インタビュー:ブラー

亀裂を修復しつつある今、大人になった彼らが語ること

インタビュー:ブラー

今のところ、ブラー(Blur)はかつてないほど良い状態にある。このバンドがこれほど良い音を奏でたことはこれまでなかったし、聴衆も年を取っただけではなく成長し続けている。成功を収めると同時に、今年のサプライズニューアルバム、 『ザ・マジック・ウィップ』はブラーが単なる懐古趣味やノスタルジアを売り物にすることを未然に防いだ。それは過去の栄光の焼き直しではなく、新鮮かつオリジナルである。ハイドパークの『ブリティッシュサマータイム』のウォームアップショーや、グラスゴーのバローランドでの熱狂的な歓迎がそれを証明している。 デーモン・アルバーンがまるで世界の終末が来るかのような演奏ぶりで『Go Out』などの新曲で楽しませる一方、グレアム・コクソンはラストの『Beetlebum』で苦悶の表情を浮かべながら空中にギターを放り投げ、全観衆に息を飲ませた。


ブラーを軽蔑するのは簡単だ。『ガーディアン』紙はブリットポップの時から、アレックス・ジェームスは放蕩者、デーモン・アルバーンは傲慢、ギタリストのグレアム・コクソンは引きこもり、ドラマーのデイヴ・ロウントゥリーはただ静かなだけ、というレベルまで4人の人柄を要約した。しかし、彼らの歌が言う通り「There must be more to life than stereotypes(人生にはステレオタイプよりもっと多くのものがある)」、ブラーもそこにいる。

解散や公の場での恥を乗り越えてきたこのバンドは、最近では『The Graham Norton Show』(BBCのテレビ番組)に登場し、終始気まずい様子で座りつつ、互いに対する純粋な友情を垣間見せた。何がブラーを前進させ、継続させているのかを彼らに尋ねるなら、逆になぜメディアが彼らを貶すのか、分かることだろう。

ー何が君たちをつなぎ止めているの?


デーモン:できるだけ多くの時間を互いに離れて過ごすこと。

ー新しいアルバムは素晴らしいと思う。それを作り演奏することは再び君たちを近づけた?

デーモン:2009年に僕たちの関係を修復する公道のようなものとして始めた試みが、このアルバムで完成したように感じている。もうバンドには張り詰めた雰囲気はない。これは、僕たち4人が持っている極めて特別な性質だといえるね。

アレックス:若い頃に起こった何かに一生を決められて過ごすのは本当に奇妙なことだ。スポーツマンにはそういうことが起こる。もう最後の決勝戦を果たしたと思っていた。

グレアム:それについてどう言おうと、人々を飛び上がらせたり笑わせたりすることは魔法みたいなものだ。うまく行かないのは、こんな風に思った時だけ。「グレアム、君はもう46だ。少し滑稽だよ」ってね。

ーハイドパークのような大きなショーの前は、今でもナーバスになる?


デーモン:ナーバスじゃない。むしろ、それをするのに必要なだけの体力があるかどうかということが気がかりなんだ。2009年以前はもっと太ってたからね。僕はゴリラズをやってきたけど、それほど人前に出る必要はなかった。肥満ではなかったけど、今より数サイズは大きかった。それ以降はトレーニングを続けるようになった。ボクシングからサイクリングまでいろんなことをやったよ。

ーハイドパークは君たちのセカンドハウスになりつつある。そこですでに2つのライブアルバムを録音しているよね。



アレックス:僕たちのロンドンとのつながりのために、ブラーにとってハイドパークとは特別な共鳴がある。ブラーは実際、典型的なロンドンのバンドだよ。イギリスにいることがどれほど恵まれていることなのか、最近になってようやく気付いた。狭くてひどい国だけど、世界最高の都市のひとつがここにはある。ロンドンではどんなことでも起こり得る。僕がここに着いた時、最初に出会ったのがグレアムだった。これは完全なる事実だよ。ひとつの世代における最高のギタリストが、彼の両親の車から降りてくるところだった。

ーグレアムが率先してこの新しいアルバムを仕上げた。デーモンに聞きたいんだけど、グレアムにコントロールを譲るのは難しかった?


デーモン:そんなことはない、僕は喜んだよ。グレアムにとって、僕に関して言えば、ブラーにおける悪友としてのポジションに復帰する素晴らしい機会だと思った。僕たちは元々は学校で一緒にバンドを始めた。そして、『ザ・マジック・ウィップ』のために僕たちは香港で5日間の間に40時間のレコーディングをした。その後、僕はそれを基本的にはほったらかしにしていた。アルバムに仕上がったのはグレアムの献身のお陰だ。

ーでもこの間の『The Graham Norton Show』での君のポジションから、最近は君がバンドの後部席に座りたがっていることが分かる。君はほとんど無言だったね。



デーモン:そう、あれはひどく愉快だった。(番組内で同席したゲストメンバーが)『X-メン』だか何だか分からないけど(実際は『アベンジャーズ』)、スターたちがプレミアのせいで遅れたせいなんだけどね。自分たちのパフォーマンスの後、僕は脚を上げてくつろいだ。何杯か飲んで、サッカーの試合を見ていた。突然、「君たちはまたテレビに出てるね」という声がしてソファーに座り直した時、僕は自分が思っていたよりも酔っ払って汗をかいていたことに気付いた。ノエル・ギャラガーは、彼はこういう状況に本当に強くて、たとえ不器用でも、いつでも緊張を消す何かを素早く呼び起こすことができる。それに対して僕は、単にすべての緊張を吸収して更に落ち着かなくなるまでそれが現れてる。僕は軽いノリのエンターテイメント向きじゃないんだ。

ーテレビでの失敗にも関わらず、君たちの人気が衰えることはないようだね。今では新しい世代のファンも手に入れた。


グレアム:世界中どこに行こうと、彼らがまだそこにいるみたいな感じだよ。低温保存されていたのがまた起き出したような。でもそうじゃない。このグループを発見して好きになったのは20歳も若い人たちなんだ。

デーモン:多分、それは僕たちが10年間失望し続けたからだと思う。だから僕たちは凍りついた。うまくバランスが取れてる。世界の一部はティーンエイジャー限定なんだ。

アレックス:それが「多分僕にはまだ言うことがある」と考えた理由の一つだと思う。


ーアレックス、君は5人の子どもの父親だ。もしその中に「ロックスターになりたい」と言う子がいたら寒気がするかい?

アレックス:そんなことはない。それは子どもたちの言葉のなかで最悪のものではないね。最近、男の子のひとりが、一番下の子にこう言うよう教えたんだ。「お前のペニスを噛んでやろうか」って。だから、我が家では今その問題に取り組んでいる最中だ。彼女は3歳。実際、彼女がそれを言うと本当におかしいんだ。

ーブラーにいることについて、子どもたちは君を恥ずかしく思ってる?


アレックス:彼らは10年間チーズと一緒に暮らさなくちゃいけなかったから(※)、そんなことはないと思う。


※アレックスは2003年にオックスフォードシャーに移り住み、酪農家としてチーズの生産を開始。ニュー・オーダーの曲名に因んで名付けられた世界初の正方形ブルーチーズである『ブルーマンデー』がイギリスで賞を受賞するなど、その手腕は高く評価されている。

ーチーズの話をしたいのだけれど、どうしてイギリスはこんなグルメたちの国になったと思う?

アレックス:90年代は芸術の10年間だったと思う。90年代の初めにはモダンアートはジョークだった。「アート」は引用符付きで書かれた。でも90年代の終わりには、テートモダンがこの国で一番観光客を惹きつける場所になった。ここ10年間は食べ物がすべてだった。イギリス人シェフはイギリスのロックスターよりも世界中で有名だ。彼らは大忙しだよ。数週間前にあるシェフとテレビ番組で共演したけど、彼は4日間寝てなくて、それでもテレビに出てうまくやってのけたんだ。

ーデーモン、君の『不思議の国のアリス』のミュージカルが間もなく公開される。

デーモン:ええと、『不思議の国のアリス』は今のところ悪夢だよ。監督のルーファス・ノリスがトニー賞に行っていたせいで昨日リハーサルに来れなかった。でも、本当にワクワクしてる。とても野心的で、衣装なんかは常軌を逸している。時間までに間に合うことを願うよ。

ーそれからデイヴ、君は弁護士だ。君が再びロックスターになるためにすべて放り出すことについて、雇い主たちはどう思ってるの?

デイヴ:ゲストリストチケットで彼らを釣らないといけない。

ー最後に、君たちが大人になったのはいつなのか、教えてもらえる?

デイヴ:40歳ごろ、多分、バンドが終わった時。大人であることが、自分たちを見るために10万人の人々がチケットを買うことと、後ろを歩いている誰かが「デザートはいかが?」と聞いてくることとを両立することなら、そこには何の意味もない。


デーモン:僕が大人かどうかは疑問だ。

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By オリバー・キーンズ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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