2015年05月27日 (水) 掲載
菊地さんは携帯電話はスマートフォンですか?
いえ、ガラケーです。ガラガラのガラケー。(鞄を探る)これ、スマホじゃないんでカメラはデジタルカメラを持ち歩いているという。
スマホを持たないのは依存への危惧があってのことなのでしょうか?
スマホというか、パソコンもですけど、ネットというものに強い依存性があるので。ネットをまったくやらないとか、ベジタリアンやヴィーガンみたいなことではさすがにないですが、『YouTube』も観ますし、適度にエロサイトとかも観ますし(笑)。
でも菊地さんは、ネット上でのテキストを通した発信をかなり早い段階から始めていましたよね。
僕は1997年にパソコンを買うやいなやどんどん書いたので。『Windows 95』から20年、つまりパソコンが一般に定着して20年ということですけれども、それ以前というのはパソコンを持っている人は稀だったわけです。20年かけてここまで定着するというのは凄い定着力ですけど。
長くネットで活動してらっしゃるからこその、距離の取り方ということでしょうか。
そうですね、スマホは持ったことがないからわかりませんが、PCに関しては依存しないように予防線を張っています。
四谷三丁目の事務所に移られて2年ほど経ちましたが、かつて庵を構えていた歌舞伎町が恋しくなりなりませんか。
離れたとはいえ、新宿まではワンメーター、徒歩でも夏場は行けなくない距離ですからね。歌舞伎町以外でテリトリーにしていた新宿三丁目は今のほうがむしろ近くなりましたしね。昔は歌舞伎町からえっちらおっちら南下してましたから。
荒木町で飲んだり食べたりしますか?
そうですね、主に荒木町ですね。荒木町はいくつかの辻があるんですよね。私が行っているのは杉大門通りという通り。杉大門通りが入り口から出口までが数百mの小さな通りですけど、良い店、通っている店が密集しているんです。これは普通に雑誌を見て調べたわけですけど、女性誌などが開発しきってますから。
それでは、菊地さんが主催するバンド dCprGが今回発売した新作『フランツ・カフカのサウスアメリカ』についてですが、聴かせもらいまして、前作に比べてかなりソリッドというか、バンドサウンドがかなり固まった印象でした。客演の多かった前回に対して今回はそういったこともなく、バンドの向かう方向を固める意図が当初からあったのでしょうか。
復活後といいますかバンドの2期としては3作目、オリジナルアルバムとしては2作目で、前作『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』とはキーボーディストが丈青から小田朋美に変わりました。つまり現体制としては1作目です。
端的に言って、今作は1期の『構造と力』(2003年)以来の、作曲とアレンジメントをきっちり施したアルバムでして、それ以外の作品はすべてスタジオセッションを編集したものなんですね。我々のライブは3時間とかあるわけでして、それだけでコンテンツオーバーになってしまうわけです。そこにどんどん新たに作曲したものを加えると何かを捨てなくてはいけない。まあ、ロックやポップスで長く活動しているバンドには往々にしてあるストラグルというか、そうした人たちは新たな曲の制作はミッションなわけですよ。歌詞を書いたり。だけど、これは自戒も含めですけど(笑)だいたいそのバンドのキャリアで良いアルバムって初期衝動が含まれているもので、せいぜいファーストからサードぐらいまでのことが多い。10枚も出してるバンドの6枚目とかヤバいじゃないですか(笑)
で、自己模倣を続けるか、潔く辞めるかとか、バンドをひとつの生命体、社会として考えたときに、うちらは1度活動休止を挟んでいて、新しいメンバーで旧レパートリーをやる、ということで4年近くもっちゃったわけですよね。『構造と力』の時っていうのは、曲をコンピューターでシミュレートして、ノーテーションして楽譜を出す、ということやったんですよ。こういうみっちり作り上げた曲というのはレコーディングのためにリハーサルというのを入念にやらなきゃいけないわけですよ。当然、構築的な作品ができる。ただ、それにも賛否があるわけで。いまだに『構造と力』が一番好きというひともいれば、エレクトリックマイルス的なドロドロとしたセッションが聴きたいというひともいた。僕らのやっているサイズのバンドでは、おおざっぱに言えばその2つのパターンしかないわけです。その両極をいっていたと。で、演奏のスキルは2期のメンバーの方がずっと高いわけです。
平均年齢も若いですね?
ええ、よくある話で若者の方が上手いんですよ。年寄りは味があるんですけど、細かいことができないんですよね。『構造と力』のときはジャズ村の先輩方に譜面を渡してふうふう言いながらかなりの手間をかけてやったわけですけど、今はみんな相当譜面が読めるメンバーばかりなので、すぐ形になる。で、2期になってインパルス!レコードと契約する際に、今のメンバーですべきことについてすごく悩んだわけです。つまり、新メンバーの能力をいかした作曲作品で行くのか、それとも、能力があるからこそスタジオセッションを切り貼りしたものをやるのか。その時は後者をとったわけです。その時はヒップホップを本格的にコネクトしようとしていた時期で、SIMI LABを迎えるというのがひとつ方向性で、大谷能生も参加したりして。危険な賭けでしたが。セルフカバーが2曲で、作曲した曲はなしという内容だった。10年間、曲らしい曲をやってなかったわけです。
で、今回のアルバムっていうのは『構造と力2』という計画で始まった。全部作曲曲で、さらに難易度の高いものをやるんだと。若くてスキルがあって譜面の読めるメンバーがいて、とどめに芸大卒の小田朋美が入った。小田さんはいうなれば坂本龍一、渋谷慶一郎に続く、芸大の作曲科を出てクラシックをやっていない3人目の人物なんですね。桁違いに譜面が読めて、キーボードに関してはどんなに難しい曲も弾けると。僕はメンバーの能力のあり方に合わせたことをやりたいので、インプロに強い丈青がいたときはああいうかたちになったわけですが、小田さんが入って、1人変わっただけなんですがバンド全体の雰囲気ががらっと変わって。『構造と力2』をやる、凄いハイスキルでスポーティーなものをやる好機がきたなと。パソコンでシミュレーションしてスコアを出して、曲はすっきりと混沌がなく、シャープでソリッドで構築的なものが並ぶ、そういう構想が決定したんです。それで、僕が作曲した『RONARD REAGAN』、『FKA』 、『GONDWANA EXPRESS』の3曲は、アルバムに向けてライブでサーキットさせていく中で落としていってたんです。現メンバーでは1回リハをやったらすぐライブでできますから。
良い流れができて、なんでもできる状況にワクワクしていたんですね。けれど、僕も自身のレーベルTABOOを立ち上げて、菊地凛子さんとのRinbjöもありましたから、全然作曲する時間がなかった。そこへ、これはなかなか企んでできることじゃないんですが(笑)、長い間僕のパートナーというかA&Rという形でぺぺ・トルメント・アスカラールの創成期や、あと活動休止してもうやらないつもりだったDCPRGを復帰に持っていった張本人である高見一樹という人がおりまして。彼はイーストワークスエンタティンメントを退社して、世界中を飛び回るA&Rからある日突然、浪人状態に変わったんです。それは非常に、羨ましいとこというか、社会的なものを捨てる勇気がないとできないことですが、彼はそれを選んだんですね。で、まあ今作は彼のA&Rではないですから、たまに会ったりはしていたくらいの付き合いで。で、ある日高見君から「MIDIを始めました」というメールが来たんですね。
なるほど、そこで今回の共作につながるんですわけですね(笑)。
そうなんです。はじめはその一言だけが送られてきて。胸がざわついたんですね(笑)50過ぎた男がMIDIを始めると。まあ今はMIDIも敷居が低くなりましたし、高見君はもともと音楽の素養もありますし、大変な音楽マニアですから。趣味で始めたのかな、と、思う一方で胸のざわつきは抑えられず(笑)。そうしたら数日待たずして、「こんなの作ってみました」というメールが来たんですよ。決してdCprGへの売り込みをかけるという態度ではないわけです。「お暇だったら聴いてみてください」と。で、メールには作品が添付されてるんです、もう5曲も(笑)。これは、2つに1つだなと思ったわけです。中年男が始めたカワイイMIDIを友達として聴かされるのか、あるいはひょっとして……と。
で、聴いたらそれが見事に……。
後者だったわけです。もちろん荒削りなんだけど、作風のしっかりした、作曲家として完成されたものだったんです。で、即決で、こういうものを逃しては駄目だと思ってるんで。で、dCprGのアルバム用に僕があと3曲作曲する予定だったんですけど、やめて、高見君に3曲くれと(笑)。
それが、『JUNTA』と『PLSF(PAN LATINA SECURITY FORCES)』と『IMMIGRANT’S ANIMATION』ですか。
そう。僕と高見君で3曲ずつ、そして作風の対照的なそれらを滑らかにするためにパーカッションソロに詩の朗読を乗っけたもの(『VERSE1』〜『VERSE3』)という内容になった。僕が高見君の曲に施したのは、普通のプロデューサーがする仕事というか、曲のポテンシャルを引き出すブラッシュアップだけですね。作業としてはほんの少しです。で、たまたま高見君の曲も僕の曲もM-BASE(Macro Basic Array of Structured Extemporization。スティーヴ・コールマンやグレッグ・オズビーらが提唱したジャズのスタイル)だったんですが、先ほど高見君は決して売り込みできたのではないと言いましたが、送られてきた曲がすべて完全にdCprGの楽器編成なんですね(笑)。「これdCprGの新曲じゃないの?」って返したら、「アレ?そうなってます?」と返ってきて、これは完全にとぼけられたなと(笑)。
そのまま使えるようになっているんですね
だから、どうしようとか言ってる場合じゃないという。彼、すごい量を作ってるんですよ今。今もまさに作業中じゃないかな。もう、デビューしたてのフォークシンガーみたいに(笑)
涌き上がってくるんですね。まさに初期衝動ですね。
一日中やってるんですよ。朝来て、亀に餌やって、シリアル食って、夜まで作曲やって、飲みにいって、寝てという(笑)。
高見さんが量産する曲から選んだ3曲だったんですね。そんな経緯があったとは知りませんでした。
小田さんの加入による変化も、高見君も、すべて自然のなりゆきなんです。狙ってできることではないんですが。
もともとぼんやりと次作はプロダクションを固めたものを、という構想があったなかですべてがハマったと。
そう、横からドカーンときて。高見君の曲はこれはエレクトリックでポリリズムなサルサだから、コーラスを入れなくちゃというところで、以前は僕と大儀見元(per)しか歌えなかったんですが、そこにきて小田さんが歌がものすごく上手いと。3人いればばっちりだと。とにかく誘爆するようなかたちで進んでいったんです。
今回からバンド名がDCPRGからdCprGに変わったのは?
第2期になったときにバンド名を全く変えようかと色々考えていたんですが、曖昧なままで。インパルス!と契約したときに、かつてのようにDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENの略称としてのDCPRGではなく、正式にDCPRGというバンド名に変更して再スタートとしたんです。で、そのあと小田さんが入ってまた新体制になったからまた名前を変えようと。でももう手がなくて(笑)字体を変えるしかないと。でもこれもヒップホップの大文字と小文字を無視するというトレンドと関係しているんですけど。言葉遊びに意欲的なラッパーたちに倣ったんですね。
それほど小田さんが入ってからのバンドの内情は激変していたということですか。
激変してます。最初期からバンドのアイコンであり、あれがあったからマイルスの70年代だと言われていた僕のオルガンもないですし。あれをエレクトリックマイルスの真似だと、怒る人は怒ったわけですが。ブランディングとしては、ワウのついたオルガンはトランペット以上にマイルスなんですね。あれを今回まったくやってないので。僕はシンセとSE、クラーベだけ。あとは、僕と小田さんと大儀見が歌うしね。ステージの見栄えも相当変わってますよ。
エレクトリックマイルスのマナーへの目配せはなく、dCprGの音楽を突き詰めている?
まあ、このバンドを始めたときには、ビートルズのエピゴーネンは腐るほどいるのに、なぜマイルスのエピゴーネンはないのだ、ということから始めたんですね。無邪気に始めて、喜ばれるかと思ったんですが、マイルスファンの右派のひとには今でいう殺害予告のようなものまできたりして(笑)。でまあ、そんな感じでやってたわけですが、それも上っ面だけですからね。曲からリズムからなにから、聴けば全然違うことをやっていることがわかりますし。今回はその上っ面も取ってしまって、マイルスからの影響もなにもなく、音楽的にはM-BASEに差し替えて。ポリリズムもあまりない。
今回はかなり踊れるアルバムだなとおもったのですが。
これについては1期含め、今までの活動と逆相になってて。今までは、こんな曲で踊れるわけねえだろっていう曲が、フロアで爆音で聴くと踊れてしまうっていう。で、今回のは、フロアに来てもらえば分かると思いますが、一聴すると踊りやすいんですが、実際聴くと踊りにくいです。そういう作りになっています。特に高見君の曲は。音のアタックだけ聴いていると踊りやすいんですが、がっつり音を聴き込むとめちゃめちゃ踊りにくいです。M-BASEというのは、音のしりとりになっているんですね。ダンスミュージックというはフレーズのコピペですが、M-BASEはフーガみたいに追いかけあっているんです。同じフレーズがない。フーガと違って拍は共有されているんですが、いつベースやスネアが入ってくるとか、ジェームス・ブラウンみたいにピキっとなってないので、全部ズレてて、暗記できない。マニアックな話ですが。
ダンスミュージックのセオリーとは異なる成り立ちをしていると。
一見ダンスミュージックなんですけどね。「今度のアルバムは踊れるよ!」ってみんな言ってくれるんですけど、「まあライブに来てみ」って(笑)
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