2014年09月03日 (水) 掲載
ナイトクラブ界隈が慌ただしくなり始めたのが、2012年の秋ごろだった。タイムアウト東京でも当時、風営法とダンスに関する現状を伝える『日本でのダンスはご遠慮ください』と題した記事を掲載し、国内外から多くのアクセスを集めた。あれから2年が経ち、今秋の臨時国会に向けて、風営法の改正案がいよいよ固まりつつある。
●風営法改正に向けて
2014年7月30日、警察庁の有識者会議『風俗行政研究会』による関係団体へのヒアリングが行われた。出席したのは、『Let’sDANCE法律家の会・署名推進委員会』、『クラブとクラブカルチャーを守る会』、『日本ナイトクラブ協会』など「ダンスをさせる営業」業界関連団体10組と、『六本木商店街振興組合』をはじめとした商店街振興組合など4組。
「ダンスをさせる営業」業界が共通して訴えたのは、ダンスから生まれるコンテンツを文化、経済において有効活用する面でも、業界の健全化を目指す上でも、現行風営法が障害となっているという点だ。
現行風営法は客にダンスをさせる営業を、風俗営業として厳しく制限している。ほとんどの事業者が法的にグレーな状態で営業しているというのが現状だ。それゆえ、業界が警察や地域と連携して健全化しようとする取り組みでさえ困難になっている。
現行風営法の不備がより浮き彫りになったのは、2012年に摘発されたナイトクラブ NOONへの、大阪地裁による無罪判決だった。 ナイトクラブNOONが公訴されたのは、「店内において、ダンスフロア等の設備を設け、不特定の来店客である◯◯◯◯らにダンスをさせ、かつ、酒類等を提供して飲食させ、もって許可を受けないで風俗営業を営んだ」(原文ママ)という理由からだった。しかしながら、2014年4月に下された判決よると、「性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる営業が行われていたとは、証拠上認めることができない」(原文ママ)ことから、「風俗3号営業を無許可で営んだ」とはいえないとして、無罪が決定した。 NOON裁判 無罪判決全文
そして、2014年5月には規制改革会議の「国民の選択肢拡大」の項目のなかで「ダンスに係る風営法規制に見直し」に関する答申を受け、2014度中の風営法改正が閣議決定された。 クラブなどでのダンス規制の改正を目指す超党派の国会議員で結成された『ダンス文化推進議員連盟』は、法改正案を作成。議員立法での国会提出を目指した。 主な内容は ・クラブを風営法の「風俗営業」の規制対象から除外する ・その代わり新たにクラブのための「ダンス飲食店営業」「深夜ダンス飲食店営業」という業態を創設する ・午前0時までの営業に関しては届け出制、午前6時まで営業する場合は許可制とする ・立地や面積の要件も大幅に緩和し、床面積200平方メートル以下の小バコ~中バコと呼ばれる規模のクラブの営業場所を拡大。カラオケ店と同程度の制限にする ことなどを盛り込んだ。しかし、保守派議員による「クラブは犯罪の温床である」という指摘のため、自民党内で了承を得られず当国会での提出は見送られた。 その後、国家公安委員長が秋の臨時国会に向けて法改正することを表明。風営法は、議員立法ではなく閣法での法改正へシフトした。そして現在、『風俗行政研究会』が先のヒアリング結果をまとめて警察庁に提出し、警察庁が法案を策定しているという状況である。
●クラブは危険ドラッグの温床?
新風営法が、現場の実態に即し、事業者やアーティスト、そして地域住民たちにとってより良い環境を与える法になるためには、「ダンス=いかがわしい」「クラブはドラッグの温床」であるという前提で話を進める人々の存在を意識しなくてはならない。
2014年8月、「クラブ来場者の2割が危険ドラッグを経験している」といった内容の報道記事が公表されたのをご存知だろうか。記事の元となったのは2013年に厚生労働省の研究事業として独立行政法人国立精神・神経医療研究センターが作成した『クラブ来場者における違法ドラッグの乱用実態把握に関する研究(2013)』だ。
クラブ来場者における違法ドラッグの乱用実態把握に関する研究(2013)
しかし、この研究結果の解釈に対しては、早稲田大学法学部准教授の岩村健二郎が発表した『「ダンスとドラッグ調査」報告』の中で「(厚労省による)研究データを根拠に「クラブ」と「ドラッグ」を関連付けることはできない」ことが論理的に説明されている。
また、同報告の中では、岩村のワーキンググループを始めとする各業界団体が2日間に渡ってクラブやダンス教室の利用者1616人を対象にアンケートし、ドラッグ利用経験者は1616名中36名の2.228%、厚労省の調査結果の約10分の1となったアンケート結果を公表している。
「ダンスとドラッグ調査」報告 全文
同報告に加えて、先の厚生労働省による研究データ内では脱法ドラッグ経験者における使用場所は、自室が37.3%、友人・パートナーの部屋が36.0%、路上や公園が21.3%、車内が18.7%と報告されており、クラブはそれらに次ぐ16.0%という数字になっている。
刑法の国際的権威である京都大学の高山佳奈子教授はそれらのデータを元に、「クラブは、社会的疎外感を持つ若者を受け入れ、人目のある場所に集めることで、薬物濫用を抑止している」、「クラブでは、仲間とのつながりや人目の存在を意識できることにより、犯罪全般を防止する効果も期待できる」といった見方もあるとしている。
そういった指摘がある中でも、あくまで風営法内でドラッグや犯罪にまつわる問題を管理したいという警察の姿勢は変わっていない。ダンスをさせる営業に該当する店の一部は危険ドラッグや薬物依存の温床であり、薬物売買や使用容疑の問題があるという主張によって、抜本的な法改正が憂慮されてしまうのは避けたいところだ。
6月の時点で警察から出された改正案の内容は、立地規制や面積要件に関して厳しい規制を課すものだった。立地規制には「深夜は大規模な繁華街のうち指定した地域のみ可」、面積要件には「ダンスフロア:66㎡、その他遊興:9.5㎡」という文言が記されており、これでは一部大型ナイトクラブのみにダンス営業を集約させることになってしまう。 各関係団体もパブリックコメントで提言していたことだが、風営法の中で大網にかけて規制をするのではなく、犯罪やドラッグ、騒音問題に関しては別法で取り締まる、またはより柔軟で細やかな規制を設けることで、文化の多様性を伸ばして行くべきではないだろうか。
これまでグレーゾーンで営業してきた小バコ〜中バコといった、カルチャーの良質な部分を養う環境を排除することになってしまうような状況は避けなくてはいけない。法改正に動く人々は、文化を殺す悪法が生まれてしまいかねないこの状況に危機感を持って活動をしている。 新風営法が、真に「健全で意欲的な事業者を伸ばし、問題ある事業者を正し、正せなかった事業者には厳しいペナルティを課して撤退させる、業界を健全に成長させる」ことを目指す法律となることを願いたい。
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