しているにもかかわらず、いつ投獄されてもおかしくないリスクを冒している。投獄されることを恐れていますか?

アイ:もちろん投獄は恐れているが、私の父は詩人だった(アイ・チン 1910-1996)。詩人としては尊敬していないが、20代で6年も投獄され、その後20年も追放されて、最悪な状況の下、公衆便所の掃除をさせられていたが、彼は生き延びた。そこは尊敬している。私の父が監獄や劣悪な扱いに耐えられたのは、人間として、詩人としてのとても強い信念があったからだ。私はそう自分に言い聞かせている。だが、実際に監獄でなにが行われているのかは誰も知らない。


民主活動家の劉暁波になにが起きているかご存知ですか?彼の監獄での暮らしとはどういったものなのでしょうか。

アイ:(怒りを露わにしながら)彼の妻でさえ面会を禁じられている!一人を罰するのならば、家族全員を罰するべきだ!彼は姿を消した。弁護士ですら彼に会うことはできない。誰も彼に会うことができない。一体どうなっているんだ!もし主張が正しく、それが正義であるならば、隠さずに堂々とやるべきだ。今は隠している場合じゃない。彼を人々の前で裁き投獄するならばいい。秘密にやるのはおかしい!


彼を投獄したことにより、彼の影響力は10倍になってしまいましたけれどね。

アイ:たしかにそうだ。こうした(2010ノーベル平和賞授賞式)式典に参列させないこともその一つだ。奴らはこの時期に出国させないために400人から500人のリストを作った。私もそのうちの一人だった。驚いたよ。


あなたが去年、飛行機に搭乗拒否されたとき、あなたはノーベル平和賞を彼の代理で受け取りに行くところだったんですか?

アイ:そうではない…。ウクライナのコレクターたちに、未来の世代賞という賞の審査員に選ばれていて、ウクライナに行くところだったんだ。


ウクライナに行くつもりだったんですね?

アイ:私は4カ国に行く予定だった。一つの国はデンマークで、ノルウェーに限りなく近かった(大きな笑い)。ノーベル委員会から招待状はもらっていたが、スケジュールの都合がつかず出席できないと返信した。中国当局も私に行くつもりかどうか聞いてきた。「行くつもりはない」と答えたよ。にもかかわらず、私が考えを変えないよう策を巡らせていたんだな。


あなたは上海のアトリエが壊されるときにパーティを開き、すぐに自宅監禁されました。自宅監禁とは実際どういうものでしたか?

アイ:とても不思議な気分だった。まず自分が主催したパーティに出席できなくて残念だった。1000人以上のゲストから出席の連絡があった。最終的には数千人の規模になっていただろう。 私が警察にそう伝えると彼らは「じゃあ行かない方がいい、規模が大きくなりすぎている」と言った。自ら招待しておいて自分が行かないなんて考えられるか?警察はさらに「簡単だ。ゲストたちには自宅監禁中だと言えばいいじゃないか」と言った。だから私は本当に自宅監禁されていない限り、私は行くと言ったんだ。「わかった、でもパーティには行けないぞ」と彼らは言ったんだ。だから、私を究極の状態に置かない限り、私を止めることはできないぞと言い返した。そして、私が飛行機に向かおうとした直前に、警察が何人もこの部屋にきて「今から自宅監禁を通告する」と言った。どういう意味かと聞き返したら「この家を出ることを禁ずる。パーティ開催日の深夜まで、我々は外で監視する」と言ってきた。そんなことは馬鹿げている、私はホストなんだからパーティは中止になる、と言ったら「これは命令だ」と。だから私は法律により自宅監禁され、家にいたんだ。


どんなお気持ちでしたか?

アイ:いつも自宅にいることの方が多いから生活は普段とあまり変わらなかった。誰かがやってきて取材して、私はTwitterに投稿する。いつもと同じだ。実際に自宅監禁中は20件ほど取材をしたのでこの事態は全世界が知ることになった。イギリスの首相までもが、人権保護を大切にするよう要望書を書いて送ったほどだ。いまだに銀行口座もメールも監視されているし、電話は盗聴されている。外を歩けば見張りがついてくるし、オフィスの外には見張り人が立っている。だが、これは彼らの力の弱さを啓示している。哀れすぎて口に出したくもないが、彼らは自信がなく、コミュニケーション能力がなく、知的な対話をする能力に欠けているのだ。彼ら(共産党)は、自身の存在を保持するためには敵が必要なんだ。皮肉なことに。


共産党はあなたを国際的な文化的物差し、として使っていると思いますか?

アイ:当然だろう。彼らは私の行動が理解不明でどうやって扱えばよいかわからないと言ってきた。彼らは率直に「何を考えているのか教えてください。そんなに力があるのなら、何を変えようとしているのですか?」と聞いてきたよ。彼らとはこうした細かい話までしているんだよ、わかるだろう?今は秘密警察ですら「あなたの存在は貴重です」と言ってくるよ。


なぜですか?

アイ:彼ら曰く、「あなたは影響力が大きく、誰もやりたがらないことをやっているからだ」と。だが私は他の人となんら変わらない。


政府はあなたに夢中になっていると言う意見もあります。

アイ:それはあり得るだろう。


なぜご自身のパスポートをオンラインに掲載させられたのですか?

アイ:オンラインで人を批判すると、まず売名行為だと思われる。ようやく真剣だと気づいてもらえても、「なぜこの男はここまでオープンなのか?中国系アメリカ人だから法律が違うのでは?」と思われるのが関の山だ。だからパスポートを載せて、私が同じ国民で同じ問題に直面していると伝えたかったんだ。当局が私を見る目もこれで変わった。中国の有名人たちは、まず自身と家族の保護を一番に考える。私もそうすることはできたが、当局は私がそうしなかったことを知っている。だからなぜなのか考えたのだろう。


あなたは(上海の警官を6人殺害した罪で逮捕され2008年に処刑された)杨佳について、様々な議論を巻き起こしたドキュメンタリーを作りましたが。なぜこのテーマが重要だと思ったのですか?

アイ:彼は普通の、どこにでもいるような男だった。だが、司法制度によって弁論の機会も与えられなかった。私はこういったケースにいつも疑問を投げかける。なぜこの青年はオリンピックの直前、2008年7月1日に共産国で、警官を6人も殺害したのだろうか。彼には一体何が起きて、何を間違えたのだろうか。警官を殺した彼は、誰もが死刑になるべきだと考えた。中国の“報復”の考え方だ。だが、私は彼を犯罪者扱いする前に、容疑者にするべきだと思った。そういうシステムでなければ全国民が彼になり得る。だからこの事件は完璧だった。道徳についての議論は皆無だ。私はブログに60本以上の記事を投稿し、この事件について議論した。これに人々は気づいた。彼は処刑されたが、議論が止まることはない。


中国にいる人はどうすればこのドキュメンタリーを見られますか?

アイ:10万枚の無料コピーを郵送で配布した。インターネットで見てもらえるように作ったので、たくさん配布したことで、こういったドキュメンタリーを待ち望んでいたさらに多くの人々に見てもらえる機会になった。


2008年におきた四川大地震後に、あなたは建築不備の学校や建物を“市民捜査”したことで「社会秩序を乱した」と非難されました。この非難に関してはどう思いますか?

アイ:私の父が80年前に国民党の時代に受けた非難と同じだ。多くの共産党員たちは「社会秩序を乱した」ため投獄され処刑された。80年後にも同じことが起きようとしている。公共秩序を乱した罪で(共産党は)たくさんの人を投獄している。まったく馬鹿げている。


だが、あなたの捜査は人々のためになっています。

アイ:そうだけれど、こうした命令は人々がするものではない。人々を支配する層から来るのだ。中国は、食料や軍事以上に、秩序安定に予算を使う。本当の敵は内部にいるということだ。


四川大地震では何人の子供が死亡したとお考えですか?

アイ:学校や家族の記録から5197人の名前があがっている。政府発表は5335人だ。それほどの大差はないが、おそらく彼らの方が現実に近いだろう。全てを知っているから。


成都ではなにがあったのですか?(2009年、アイは四川の首都で警察に暴行され頭を負傷。後に脳しんとうを起こしドイツで治療を受けた)

アイ:(長い沈黙)我々の捜査期間中、ボランティアスタッフは30回以上にわたる嫌がらせや拘束を受けた。ついに彼らは、子供の死について調査していたライターを告訴した。彼の弁護士に証言してほしいと頼まれたので賛同した。証拠はそろえていたから。だから成都へ行ったんだ。早朝3時頃、警察がホテルの部屋になだれこんできた。私は怒って彼らと言い争いになった。裁判の後になんの説明もなく釈放された。もちろん、裁判への出席を妨害することが目的だ。だから提訴して控訴したが、誰もこのケースを取り上げてくれなかった。「誰も暴行を働いてはいない。おそらく錯覚だったんだろう」と彼らは言った。こんな理屈は聞いたことがない!私はゆっくりと冷静に「警察はたしかに暴行をした。多くを望んでいるわけではなく、ただ謝罪をしてほしいだけだ。事実をなかったことにするのならば、システム全体に問題がある」と言った。事実を認めないシステムには問題がある。彼らは小さな溝を埋めるために、大きな穴をあけてしまったのだ。これは中国全土で起きている問題だ。政党が全ての賞賛を横取りしてしまうため、誰も責任を負いたがらない…だが全ての間違いは政党のものだ。


あなたは天安門事件以降の世代が、中国の経済成長を押し上げている一方、社会問題に目を向けないことに怒りや悲しみを感じますか?

アイ:彼らはシステムの犠牲者だと思う。耳や目を塞がれ現実を見せられなかった。我々の社会にはよくあることだ。成功するにはこれを通さなければいけない。醜く、うんざりするような愚かな“不機能社会”は、太陽の下の水分のように消え去らねばならないだろう。


天安門事件は今後も起こりうるでしょうか?

アイ:1989年に起こったようなデモは起こらないだろう。いま振り返ってみると、残念なことに私はまだ政治への関心が薄かった。父親の世代の中で育ったことで受けた影響は大きいし、民主的なニューヨークでの暮らしにも影響された。だが、この政府の内部構造に疑問を持ち始めたのは、1999年に建築に関わるようになってからだ。今までどうやって交渉されてきたのか。土地の売買はどう行われてきたのか。どうやって特定の人々が莫大な資産を築いたのか。恩恵を受けるものと苦しめられるものと両方見てきた。人々が権利さえも認められないところを見てきた。建築は社会と関わりを持ち、政府と折り合いをつけながら進めなければならない。北京の『鳥の巣』スタジアムのように、建築はとても政治的なものだ。


北京オリンピックのスタジアム建築に関わったことを後悔していますか?

アイ:後悔はしていない。中国はオリンピックを使って大きな国際的な国々への仲間入りをしようとしていた。中国政府の扱いはひどいものだったが、あの建物は大事な象徴だと思う。民衆のために建てられたというよりは、当局のプロパガンダとして立てられて成功した。私自身の政治への思いから、オリンピック開催の1年前に私はあそこから離れた。おかげで操り人形のような存在になってしまい、不思議だった。とあるジャーナリストに「開会式には出席するのですか」と聞かれたので「しない。ばかばかしい!」と答えたのに、「オリンピックのデザイナーが式をボイコット」と報道された。


強烈なヘッドラインですね。

アイ:そうだが、この国のメディアはそういう発言を求めているので、私に注目が集まった。開会式を見た後でも、行かなかったことには少しも後悔はしていない。見た瞬間に自分が正しかったことがわかった。中国はどんどん警察国家になっている。全体主義社会は経済ブームをつくり出すが、シンプルな人間の幸せはつくり出せない。


あなたの作品は繊細でとても曖昧です。ですが、曖昧さはプロパガンダでもあります。チャイナ・デイリーに掲載されたあなたのテート・モダンでのひまわりの種の展示について読み上げてもよいでしょうか?

アイ:本当に彼らはレビューを載せたのか?知らなかったよ。「この作品は…我々に、力を合わせない限りは無力なのだろうかと核心に迫る質問を投げかける」(爆笑)これはおもしろい!


あなたの狙いはそこでしたか?

アイ:私の作品をどう捉えようが、それはその人の自由だ。もちろん解説は重要だ。おそらくこれを書いた記者はデスクのOKをもらうために記事を軽くしたんだろう。彼らは私の名前を使いたいだけなのさ。中国の若い記者たちは、ありとあらゆるやり方でどうにか私の名前をヘッドラインに練り込もうとする。もしヘッドラインに無理だったら記事に入れる。どうにかして引き合いに出そうと涙ぐましい努力をしているよ。気の毒なことだけど、努力だけは認めるよ。


あなたを取り上げることは彼らにとっても勇気がいることですよね…。

アイ:若い記者に「なぜこれを書くんだ?私の名前を使うと仕事が危うくなる可能性があるだろう?」と聞いたら「別の仕事を見つけますよ、ご心配なさらずに」と答えた。我々が行ったデモの写真を誌面に載せたものもいる。


どの新聞ですか?

アイ:グローバル・タイムズ紙だ。国の新聞なのに、掲載されたんだ。これはなんらかのサインだと思った。1980年代に育った世代が、いま社会の中で重要なポジションにいる。彼らは実際に行動して問題を解決できるだろうか?また見ぬふりをするのだろうか?時代は来ていると思う。


あなたの両肩には希望がのしかかっていますね。おしつぶされそうになりませんか?

アイ:プレッシャーはもちろん強いが、たくさんの人々の希望に通じていることで、自分自身にも力を与えてくれるし、それを元に自分でもなにかができる。自分の発言によって他者の苦境に変化をもたらせることは価値がある。


いま一番言いたいことはなんですか?

アイ:若者には平等な機会を与え、変化に取り組み、他者の為に自分を犠牲することなく自由に人生を謳歌してほしい。精神的充実に満ちた生活を、独立して、貧しくても自分の意見をはっきりと持って生きてほしい。誰もができるはずだ。

原文へ*(Time Out Hong Kong)

テキスト ジェイク・ハミルトン
撮影 カルヴィン・シト
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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