映画『南の島の大統領――沈みゆくモルディヴ』レビュー

レディオヘッドが音楽を担当した環境ドキュメンタリー

映画『南の島の大統領――沈みゆくモルディヴ』レビュー

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『南の島の大統領――沈みゆくモルディヴ』タイムアウトレビュー

地上の楽園として観光地として人気の高いモルディブは、2000島を越える珊瑚礁の島々から成る、インド海に浮かぶ群島だ。海抜わずかの島々は、気候変動の影響によりかつてのアトランティス帝国のように水没の危機にさらされている。このドキュメンタリーに登場する、当時の大統領モハメド・ナシードによれば、頭痛のタネは気候変動だけじゃない。

1992年に政治的理由で投獄後、ナシードは亡命する傍ら、民主主義の基盤を築き上げ、モルディブで長期独裁政権を築いていたマウムーン・アブドル・ガユームを下す。大統領就任後は、国が直面する環境問題の危機にいち早く取りかかり、モルディブで起きていることはやがて地球全体で起こると、世界に警鐘をならした。

監督・ジョン・シャンクのカメラは、日常の政治業務から2009年にコペンハーゲンで行われた国連締約会議での情熱的なスピーチまで、湛然にナシードを追いかける。音楽を担当するのはレディオヘッドだ。彼らの音楽が今にも沈んで消えそうな楽園の痛切な映像に、哀愁の効果をもたらしている。実際に、砂の上に建てられたコンクリートだらけのマレの首都圏を見ると、この島があとどれだけ浮かんでいられるのか考えさせられてしまう。しかし、素晴らしい楽曲には悲しい最終章が付け加えられる。2012年2月、クーデターによりナシードは大統領の座を追われ、現在でも消息不明となっている。この風変わりな作品が、彼の重要な環境問題の取り組みの証となることを願う。

原文へ(Time Out London)

『南の島の大統領――沈みゆくモルディヴ』(The Island President)

監督:ジョン・シャンク
出演: モハメド・ナシード

第25回東京国際映画祭 natural TIFF部門で上映
上映日時:2012年10月22日(月)16時15分
上映日時:2012年10月26日(金)17時10分
http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=169

テキスト デレク・アダムズ
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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