インタビュー:タイヨンダイ・ブラクストン

問題作を引っさげ、EYヨや宇川直宏との競演を控える異才。

インタビュー:タイヨンダイ・ブラクストン

ラップトップベースの音楽制作が台頭し、作品を際限なく作り込むことが可能になり、手触りばかり新鮮な音楽作品が溢れた2000年代。あの混沌のなかで突然現れた怪物が、バトルスだった。当時、体のいい入れ籠のように使われていた「ポストロック」という言葉が無味乾燥に感じるほどに圧倒的な作品をリリースした同バンドの指揮を執っていたのが、タイヨンダイ・ブラクストン(Tyondai Braxton)である。2015年5月13日(水)に、彼の新しいソロアルバム『HIVE1』がリリースされた。「凄いらしい」という噂が先行するなか、同作のリードトラックとしてネット上にアップされた『Scout1』、『Gracka』を聴いた時には、シンフォニックだった前作とは対照的なその露骨な電子音に面食らった。しかし、それと同時に感じた予感めいたものには既視感があった。それはエレクトロニックな内容の作品が放つ雰囲気というよりもむしろ、ボブ・ディランや坂本慎太郎の近年の作品を聴いたときに感じたものに近かった。トレンドに歩み寄るのではなく、あくまで自然に発生する時代性を纏った『HIVE1』というアルバムは、2015年に生まれた問題作のひとつであることは間違いない。今回のインタビューでは、新作についてはもちろん、7月の来日公演や普段の制作生活について、質問を投げかけた。

ー以前、2007年に渋谷でワンマンライブを終えたあなたを渋谷のセンター街で見かけたのですが、あのときは打ち上げパーティーに行く途中だったんですか?

マジか、ちょっと思い出せないけど、多分、夕食に行く途中じゃなかったかな。正直に言って、僕はあまりパーティーに行くようなタイプではないからね。遠征中はショーが終わると、たいていすぐ自分のホテルに逃げ戻るんだよ。

ーその時の渋谷の街の印象はどうでしたか?渋谷はなかなか不思議な街だと思うのですが。

とても素晴らしかった。きっと今もそうなのだろうと思う。渋谷はすごいエネルギーで溢れているよ。日本にいることは本当に大好き。日本ではとても素晴らしい経験をしてきたし、また日本に戻ることをとても楽しみにしているんだ。

ー今回、数年ぶりの来日ですが、楽しみにしていることはありますか?

旧友たちと再会したり、美味しい料理を食べたり。素晴らしくなるよ。もう一度東京と大阪の雰囲気を感じることができるのも楽しみだ。日本では、今までの自分の10年間を振り返って、一緒にいて本当に楽しいなと思える人々と出会えてきたんだ。今回は久々だから、早く彼らに会いたい。食べ物に関して言えば、日本食は本当に最高だよ。寿司やうどんのお気に入りの店がいくつかあるんだ。

ー現在はツアー中で忙しいと思いますが、普段はどのような一日を過ごしていらっしゃるんですか?食生活とか、運動したりとか、気をつけていることはありますか?

正直に言って、僕はもっと運動をする必要があるんだ。今はアクティブな活動が必要とされる時期だから、なおさらね。もっと体のバランスを整えられるような方法を探さなくちゃ。実際、食べ過ぎなんだよ。僕の妻は、僕よりもはるかに健康に気を使っているので、その点では彼女からとてもいい影響をもらってるといえる。

ー日常生活を営むことと、制作の没頭することはどうやって住み分けているのでしょうか。

音楽のことは毎日の一瞬一瞬にも頭のなかに常にある。でも、きっとそれがより整ったバランスを身につける必要がある理由なのかもしれない。音楽を作ることを一休みするだけではなく、音楽について考えることも一休みすることが、僕のクリエイティブなエネルギー全体への一助になるのかもしれないね。

ー今作『HIVE1』は、前作とは打って変わって完全なるエレクトリックミュージックの1枚となり話題を呼んでいます。前作とスタイルこそ対照的ですが、あなたの個性がむしろより露骨に感じられたようにも思えました。

『HIVE1』は、エレクトロニックミュージックに対する僕の理解に関して、そしていつもとは異なる音楽作りの方法に関して、深く没頭できた良い機会になった。僕が言いたいのは、これ(『HIVE1』)は自分が今までやってきたことから離れてまったく別のことをしていくのだ、という宣言を意味するのではないってこと。むしろ様々な音楽があるなかで、取り入れてみたいと思う音楽を取り込むことで、僕が理想とする音楽のあり方を強化していく、というこということなのさ。



ーこれはある程度のキャリアがあるアーティストにはつきものの悩みだと思うのですが、一部のあなたのファンから「元バトルスのタイヨンダイ」という先入観や凝り固まった期待のようなものを完全に取り去ることはできませんよね。『HIVE1』のような突き抜けた作品をファンが正面から受け止めるには、そういったものが邪魔になる可能性があるかもしれません。

こういう種類の憶測に悩んだことはないかな。たとえば、音楽性の違いなどを理由に僕がバンド(バトルス)を離れたのだと思われることとかね。自分をエキサイトさせたり、自分が魅力を感じたりしている方向に進んで行く権利を、僕はアーティストとして持っている。自分が何をしようと、オーディエンスは僕の中にある何かをいつも期待していたいのだということ、そして彼らをただ単に喜ばせるのではなく、彼らに異なった道筋を見せることが僕たちの仕事なのだ、ということを心に留めておくのが、アーティストとして大事なんじゃないかな。

ー今作は即興の部分と作曲された部分が混在しているとのことですが、全体的に非常にフリーフォームな印象がある一方で、曲によってはカタルシスが待ち受けているものもあります。音楽の快楽的な要素については、どう考えていますか。

僕にとって全身で感じられる喜びは音楽やアートにおける基準だね。頭と心に創作の世界が存在することやアイデアが持ち上がることが重要だと思ってるよ。制作のときは、直感的に感じられるものであれば、それがリズミカルでなくても構わないのさ。

ーなるほど。最近ハマっているものはありますか?

最近はデムダイク・ステアのレコードを聴いてる。ムードが素晴らしいし、音に血が通っているからね。多分、『ツイン・ピークス』を最近再び見始めたのも偶然ではないはずだよ。僕のお気に入りの番組のひとつさ。



今回のリキッドルームでの公演には日本のVJのパイオニアである宇川直宏がコラボレーションしますが、これについてはどんなことを期待していますか?伊藤高志の映像をミックスするそうですが。

宇川直宏が僕の作品を視覚的にどう解釈するのか、とてもワクワクするね。これは本当にエキサイティングなものになるよ。待ち遠しいな。

ーあなたの音楽は視覚的なイメージと不思議な混ざり方をしそうですね。制作しているときは風景や色彩などが浮かぶことはありますか?

とりわけ『HIVE1』では、その環境と語り口についてたくさん考えた。辺境の砂漠でキャンピングをしているカウボーイのイメージだとか、鳥たちが飛びながらどんどん増えていく様子、例えばムクドリの群れの中に見いだす鳥の大群のイメージとか。音楽における視覚的な要素は僕にとって主要的といえるだろうね。

ー当日は共演にボアダムスのEYヨも出ます。かなり刺激的な夜になりそうですね。

EYヨを迎え入れることができたのはとても名誉なことだよ!僕は何年も前から彼の音楽のファンなんだ!!

『TYONDAI BRAXTON 来日公演』の詳細はこちら

インタビュー 三木邦洋
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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