2010年01月11日 (月) 掲載
お茶の間からコアなミュージックシーンまで自然体で軽やかに行き来し、世代、ジャンル、国境を越えて支持を集め、リスペクトされている、この70歳を越えたロックミュージシャンは、日本の音楽シーンの中で唯一無二の存在だ。ロックの反骨精神を支柱に据えながらも柔軟でソフィスティケイトされた彼の楽曲、歌詞、ギタープレイ、そして日本的湿っぽさを感じさせないボーカルは、モダンでオリジナリティ溢れる独自の世界を作り出し、海外のアーティストや楽曲の影響を受けながらも自分たちのスタイルを確立しようとしてきた日本のミュージシャンたちの手本となった。そんなムッシュかまやつが、ここ最近熱心に取り組んでいるのが”ブルース”だという。何が彼を今、”ブルース”に向かわせたのか。自身の71回目のバースデーでもある1月12日(火)に、ブルーノート東京で『ブルース・ザ・ブッチャー』とライブを行う彼に話を聞いた。
ブルースをやろうと決めたのはどうしてですか?
M:本業はロックンロールなんだけど、ロックンロールの原点って、黒人のブルーズと白人のカントリーミュージックだから。やっぱり、僕の場合は、ルーツミュージックをもう一度やってみようかな、って思って。年齢的なこともあるんだけどね。若い人の音楽はすごい過当競争でさ、体力的に競えない。チャートを賑わすような音楽は、追いかけきれなくなってきた。でもこないだ、キース・リチャーズのインタビューを見たら、キースもそんな風に言ってたよ。「かつてはサティスファクションから始まって、チャートを賑わすような曲をミックと一緒に狙ったもんだけど、俺たちはもう違うんだ、心を決めたんだ」ってね。僕も決めたの。まかり間違って当たっちゃうのは大歓迎だけどね。(笑)
特にきっかけみたいなものはありましたか?
M:それはね、『ブルース・ザ・ブッチャー』っていうブルースのバンドに出会ったからです。とにかく、理屈ぬきに一緒にやっていて面白くてしょうがないのね。60歳を過ぎるくらいから、今まで何でもやってきたからってわけじゃないけど、なかなか面白くなれないんだ。ある種、経験し過ぎてしまってね。だから今はブレークする前のスパイダースの時の気分。こんな気持ちになることはもうないと思ってたけど、あるんだよ。久しぶりにギターも買ったしさ。
キャリアを重ねて来たからこそ味わえる面白さがあるんでしょうか?
M:そうかもしれない。あと、あのバンド(ブルース・ザ・ブッチャー)がすごい受け皿になっているから、僕が好きなことをできるんですよ。ブルースベースってあるじゃない、スリーコードの。その中で自分がどれくらいアイディアがあるかなってことをトライできるのね。普通のバンドだったら、パートがきちっと譜面に書いてあって、作り上げていくものなの。あんまり好きなことはできない。だけど、今やっていることは、その時の気分に応じて、ある種インプロビゼーションみたいな感じでね。それがすごく楽しいのかもしれないな。
自分のパートを超えて、メンバーとキャッチボールしているような感じですか?
M:僕はB型なんですけど、他のメンバーはみんなA型なの。良くできてるもんだよね。偶然だったんだけど。だから、僕がいろんなことやっても、みんなが受け止めてくれる。僕がちょっと発狂したりしても、それについてきてくれるんだ。(笑)
A型に支えられてるんですね(笑)
M:昔、若い頃はA型って苦手だったんだよ。最近は、A型がいてB型がいるんだなって思います。 (笑)
さきほどチャートの話をされていましたが、最近はCDが売れなくなってきて、音楽業界が元気がなかったりします。これから音楽がまた元気になるにはどうしたら良いと思いますか?
M:聞き方が変わってきたからね、違う価値観が生まれると思うんですよ。今までは逆にチャートってところから始まって、あと露出とか、そういうものがひとつのショウビジネスの価値観の原点だったんだけど、これからはどんどん変わっていくと思う。それが何であるかはわからないけどね。誰でもエントリーできるようになったじゃない、自分の作品を。それはすごく良いことだと思う。突拍子のないものが出てくる可能性もあるしさ。だけど、たくさんキャリアを持っているようなやつらは皆、今の状況に戸惑っているよね。
そんな中で”発狂できる”っていうのは良いですね。
M:そうね。それかなって思う、僕の突破口は。つまり、面白くなければ、音楽やっててもしょうがないわけで。ちょっと、みんな、ビジネスマインドに行ってたから、それが一度崩壊してしまうのは良いことだと思うな。ホントに好きなやつだけがやっていくことになるだろうし。ホントに好きでやってるんだなってやつにたまに出会うと、すぐわかる。すぐに心の中で友達になれるから、すぐにセッションできる。だから淘汰されるんじゃない?ミュージックビジネスの人と、ミュージックをやりたい人と。
年齢やキャリアなどに関係なく、いろんな方とセッションしてますよね?
M:ある種、先住民的な感覚。獣みたいなやつの方が、好きになったら、わっ、ていくじゃない。ナチュラルでリアルなやつがやり続けると思う。(マッチでたばこに火をつけながら)今どこか、山奥の中でとつとつとやっている人が一世を風靡するんだと思うな。プレスリーもビートルズも全部そうじゃない?誰も予知していないところから出てくるのかなって気がする。ショウビジネスの方は守りに入るわけで。守って、守って、守って。だから、それ以外だよ、出てくるのは。
ムッシュに音楽への興味を持たせ続けているものは何でしょう?
M:ザ・バンドのウェイトを作ったロビー・ロバートソンが、自分の中にたぶん賛美歌が入ってたって言うのね。パクったんじゃなくて、自分の頭の中にいっぱいあったんだって。あの曲は僕にはすごくゴスペルみたいに聞こえてて。彼のインタビューを見て、ああ、やっぱりねって、そう思うわけ。そこでまた一歩音楽の世界にひきこまれるの。これからもそういうのが永遠に続いていくんだろうな。僕はやっぱり、ヨーロッパの教会音楽をもとにしたイギリスの音楽に惹かれて入ったもんだから、これからも死ぬまでそれを卒業できないと思う。ちょっと入れるとしたら、アイリッシュ系の音楽。邦楽は駄目。はっきり駄目だってわかった。(笑)いろんなトライもしたけど、自分の中にそういう細胞がないんだね。自分の中に細胞があるかないかっていうことを、50歳を過ぎてから早めにわかるようになった。ジーン・ビンセントとか、エルビス・プレスリーとか、あっちの細胞はあるんだよ。ビートルズの細胞はなかったんだけど、スパイダースの時、一生懸命やってた。それで学習したの、僕の中にビートルズはないって。(笑)
ビートルズはなかったですか?
M:ないね!ないってことがわかった。(笑)やっぱりマディー・ウォーターズとか、あんまり聞いたことなかったけど、そっちの才能の方があるかなって。 それから、ビートがすごく大事。あとはグルーヴね。アフリカとか行くと、お酒も何も飲んでいないのに、良いグルーヴがくると、シラフで皆、めちゃめちゃ踊るらしいのね。それって、細胞でしょってことだよね。 何にもない小島の一角で、言霊が聞こえてくると踊っちゃう。そうい風になりたいね。にんじんがなくても、踊りたいよ。
ムッシュかまやつプロフィール
1939年1月12日、東京生まれ。50年代から音楽活動を開始。60年代にはザ・スパイダースに加入。『ノーノーボーイ』『バンバン』『フリフリ』などのヒット曲を世に送り出した。ザ・スパイダースはロンドンなど海外でもリリースされ、ヨーロッパツアーも行った。グループ脱退後はソロ活動に転じ『我が良き友よ』が大ヒット。同曲を収録したアルバムではタワー・オブ・パワーとの共演も果たした。90年代には『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』がアシッドジャズ、渋谷系文脈で再評価され、ブラン・ニュー・ヘヴィーズなどとの共演を収録した『Gauloise』が若い世代のファンを獲得した。その後、タワーレコードから女性ミュージシャンのみで録音された『Callas』、アラン・メリル、大口ひろし、ルイズルイス加部と組んだウォッカコリンズの再結成アルバムを発表している。
09年には、数多くのゲストを迎えたアニヴァーサリー・アルバム『1939~MONSIEUR』を発表。同年9月には、永井ホトケ隆、沼澤尚らの参加するネオ・ヴィンテージ・ブルースバンド『ブルース・ザ・ブッチャー』と『Rockin' with the Monsieur』を発表した。
アルバム『ロッキン・ウィズ・ムッシュ』で、彼らにとっての現在進行形の"ブルース"を聴かせてくれたブルース・ザ・ブッチャーズとムッシュかまやつが、ブルーノート東京に登場。彼らの真骨頂はやはりライブ。円熟味あふれる安定した演奏の中で、時折、緊張感をともなって行われる丁々発止のインタープレイに目が離せない。この日はムッシュの71回目の誕生日でもあり、楽しくも刺激的な夜になるに違いない。
出演者:ムッシュかまやつ (vo,g)、永井”ホトケ”隆 (vo,g)、沼澤 尚 (ds)、中條 卓 (b)、KOTEZ (vo,harp)
日時:1月12日(火)19時開演、21時30分開演
場所:ブルーノート東京
料金:6300円(税込)
ウェブ:www.bluenote.co.jp/jp/artist/blues-monsieur-kamayatsu/
『ロッキン・ウィズ・ムッシュ』
永井ホトケ隆、沼澤尚らによるブルース・ザ・ブッチャーとムッシュかまやつの共演盤。往年のブルーズの名曲達がベテランミュージシャン達による守りに入ることのない"攻め"の取組みによって、新たな息吹を吹き込まれた好盤。決して妥協しない本物達の緊張感をたたえながらもリラックスした演奏の聴けるこのアルバムは、海を渡ってやってきた"ブルース"の日本人によるひとつの成熟の形として貴重な一枚。
2009年9月2日発売、Pヴァイン・レコード
ウェブ:bls-act.co.jp/music/2204
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