インタビュー:ジェイソン・クルーズ

「誰か一人抜けても決して成り立たない」―結成20周年バンドのフロントマンが語る

インタビュー:ジェイソン・クルーズ

Photo by Shoko Saito

結成20周年を迎えたメロディック・パンク界のベテランバンド、ストラングアウト(strungout.com)。バンドのフロントマンをつとめる他、アーティストやソロシンガーとしての一面をもつジェイソン・クルーズに今までの20年のこと、震災後の来日をどう感じているかを聞いた。

―ツアーはいかがでしたか?

Jason : 最高だったよ!日本はいつでも暖かく俺たちを迎え入れてくれるからありがたいね。名古屋の小さなクラブでローカルのバンドと一緒にライブをしたのも、すごくよかったよ。もしまた日本に戻ってくることがあるなら、そのときはもっと多くのローカルのバンドとツアーをまわってみたい。

―どのようにしてストラングアウトを始められたのですか?

Jason : 結成したのは1991年で、そうだね、ちょうど90年代パンクが流行出す少し前のことだったかな。だからいいタイミングではあったと思う。その当時はバッド・レリジョンやソーシャル・ディストーション、アイアン・メイデンなんかに影響を受けていたね。

―メタルミュージックからもかなり影響を受けられたのですか?

Jason : うん、でも最初の頃はパンクミュージックからの影響の方が強かったかな。サウンドにメタル色が出てきたのはもうちょっと後の方だね。

―メンバーとはどのようにして出会ったのですか?

Jason : 地元が一緒だった。郊外の小さな町で一緒に育った仲間だよ。そんな小さな街だから、その当時パンクを聴いている奴なんてそうはいなかったからね、すぐに意気投合してつるむようになったんだ。 そこからあっという間に20年。

―20年も同じメンバーでバンドを続けていける秘訣はなんでしょう?友達にしても恋人にしても、数年でもきちんとした関係を続けるのはすごく大変なことですよね。

Jason : 自分でもどうしてかさっぱりわからないよ。毎日どうしてなんだろうって思う。若い奴らが俺にアドバイスを求めてきたら、常に自分を客観的に見据えて落ち着いて行動をとることが大切だって言うようにしているんだ。20年も一つのバンドを続けるということは冗談抜きで生半可なことじゃない。どんなに仲良くてもお互いを敬う気持ちを決して忘れてはいけないと思う。親しき仲にも礼儀ありだからね。ある程度の距離も必要だし、お互いの違いも個性のうちで、それがストラングアウトのサウンドをより深いものにしていると思うんだ。それでうまく機能するならいいんじゃないかな。

―お互いを敬う気持ちはどんな関係においても一番大切なことですよね。

Jason : その通りだよ。人生においてそれが一番重要なことだと思う。恋愛にしろ、ビジネスにしろ、音楽にしろ、アートにしろ、何にしろ、いい関係を築いていくのは本当に大切なこと。うまくいかないからってそこから逃げたりしたらダメなんだ。パートナーとうまくいかない、じゃあそこから逃げてしまおうっていうのは違うだろ?それをやってしまうと、他の人とも結局同じ過ちを犯すことになるから。どうやったら軌道修正できるか考えて、それに向かって努力しないといけないんだ。

―2003年位から継続してライブを拝見していますが、いつみても全く古さを感じさせません。20年一つのバンドでやってきて、どのようにして常に新鮮なサウンドを作り続けられるのですか?

Jason : それは多分メンバー間ののぶつかり合いが生み出すものなんじゃないかな。メンバー一人一人違う畑からきているからね。俺はアコースティックでこんなカントリーミュージックやっているし。他のメンバーはメタルとかもっとハードな音が好きだから、それを一つにまとめようとすると当然衝突が生じる訳で。でもそれがストラングアウトのサウンドを作り出しているんだ。言ってみれば化学反応だね。日常生活では決してうまくやっていけるとは思えないバラバラの個性のメンバーでも、ひとたびステージに上がればいい化学反応が起きる。誰か一人抜けても決して成り立たない。同じメンバーで長いことやってきているからこそこういう化学反応を起こせるんだと思うよ。

―これだけ長いこと活動されていると様々な国や都市をツアーされたと思いますが、そのなかでもお気に入りの場所はありますか?

Jason : ヨーロッパとやっぱり日本がすごく好きだね。母親がヨーロッパ系だし、ヨーロッパの魂が宿っているからね。日本に関しては理由を聞かれても好きだからとしか答えられないくらい好きだね(笑)。都会が好きだから、東京も大阪も大好きだよ。エネルギーに満ちているところとか。日本人のファッションのスタイリッシュなところもいいね。

―ツアー中、珍事件はありましたか?

Jason : もう毎度のことだよ!人に言えることから言えないことまでね。(笑)とにかく無事に家に帰れることを願って毎回ツアーに出ているよ。何度も飛行機に乗ったり、長時間運転もするから尚更。今まで何もなかったことに関しては本当に感謝してる。今回のツアーに関しては、スケジュールがかなりタイトだからクレイジーなことをする暇もなかったよ。日本でのライブは終わる時間が早いからその後スタッフも含めて飲みに行ったりもするけどこれといった珍事件はなかったな。あ、でも前回の来日の時は大変だったんだよ。いい雰囲気の焼き肉屋に連れて行ってもらったんだけど、かなり酒が入っちゃってさ…カンパーイ!バーンって具合にグラスをテーブルに叩き付けて割れたグラスの破片で指を思いっきり切っちゃってさ…そこら中血だらけだよ、焼き肉まで血まみれ。あれはマジでありえなかったな、本当にバカなことしたよ(笑)。ツアーの最終日だったからよかったようなものの…日本語のできるスタッフが慌てて夜中、救急病院に連れて行ってくれたんだけど、道中のタクシーも血まみれ。あれはトラウマだね(笑)

―(笑)世界中にファンがいますよね、ストラングアウトの音楽がファンに与える影響についてどう思われますか?タトゥーを入れている忠実なファンも沢山いますし、ストラングアウトの音楽を聴いて人生が変わったといファンもいると思いますが…

Jason : 俺たちの音楽が人の個人的な部分に踏み込んでいるってことを考えると複雑な気持ちだよ。周りの人のことを気にしすぎてそれに捕われてダメになることってあるだろ。だからなるべく気にしないようにはしている。みんなの期待を背負ったり、自分のやっていることがみんなにどんな影響を与えるかを考え込みながらやっていたら自分の書くものにどんどん制約を設けることになってしまう。聴いてくれている人のおかげでこういうことを生業にできることに関しては本当に感謝している。でもその中でずっと立ち止まって考え込む訳にはいかないんだ。やっぱり、どうしたら自分がより良い自分になれるかも考えていかなきゃいけないからね。

―ストラングアウトとしての初来日は1996年でしたっけ?かなり前のことですが、それから新しいファンも増えたと思います。昔ながらのファンはまだ見かけますか?

Jason : うーん、もう見ないね。日本ってちょっと変わっていると思うんだ。日本人が何を欲しているのかがはっきり分からないから、もしかしたらもっと有名なバンドと一緒にツアーに来た方がいいのかなとも思うし。日本人の音楽的趣向を理解するのは難しいね。東京、大阪、神戸なんかの大きな都市でやってはきたけど、なかなか掴むのが難しい。反対にアメリカの方が分かりやすい気がする。だから、何度も来日して感覚を掴む必要があるだろうね。日本には5回位ツアーで来ているけど、結構、間隔があいていたからなかなか流れを掴めないね。以前やったことあるように、また他のバンドとパッケージでツアー来日してみたいね。単独来日とはまた違う良さがあるからね。

―震災後初めての来日ですよね?

Jason : そうなんだよ、正直なところ若干迷ったけど、音楽を通じて傷ついた日本の人たちに何かできることがあるんじゃないかと思って来日を決めたんだ。俺たちもカリフォルニアにずっと住んでいるから、地震がどんな脅威かっていうのは想像はついていたから、来日を決めて本当に良かったと思っている。日本という国とその人々の立ち直りの早さには本当に頭があがらない。福島原発のメルトダウンに関しても、日本が原発のリスクを世界中に知らしめてくれたからこそ、多くの人が現実に目を向けるようになったと思う。カリフォルニアでもつい最近、放射能漏れ事故があったしね。メルトダウンは間違いなく悲劇だったけど、原発のリスク等、そこから学ぶことも沢山あると思う。

―放射能汚染の事実を知った上での来日だったんですね、それに対する恐怖心はありませんでしたか?

Jason : もちろん知っていたけど、だからってどうすることもできないだろ?一生不安を抱えて生きてく訳にはいかない。本当のところは誰も分からないんだし。

―ファンは本当に来日を心待ちにし、喜んだことと思います。先日のステージでも震災に関するメッセージに心を打たれました。

Jason : そのメッセージをみんな受け取ってくれていたらいいんだけどね…もっと日本語が話せたらって思うよ。自分も一児の父親になってより一層、家族や友達との絆が一番大切だと思うようになったし、極端な話その他のことなんてどうだっていいんだ。だから、もちろんまだ試練は沢山残っているだろうけど、大体において日本のみんながこうやって元気でいてくれて本当に嬉しいよ。

―震災から一年の3月11日には名古屋でライブがありましたね、どうでしたか?

Jason : さっきもいったように、やっぱり言葉の壁があるから日本のファンとコミュニケーションを取るのはどうしても難しいんだ。俺は日本語が全く分からないし、ファンの殆どは英語ができないって事実はすごくもどかしいよ。誤って解釈されたり、言いたいことがちゃんと伝わらないのは怖いから、俺たちにできるのはいいライブをすることのみ。みんなとコミュニケーションが取れればどんなにいいかって思うけどね、いつも悩むところだよ。

―震災後、何人ものミュージシャンが音楽には人を癒す力があると言っているのを耳にし、ストラングアウトの皆さんもそう思って来日してくださったのは本当にいち日本人として嬉しいことです。

Jason : 音楽をやってきてそういう力を持ち合わせていることを誇りに思うよ。分かり合うために、言葉も触合いも必要ない、音楽さえあればいいからね。


インタビュー:ジェイソン・クルーズ Part 2に続く

インタビュー さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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