ヘナート&パトリシアインタビュー

ヨガと音楽、日本で経験する刺激的な体験

ヘナート&パトリシアインタビュー

ブラジルはミナスジェライス出身のデュオ、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート。透き通るような歌声と水彩画のように淡いその音楽世界が日本でも高い人気を得ている彼らが、2009年に続いてジャパンツアーを行った。 彼らが近年取り組んでいるのが、サンスクリット語の讃歌、祭詞であるマントラを自身のメロディーに乗せる“マントラ・セッション”。ヘナート&パトリシアともにヨガを生活に採り入れており(パトリシアはヨガのインストラクターでもある)、彼らはヨガを通してマントラと出会い、それを自身の音楽世界に採り入れようとしている。最新作『イン・マントラ』は、09年、鎌倉の光明寺で行われた“マントラ・セッション”を収録したものである。ジャパンツアーの最中である彼らに、ヨガのことや自身の音楽哲学など広範囲に亘って話を訊いた。

昨年に続いての来日ですが、今回の滞在はいかがですか。

ヘナート・モタ:昨年のツアーは初めての来日だったから、とにかく驚きの連続だったよ。でも、そのなかで素晴らしい体験をたくさんできたので、今回は日本の魅力をひとつひとつ再認識してる感じだね。

パトリシア・ロバート:私は光明寺のライブが印象に残ってるわ。そのときのライブがこの作品(『イン・マントラ』)という形になったわけだし。

ヘナート・モタ:光明寺での体験は僕らの今までの体験のなかでも最高のもののひとつだね。改めて『イン・マントラ』を聴いてみて、その録音技術にも本当に驚かされたよ。

その『イン・マントラ』については後でじっくりお聞きしたいのですが、現在の住まいはベロ・オリゾンテ(ミナスジェライス州の州都)なんですか?

パトリシア・ロバート:1年前にベロ・オリゾンテ郊外のカーサブランカという街に引っ越したの。ベロ・オリゾンテから40分ぐらいの場所よ。

ヘナート・モタ:自然が溢れていて、山に囲まれてるような街だよ。僕らの家の裏にも滝が流れてるんだ。

そういう環境で生活することによって、音楽制作にも影響があるんじゃないですか。

ヘナート・モタ:うん、あるね。僕らは、自然から得られるエネルギーを、音楽を通じてポジティブに表現しようとしているから。自然が持っているスピリチュアルなエネルギーは僕らにとって大切な栄養のひとつなんだよ。

ところで、2人がヨガを始めたのはどういうきっかけだったんですか。

パトリシア・ロバート:私が始めたのは04年。1年間ヨガのインストラクターになるための勉強をして、05年からはインストラクターをやるようになったの。ヨガを始めたのは、内面から沸き上がってくるような思いがあって、自然に始めることになった……としか表現しようがないんだけど(笑)。でも、実際にやってみたらものすごくしっくりくるものがあったし、ヨガをやってる人たちともすぐに家族のような関係を作ることができてね、それからは1日も欠かすことなくヨガを続けてるわ。

ヘナート・モタ:僕らがやってるのはクンダリーニというヨガなんだけど、クンダリーニでは瞑想に重きが置かれていて、そのなかでマントラが重要な意味を持っている。僕らは音楽家だから、すごく音楽的でもあるマントラに強く惹き付けられたんだ。

ブラジル国内でヨガはどんなふうに捉えられているんですか?

パトリシア・ロバート:徐々に注目されるようになってきたわ。近代社会のなかで生きていく際、ストレスなどと無縁で過ごすことは難しいと思うんだけど、その面でヨガは必要不可欠なものになってきてる。それはブラジルに限らないと思うけど。

ヘナート・モタ:精神の安定や集中力を高めるために必要な技術のひとつでもあるからね。僕らにしても、ヨガをやるようになってから世界に対する接し方が変わってきたと思う。もっと柔らかく接するようになったというか。ヨガをやる前とは僕ら自身まったく変わったと思うよ。

“世界に対する接し方”とは、具体的にいうとどういうことですか?

ヘナート・モタ:世界に対する態度が変わったんだよ。身の回りのものすべてに対して意識が向くようになったというか。自分が抱える問題に対する忍耐力がついてくるようになるし、そうすると他者に対する忍耐力も生まれてくる。そうすると他者を許容できるようになるんだよね。要は、相手の立場になって考えられるようになるし、そのことによってコミュニケーションがスムースに運ぶようになるんだ。

パトリシア・ロバート:すごくいいことが起きても浮かれすぎない、その代わり悪いことがあっても動揺しない、そういう心の有り様をヨガでは“ニュートラル・マインド”っていうんだけど、常にニュートラルな気持ちで過ごせるようになったわ。

ヨガを通して世界との調和の仕方を学んだ、ということですか?

ヘナート・モタ:そのとおりだね。僕らは音楽をやるうえで“世界との調和”がとても大事なことだと思ってるからね。

先ほど話にも出ましたが、近年はマントラを採り入れた表現方法に取り組んでいますね。

ヘナート・モタ:マントラは現在も世界中で唱えられ続けている。それぞれ各自のスタイルでね。僕らはそれをブラジルのリズムとハーモニーに乗せて歌おうとした。すごく自然な流れだったんだよ。マントラの言葉にメロディーやリズムを加えて、より活き活きとしたものにすることができると思ったんだ。例えば、厳格な内容のマントラには厳格なメロディーとリズムを加える。そのことによってそのマントラが新たな光を放つようになるんだ。

パトリシア・ロバート:マントラの言葉自体は神聖なものだからイジってはいけないんだけど、そこにどんなメロディーを乗せるか、その点は自由なのよ。

ヘナート・モタ:ただし、オリジナルの楽曲を作るときとは違って、責任を伴う作業だよね。神聖な言葉にメロディーを乗せるわけだから。それと、僕はリスナーにエネルギーを与えるような音楽を作りたいと常に思ってるんだけど、マントラにメロディーを乗せる場合はさらにそのことを強く意識してるかな。

2人にとってやりがいのあることでもある?

パトリシア・ロバート:そうね。

ヘナート・モタ:とてもクリエイティブな作業だと思うし、僕らの音楽表現を豊かなものにしてくれているよ。

昨年、光明寺で行われた公演は、沢田穣治(コントラバス)、ヨシダダイキチ(シタール)というお二方を招いた“マントラ・セッション”でもありました。その模様が最新作『イン・マントラ』に収められたわけですが、当日のセッションはいかがでした?

ヘナート・モタ:とても特別な体験だったよ。まず、サポートのミュージシャンたちと1回しかリハーサルしなかったんだから。それにも関わらず、完璧な演奏をすることができた。きっとグルが僕らを導いてくれたんだろうね(笑)。

パトリシア・ロバート:それと、場所そのものの気にも圧倒されたわ。神聖な気を感じたし、そこで手を合わせるだけで開放された気持ちになれたの。

ヘナート・モタ:光明寺のような場所で歌うのは特別な体験なんだ。なんというか、僕らの魂が音楽を奏でているような状態になれるからね。自我や意識を超えたところで音楽を奏でられるというか。

その点、教会で歌うのとも同じ?

パトリシア・ロバート:そうね。教会で歌うときにも特別なエネルギーを感じるから。

ヘナート・モタ:場所それぞれに異なるエネルギーがあるし、それに何らかの影響を受けるのは確かだよ。ただ、マントラを奏でる場合、光明寺のような場所で歌うのは特別だね。

今回のジャパンツアーでもさまざまなミュージシャンとのセッションが控えていますね。

ヘナート・モタ:セッションをしたことのないミュージシャンと音を奏でるのは、僕らにとっても刺激的な体験なんだ。まだ演奏を一緒にやったことのないミュージシャンと競演することで僕らの音楽世界に新しい色彩が加わることにもなるし、特に異国のミュージシャンと競演するとなると、異なる文化同士が結婚するようなところがあってね、僕らにとっても予想外の結果になることがあるんだ。なによりも僕ら自身がそのセッションを楽しみにしてるんだよ。


ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート『イン・マントラ』
2600円(税込)


ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート ジャパン・ツアー2010『イン・マントラ』

ツアー2010最新情報はこちら(www.nrt.jp/blog/renato_motha_patricia_lobato_j_1/

日程:2010年11月3日(水・祝)
場所:鎌倉 cafe vivement dimanche
時間:19時30分開場、20時00分開演
料金:4000円(税込)1ドリンク付き
出演:Renato Motha - vocal, guitar
Patricia Lobato - vocal, percussion

日程:2010年11月6日(土)
場所:東京 表参道 EATS and MEETS Cay
時間:*マントラ・セッション
1st 15時00分開場、16時00分開演
2nd 18時30分開場、19時30分開演
料金:前売5000円/当日6000円 (2ステージ・入替制/飲食代別途要)
出演:Renato Motha - vocal, guitar Patricia Lobato - vocal, percussion 沢田穣治 (Choro Club) - contrabass ヨシダダイキチ - sitar Maya - harmonium, etc U-zhaan - tabla *本公演のみ出演
ヴェーディックチャンティング・セレモニー:木下阿貴(STUDIO JYOTI)

テキスト 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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