ついに姿を現したBanksy [前編]

ストリートアートのカリスマ、バンクシーが作った映画とは?

ついに姿を現したBanksy [前編]

世間の目から逃げ続けるろくでなし男、バンクシーの話題は久しぶりだ。最後にニュースになったのは、2009年にホームタウンのブリストルの美術館で個展をやるという、突拍子もないものだった。最初にその話を聞いたとき、ついにストリート出身のアーティストは違法な器物破損行為から卒業し、美術機関とオークションハウスのお世話になるべくギャラリー・アーティストに変貌を遂げたのかもしれない、と思った。だがその予測は外れた。その後、常にスリルを追い求める変幻自在なこの男は、ゲリラ的映画監督として“ドキュメンタリー風”映画、『Exit Through the Gift Shop』を作り始めたのだ。

作品に登場するのは、実在する熱狂的グラフィティファンのフランス人、ティエリー・グエッタ。ストリートアートたちのコミュニティ内部へのアクセスを得た彼は、カメラを片手に真夜中のグラフィティ行動に同伴する。もちろん登場するグラフィティライターたちの顔はマスクやモザイクで隠されている。パリとロサンゼルスでのあり得ないいたずら行為の撮影後、バンクシーはこの熱狂的ファンにカメラを向ける。グエッタに、撮影することや映画作りを諦めてお前がスプレー缶を持ってみろと言わんばかりに。大胆にもこのフランス人は素直に言うことを聞いて『Mr Brainwash』という名のアーティストになり、一夜にしてアーバン・アートの仲間入りを果たすことになる。使い古されたウォーホル・スタイルで、味気無くも見える肖像画作品は、マドンナのベストアルバム『セレブレーション』のジャケットに起用され、彼はロサンゼルスのギャラリーで個展を開催するまでになった。バンクシーをしのぐ成功だ。こうしてシンデレラストーリー的映画が完成した。

『Exit Through the Gift Shop』で取り上げられているのは、ストリートアートの異常性だ。バンクシーも無意識であれ、この異常な現象を盛り上げた一人の人物であることは間違いない。映画にはバンクシーに影響されたアーティストたちと、彼らをスターダムにのし上げる、想像力のないコレクターたちが登場する。コレクターたちは資産価値のある限定作品を買い漁ることだけが目的だ。バンクシーの映画は、ストリートアートを単純に楽しむだけの作品ともとれるし、現在のアートマーケットに警鐘を鳴らす作品だともとれる。もし後者だった場合、忠実なフォロワーだったグエッタは、もしかしたらバンクシーの創作ではないのだろうか?グエッタは、わけも分からずに人真似をはじめ、最終的にマスターのゼペット爺さんを悲しめることになった心優しいピノキオをわざと演じていたのではないか?あり得ない話ではないだろう。バンクシーがこのシナリオを入念に計画し、長い時間をかけて成功させたのだとしたら、本当に信じがたいことだ。実際にこの忠実な模倣者の作品は今では売り切れ状態で、雑誌からもひっぱりだこのアーティストになっている。

自らが生みだした天才児が映画でスポットライトを集める一方、バンクシーが世間の目を逃れることは困難になるばかりだ。メディアには彼の正体は教養のある30代のロビン・カニングハムという人物だとすっぱ抜かれた。あげくにロンドンで起こったグラフィティ戦争にも巻き込まれた。オールドスクールのグラフィティライターたちの中には、彼の作品はステンシルでトレースしただけで、成功したのは単に運がよかっただけだ、と批判的な感情を持つものも少なくない。紛争の発端は、ロンドン北部に拠点を置いて活動するベテランライターであるロボの描いた作品の一部にバンクシーが上描きしたことで、これに激昂した彼のチームによって、北ロンドンエリアのバンクシーの作品は全て棄損されてしまった(皮肉にも現在は地元議会によって価値が認められている)。

自分こそは本物のバンクシーに会ったと吹聴する人も多くいるが、私は本当に本物のバンクシーに出会った。しかも数年前、イーストエンドであったグラフィティのイベントで、偶然に、だ。眼鏡をかけた、中肉中背の平凡な外見の男だった。直接コンタクトをとることは極めて難しい人物となったが、バンクシーは今回、タイムアウトロンドンのインタビューに応え、事実を語ってくれた。さらに特別にタイムアウトロンドンのマガジンカバー用に新作を作ってくれた。英国の近衛兵たちが壁に向かって立ち小便をしたり、グラフィティをしたりしている昔のあの作品がベースになっている。このインタビューにこぎつけるには長い時間がかかった。内密のやり取りや、ひたすら返事を待つ間に、彼への細いコンタクトの経路は幾度となく閉ざされた。ようやく、防弾効果が完備されている彼の基地にてインタビューにこぎつけた。だが、カーク・ダグラスがスパルタカスを大作だと信じて出演を決めたときのように、私自身もこの人物が大物であるかを最初に確認しなければならなかった……。

[後編] バンクシーのインタビューを読む

バンクシーが手がけ、完成した
タイムアウトロンドンの表紙

タイムアウトロンドン『バンクシー エディション』(ポスター付)
バンクシーが表紙を担当し、インタビューの原文も掲載されたタイムアウトロンドン『バンクシー エディション』は、以下の店舗で入手可能。ロンドンで完売したポスター(サイズ682mmm x 515mm)がついたヴァージョンは限定なので、お早めに。

・TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(住所、地図など詳細はこちら
・リキッドルームオンラインストア liquidroom.shop-pro.jp/?pid=20023678


原文へ(Time Out London / Mar, 2010 掲載)

原文 オシアン・ワード
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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