映画『砂漠でサーモン・フィッシング』レビュー

ギルバート・グレイプを手がけたラッセ・ハルストレム監督の最新作

映画『砂漠でサーモン・フィッシング』レビュー

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『砂漠でサーモン・フィッシング』タイムアウトレビュー

大衆恋愛文学の『サイダーハウス・ルール』や『ショコラ』といった作品を、マシュマロのように甘く脚色した映画で知られるスウェーデンの映画監督ラッセ・ハルストレム。これまでの作品は多くの映画賞の受賞候補に上がったが、受賞にまでにはいたらず、唯一アカデミー賞のブロンズ賞に近づけたものがあるとしたら、甘い恋愛映画『親愛なるきみへ』(ニコラス・スパークス原作)に主演した俳優チャニング・テイタムの、黄金に日焼けしたひきしまった胴体だけだ。ポール・トーディの人気コミックが原作となった同監督の最新作『砂漠でサーモン・フィッシング』は、魅力的かつどこまでも気取っていて、批評家ぶった観客も満足させられるかもしれない。だが、タイトル(原題:Fishing in Yemen)はいただけない。恋愛映画史上もっともセクシーではないタイトル有力候補であることは間違いない。

トーディの2007年の原作は労働党の痛烈な風刺であり、砂漠に鮭の釣り場をつくるというイエメン大富豪のばかげた計画にのったブレア内閣が登場する。ハルストレムの繊細な感じにはあわなそうなストーリーだが、脚本家のサイモン・ボーフォイ(『スラムドッグ$ミリオネア』)が原作の風刺をうまく使い、ギャップを見事に埋めている。

主演の二人はなかなか恋愛関係に発展しない。大富豪のアイデアを英国政府に売り込もうと躍起になる、エミリー・ブラントが演じるビジネスウーマンと、図らずしてこの計画に巻き込まれてしまううだつの上がらない水産研究者のユアン・マクレガー。彼は結婚していて、彼女の恋人の兵士(トム・マイソン)はイラクで行方不明になっている。この設定は、ボーフォイが得意とする自分の心のままの恋愛の揶揄とはかけはなれている。

役者たちが皆、魅力にあふれているせいか、諸処の設定の粗には目をつぶることができる。マクレガー演じる研究者のスコットランド訛りでさえも愛らしく演出されていることが不思議だ。登場人物の中でピリッと光るのが、クリスティン・スコット・トーマス演じる、首相のひどい広報官の女性だ(原作では男)。彼女にとってこの鮭の釣り場計画は、地方メディアである『漁業ウィークリー』(役の中では読み方さえ間違える)からの支持を集める手段だけでしかない。おそらく原作を読んだのは彼女だけだろう。マスコミ、官僚、自分の子どもたちでさえ、鼻持ちならないうざったさで応対する。まるでアーマンド・イアヌッチの脚本の登場人物から、リスキーな風刺だけを取り除いたかのような人物の描写と言えるだろう。

原文へ(Time Out London)

『砂漠でサーモン・フィッシング』(Fishing in Yemen)

監督: ラッセ・ハルストレム
キャスト:エミリー・ブラント、ユアン・マクレガー、クリスティン・スコット・トーマス
オフィシャルサイト:http://salmon.gaga.ne.jp/


第25回東京国際映画祭 特別招待作品部門で上映
上映日時:2012年10月27日(土)11時00分
http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=53

2012年12月8日(土)ロードショー

テキスト ガイ・ロッジ
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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