インタビュー:オービタル(Orbital

メタモルフォーゼやグラストンベリーフェス、そしてエレクトロニックミュージック

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インタビュー:オービタル(Orbital)

It's all gone a bit 'Wonky': Paul and Phil Hartnoll from Orbital

台風により惜しくも直前で開催中止になった昨年(2011年)のメタモルフォーゼ。今年は幕張メッセでの開催が決定し、去年とほぼ同じラインナップでオービタルもリベンジをはかる。ニューアルバムもリリースされ、5月のメタモルフォーゼでのライブも待ち遠しい。タイムアウト東京はポール・ハートノールに電話インタビューを行った。

― メタモルフォーゼが中止になり、その後の代官山UNITでのパーティーに大分並んで待ちましたけど、結局、中にすら入れませんでしたよ。中はいかがでした?

Paul:すごく良かったよ。一つだけ残念だったのは、すし詰め状態だった事。メタモルフォーゼが中止になってがっかりだったよ。フロアのみんなのハッピーな表情を見て、「ああ、これが1000人でなく8000人だったらもっとよかったのに」って残念に思ったのを覚えてる。楽屋裏もおかしなことになってたよ。行き場を失ったミュージシャン達が集ってそこら中で酔っぱらってたんだ。

― 以前にもこのような事はありましたか?

Paul:滅多にないね。初期の頃にしょっちゅうレイヴがキャンセルになった事くらいかな。前にロサンゼルスでエイフェックス・ツインとモービーと一緒に巨大レイヴに出る予定だったんだけど、ステージがガソリン満タンの平ボディトラック三台を使ったものだってことで消防法に引っかかって、直前のところで中止に追いやられたんだ。若くてバカだったから、その頃はそんな事どうでもいいと思ってたけどね。でもその後がヤバかった。観客が暴動を起こし始めたんだ。僕たちのせいだと言わんばかりにツアー車にレンガを投げつけられたりさ。警察も高圧的になってきてね、最終的にはヘリも出動させて観客を強制退去させてたよ。

― おおごとですね…

Paul:うん、でもそれくらいかな。天気のせいじゃなかったからね。グラストンベリーフェスは間違いなくキャンセルした方がいいときもあるね。泥の中での開催とかあり得ないよ。意地なのか根性なのか分からないけど、そんな中でも結局、開催されるんだよね。

― イギリスで引き継がれてしまってますよね。2010年に再びグラストンベリーに出られてますが、いかがでしたか?

Paul:いやぁ、すごく良かったよ。グラストンベリーは最高だね。ホームと呼べるライブが2つあるんだ。グラストンベリーはホームのフェスティバルで、ブリクストン・アカデミーはホームのヴェニューだね。この2つの場所でやると、本当に地元に戻って来た実感が湧くから大好きなんだ。グラストンベリーは泥だらけでぐちゃぐちゃになることがあっても、そうじゃない時が最高だしね。ブリクストン・アカデミーもいい時は本当にいいヴァイブが溢れて最高のプレイが出来るヴェニューなんだ。

― メタモルフォーゼではフルのライブセットではなくオービタル・サウンド・システムとしてプレイされる予定でしたね。オービタルとしてDJをするようになったのはいつ頃ですか?

Paul:始めたのは割と最近だよ。昔は結構やってて、僕がやめた頃に今度はちょうどフィルがDJをし始めたんだ。オービタルとしてどんどん新しい事をやっていきたくて、当時それが僕らが一番キーとしてたことだったんだ。初めてフィルと一緒にDJをやったとき、どんな感じになるか見てみたくて試しに新曲を2曲だけプレイしようと思ってたんだけど、最終的にはアルバムのほとんどの曲をプレイしてしまった。そんな事があったから、もっと曲を早く作らなきゃって思うようになったよ。DJセットで早く新曲をプレイしたくてたまらなくなるから。

― ライブをされていたその当時は、DJをお二人でされる事は考えてなかったのですか?

Paul:新曲はライブでいつもやってたからね。オービタルを始めて5年位は常に先を行ってたと思う、未発表曲をやったりしてね。初めてグラストンベリーに出たとき、まだリリースもしてないSnivilisationからほとんどの曲をやったのを覚えてるよ。フェスでヒット曲をプレイしなきゃいけないなんて全く知らなかったから。その当時、僕らにヒット曲があった訳ではないけどさ。去年アルバム制作をしてた頃はセットをうまく作る事が出来なくてライブが出来なかったんだ。トラックの構成をインプロヴァイズするのもあって、自分達の納得のいくライブセットを作るのに大体いつも2ヶ月位かかるんだ。トラックを順番に並べてミックスをするだけの作業じゃないから。曲を細かいところまで分解して、初めて準備万端だって言えるんだ。ものすごく時間のかかる作業だし考える事も多い。アルバム制作のまっただ中にいると、ライブでプレイするという余裕はないから、だからそのタイミングでDJを始めることになったんだ。


Orbital sporting their trademark torch glasses


― 私が最後にあなた方のライブを見たのは1997年のPhoenix Festivalだと記憶しているのですが、セットアップはだいぶ変わりましたか?

Paul:変わったとも言えるし、変わってないとも言えるかな。まだアナログシンセは好きだし、とんでもなく変わったって訳ではないね。あの当時はデジタルシンセも結構入ってたんだけど、今はライブではアナログシンセしか使わない。今じゃラップトップがメインだから、サンプラーも使わなくなったね。909ドラムマシーンと303はまだ使ってる。前はMMT-8シーケンサーを3つ使ってたんだけど、今はiPadが同じ役割を果たしてくれてる。だから以前に比べたら自由が利くようになったと思うけど、セットアップは基本的には変わってないね。やっぱり今でも曲の構成をいじったり、ループさせたり、アナログシンセのつまみをいじったりするしね。

― ニューアルバムのWonkyからは、今日のエレクトロニックミュージックのあり方を意識して作られている事が聴いて取れますが、それを丸写しする訳ではなくいい案配に織り込んでいますね。

Paul:その通りだよ。耳にする事、好きな事から影響は受けるけど、自分にはかなり厳しいからね。実際に自分が耳にしたものをコピーしようと思ったことは一度もない。大抵の場合、そうしたいとも思わないからね。ここ何年かのダブステップのリズムがいいなと思ってるからその方向に行ってしまうのは避けられない事だけど、「ダブステップをやってる若い奴らと張り合わなきゃいけないんだ」なんて意識は全くないんだ。そうやって曲を作ってる訳じゃないから。僕らの今までの音を聴いてもらえればわかるけど、初期の頃はデトロイトとかアシッドハウスよりのサウンドで、その後ジャングルやドラムンベースへと移行した。プログレッシブハウスは常にベースにあったけど、自分達しか出せない味を持ち続けていたいと思うよ。自分が聴くエレクトロニックミュージックがどうしても好きになれないんだよね、何かが足りないんだよ。「それなりにいいんだけど、改善の余地あり」って思っちゃうんだよね。だから結果的に自分がいいと思う形で、どういうサウンドにしたいかという事を考えて作っていくんだ。偉そうに聞こえるかもしれないけど、そうやって自分に挑戦して行くんだよ。

― では、家ではエレクトロニックミュージックをあまり聴かれないですか?

Paul:いいものだったら聴くよ(笑)。ひどい言い方だね。最近のエレクトロニックミュージックはあまり聴きたいとは思わないね。今朝はBobby Oを聴いてたよ。80年代のアンダーグラウンドゲイディスコミュージック。最近のエレクトロニックミュージックよりも遥かにおもしろいよ。昔からずっと好きなオーストラリアのエレクトロニックのバンド、Severed Headsも最近またよく聴いてる。最近のでは何がいいかな?Wolframのアルバムの最後の曲、あれは良かったね。だから最近のものを全く聴かない訳ではないよ。他とは違うっていう理由でUlrich Schnaussもいいね。でも、家に帰って聴きたいと思うのは最近のフォークミュージック。The UnthanksとかJoanna Newsomなんかをよく聴いてる。僕は歌わないし、男だから女性ボーカルものを聴くんだ、自分が音楽上、出来ない事をやってる人たちだね。多分それがエレクトロニックミュージックで僕が引っかかる所なんだ。質の高いエレクトロニックミュージックが作られてない訳ではなくて、そこにすっかり自分が収まってしまっているから他のものから影響を受けるのがなかなか難しいんだよね。

― そうですね、分かります。どのように曲が構成されているか分かってしまうために、聴いていても未知の部分があまり残されていないんでしょうね。

Paul:実際のところそう言う訳でもないんだけどね。君の言う通り、役に立たない要素もあるんだけど、僕からしてみるとハーモニーとメロディーが足りないように聞こえてしまうんだ。ダンスミュージックにしてもそうだけど、フロア向けに作られたものはどうしても単調に聞こえる。でもBobby Oに関してはそうは思わないんだ。だから多分そのときによるんだとも思うけど。80年代のものは皆メロディーとハーモニーに入り込むからすごくいいと思う。ミニマルテクノはサウンド的には嫌いじゃないんだけど、ハーモニーの要素がないからぼんやりしてるよね。だから聴いててもどかしくなるんだよ、あともうちょっとなのにって思ってね。サウンド的には最高なのに、僕が聴きたいと思う音楽的要素に欠けてるんだ。

― 新作を別ユニット名ではなく、オービタルとしてリリースする事に懸念はありましたか?

Paul:実は'Chime'をリリースしたときにそういう話になったんだ。どんなスタイルのものを作ったとしてもオービタルと言う名の下でリリースをしよう、スタイルが変わろうが何だろうが僕らはオービタルなんだ、と。その当時、ちょっと違うハウスのスタイルで何かをやったりしたら、それを別物として扱って別名をつけたり、ピアノハウスのスタイルだったらそれ用のネーミングだし、アシッドハウスならまた別名を考えるっていうシーンの流れだったんだ。それが全て同じ人によるものだっていうのはみんな知ってるんだけどね。僕らはそれをやりたくなかった。何をしてもオービタルでいようと決めたんだ。それが僕らのシンプルだけど曲げられないルール。どんなサウンドであれそれに変わりはない。パンクロックのアルバムを作ったとしてもオービタルでいくよ。実際パンクロックのアルバムを作るつもりはないけどね…。

― 実際に作られたらある意味おもしろいですけどね。最後の質問になりますが、Boards of Canadaはご存知ですか?

Paul:僕が「知ってる」人たちかい?

― ではご存知だと?

Paul:知ってるよ。ハーモニーとメロディーの…あのバンドだよね?

― お聞きしたのはですね、彼らも兄弟でやっているんですけど、その事実を長い事、隠していたんですよ。兄弟だと言う事実がバレたとき、なんて言ったと思います?「バンドを始めた頃はその事実を隠してないと、オービタルと比較されてたからね」って。

Paul:(爆笑)

― どうです、嬉しいですか?

Paul:もちろんだよ。喜ばしい事だよ…うん、多分(急に不安そうになり)分かんないけど…本当は僕らと比べられずに自分達のことをやりたかったんじゃないかな?そういう風に言われて嬉しくは思うけど、反対の場合もあり得るよね。もしかしたら、僕らがクソみたいだから比べられたくないかもしれないよ!

― 単に兄弟だからといって安易に比べる音楽ジャーナリストのせいですよ。

Paul:彼らの口から発せられていると言う事実と、彼らがどういうサウンドかと言う事を知ってれば喜んでいいんだろうね。でも分かんないよね、いや、分かんないよ!そうだ、彼らがもう一枚アルバムを出せばいいんだ。長い事何も動きないだろ?一体何やってるんだろうね!何かしないとダメだよ。僕らがライブでかけてるみたいなライト付きの電飾メガネをかけたらいいんじゃない?(笑)

インタビュー ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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