インタビュー:真鍋大度

身体に電流が流れるレクチャーイベントとは?

インタビュー:真鍋大度

現在、日本で一番注目されているメディアアーティスト、真鍋大度。今までにない組み合わせのテクノロジーを用いた斬新な表現は、日本のみならず世界からも賞賛される。国民的番組、紅白歌合戦に出演したJポップ・アーティスト、Perfumeの演出を手掛けた彼は、Squarepusher、FaltyDL、Timo Maas、Nosaj Thingなどの海外の良質なエレクトリック・ミュージシャンのMVも制作し、マスとコアの両極端でフィールドを問わずに活躍する。この秋、彼は世界各国で開催される音楽イベントRed Bull Music Academy(以下、RBMA)主催のレクチャーイベントに出演する。普段語ることの少ない音楽に関する側面を触れつつ、レクチャーイベントの内容に探りを入れるとマッドサイエンティスト的な一面を見せてくれた。


まだ内容が公開されていませんが、今回出演するRBMAでのレクチャーイベントはどういった内容になるのでしょうか?

真鍋大度(以下、真鍋):何にしましょうかね(笑)。あんまり決めていくのも(面白くないので)、機材を沢山持っていて思いついたことをその場で制作しながら喋ろうかと。そういうのでいいんでしたっけ(笑)? 前日までにはバシッと決めないと。

ちなみに表現するものとしたら音?映像?RBMAは音楽のイベントなので音が中心になる感じですかね。

真鍋:僕自身は音楽が好きなので、音楽に関わるプロジェクトに関わることが多いんですけど、音で変換するのか、音を変換させるのか、どちらから始まるかはプロジェクトによりますね。顔面の筋肉を使って音を鳴らす作品も、顔の表情から音にするのか、顔の表情を読み取って音にするか、二通りの見方がある。

当日来てみないとわからない。

真鍋:そうですね。なにやったら面白いですかね。

当日持参する機材によってできることが変わると思いますが、持っていく機材の予定は?

真鍋:筋肉の収縮や、眼球の動きを記録する生体センサー系はひと通り持っていくとして。最近の新しい機材は、脳に直流の電流を作ってもらったので、それを使えたらいいですよね。理想としては手術して脳に電極を埋めたりすると面白いんですけど、実現にはもう10年掛かりますかね。研究者のところに相談しに行くのも楽しいですね。

身体を媒介にする表現をよく行っていますが、そういった流れの中で思いついたんでしょうか。

真鍋:TMS(Transcranial magnetic stimulation)っていう施術を試している有名なYouTubeのビデオがあるのですが、言語野に刺激を与えると急にうまくしゃべれなくなるんですよ。Ableton Liveのプラグインのビートリピーターのようなオーディオのエフェクトに似ていて、プラグインを使わずにそういうことができるので、アナログでデジタルならではと思っていたエフェクターを作り出せるというのが最高に面白いと思った。その装置を使ってラップをするとエフェクトを通さずに脳がコントロールされて、エフェクトが掛かったようになる。そういうのを調べていて、自作の方法も聞いたけど恐いのとチャンスが無くてまだやっていない。

経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation)を施術している様子を記録したビデオの一例


作品は大きなワンアイデアがあって、そこから派生している気がするんですが、そういったアイデアはどういう瞬間に思いつくんですか?それとも何か調べていて、これはいける?みたいな?

真鍋:その時その時次第で、ビデオ見た時にオーディオのエフェクトに使えそうだな、とか思いついたり。例えばさっき(自分は)写真を撮られていたけど、写真を撮られるのがすごく苦手なので、どういう表情したら調子いいのかがわからない。そこの感覚に制作する切っ掛けやヒントがあるなって思った。例えば、10枚ぐらい写真を撮って使うのは1、2枚。その選ぶルールをコンピューターにできるのか、とか。撮られるときは緊張するじゃないですか。「笑って」って言われても笑えない。そういうのも極端な話、電気を流して無理やり笑わせるとかの解決方法があると制作のネタが出てくる。身近なものでも何でもいいんですよ。

身近なものから着想して、それを大きく……。

真鍋:でも、けっこうボツになるネタも大量にあるので、なかなか面白いものを作るのが大変ですね。でも、作ってみてって感じですね。

基本的に最近はクライアントの意向に合わせて制作しているのですか?

真鍋:半々かな? 今日も朝まで倉庫で、できるかできないかわからないプロジェクトの実験をしていたんだけど、まだクライアントに提案できる段階ではないですね。アイデアを温めている時期。今は自分の中でそういう欲求が高まっていて、3週間に1回ぐらい倉庫というかスタジオに泊まり込んで思う存分制作している時期ですね。

何人かの仲間と?

真鍋:15人ぐらいですかね。ひたすら作業。今日に限ってエラーで終わって戻ってきたんですがね(笑)。

全部が全部うまくいくことはない、と。世に出ていない試作がたくさんある中でうまくいきそうなものが世にでるんですね。

真鍋:ライブは一発勝負なのでうまくいきそうというより、確実にうまくいくと自信があるものをやる。我々は映像だけではなくロボット、ドローン、音楽、照明、レーザーなどすべてを請け負う体制があるけれど、重要なのはテクノロジーそのものではない。テクノロジー中心の演出は取って付けた様な演出になってしまうんですよね。僕らは演出家に敬意を払い、演出そのものは担当せずにテクニカル部分のサポートを担当したり、演出家がアイデアを出すためのプロトタイプやデモを開発するという様な作業をしている。Perfumeのプロジェクトが象徴的ですがMIKIKOさんが演出、ライゾマチームがテックサポートと言う感じでライブ、ミュージックビデオ、ウェブ、アプリなどの小さなプロジェクトをそれぞれ関連づけてひとつの大きなプロジェクトを作り出すということを理想的な形で出来ている。こういった大きな流れを作るのはテックではなく世界観だったりコンセプト、ストーリーテリング。演出のプロが入らないと技術もいきてこない。

去年のNosaj ThingさんとのコラボレーションPVはどういった経緯で? 一緒にエレクトラグライドに出演していましたね。

真鍋:Jasonは2007年頃からの友達で、YouTubeで僕の作品を見つけてくれてメールを送ってくれてコラボレーションをしようと思っていたけれど、なかなかできなかったのがやっと実現した。仕事だけではなく、ロサンゼルスに行ったら一緒に遊んだり、日本に来たらウチに泊まりに来たり、今もプロジェクトを一緒にやっています。(エレクトラグライドでは)Jasonからアイデアがあって、MPCのパッドやキーボードは汎用コントローラーなので、実際のツマミにどういう役割が与えられているのか、フィルターなのかディレイなのか外から見てもわからない。ソフト側で設定しているので、エフェクトの効果を映像を付けてわかりやすくならないかと、音やパフォーマンスを視覚化しました。こういうのも先にJasonのアイデアやライブをどうやって良くできるかかっていうところからやっています。

真鍋さんは、ヒップホップDJをされていたと伺っています。ヒップホップカルチャーと現在の活動との繋がりを聞いてみたいのですが、自分で意識されていますか?

真鍋:今の音楽の聴き方はヒップホップとあまり関係ないところも多いんですけど、22歳の頃にラッパーのGroupHomeやJeru The DamajaのDJをしてツアーを一緒に回っていました。ブルックリンにいたときは彼らのカルチャーの中で生活をして、音楽的というよりもカルチャーに憧れがありました。ただ、日本人だとちょっとこの道でいくのは難しいなって思い始めて、デジタル路線というかプログラミングを使ってDJをするようになって。スクラッチがすごく好きだったので、2002年にスクラッチをパソコン上で出来るソフトを自分で作って、音だけではなく映像も擦れるソフトでデータを擦れる。その辺までは「ヒップホップDJでプログラミングができるとこういう感じ」ということをやっていて、今ではセラートというDJソフトがリリースされて商品になると違うことをやらなきゃと思い、流れ流れてこんな感じになってしまったという。

ちなみに最近の音楽的な趣味は?

真鍋:(アーティストでは)Pixelordとか。(ジャンルは)普通にジューク、ダブステップ。そこから生まれたポスト・ダブステップとか、リズムが少なくなったスカスカのドラム&ベースが好きですね。2006年にスウェーデンでダブステップのワークショップをして、Mad Professorなどが一緒に講師で、プラグインの作り方をレクチャーした。音源はBeatportとSoundCloudとBandcampで入手していて、アナログも買ってるんですけどデータで聴くことが多くなっていますね。Soundcloudにミックスがあるので聴いてみてください。

ライヴに行ったりとかありますか? 面白かったアーティストは?

真鍋:スペインのSonarにライヴで行った時に観た、Downliners Sectのライヴがむちゃ良かった。ビートはBPM140~160ぐらいのテンポなんですけど、CDの音源はミックス自体がかなり緻密で音色が面白い。クラブで掛けると緻密すぎるのでちょっと音圧が足りないところもあるんですが、ライヴは荒々しく音をダイナミックに変化させていて良かった。去年はAfrica Hitech、Flying Lotusが出ていたSonar Labというステージで、そのステージが好き。ほかのアーティストのライブはフェスで観ることが多いですね。

入り口はヒップホップですが、いろいろ聴く感じになったんですね。では、逆に映像側で影響を受けたのは?

真鍋:影響受けたというのもおこがましいんですけど、Chris Cunninghamや、ヒップホップのPVを撮っているころのSpike Jonzeとか面白い人がいるんだなと。大御所ばかりですけど、Michel GondryのPVは問答無用にかっこよかったり。ライヴ系では影響受けていないけど、United Visual ArtistsやMoment Factoryとか。その辺がやっているのは気になるというか、やっている本人達も交流があるので憧れというよりライバルに近いですよね。

今の立ち位置ですと憧れというよりもライバルですよね。メディアアーティストとしてテレビのドキュメンタリーに何件か出演されましたが、変わったことはありますか?

真鍋:変わりすぎました(笑)。基本的にはお仕事の機会が増えたから有難い。ただ、テレビでは一部しか切り取ってもらえないのでなかなか難しいですね。でも僕は生放送とかライヴが好きなので、そういうのをやらせてもらえる機会が増えたのは有難い。失敗するリスクが少なからずあるので、なかなかやらせてもらえないんですが。

なんでナマのほうがいいんですか?

真鍋:ナマのほうが楽しいですね。失敗したら一発でアウトみたいな緊張感がドキドキしていいですね。要求されるレベルがミュージックビデオとかと違うじゃないですか。スタジオで撮影するPVは失敗してもやりなおせるので目標設定がまた違いますよね。撮影ものも面白いのですが個人的にはライヴのヒリヒリが好きっていうか、やっていて楽しいですね。

出演前のプレッシャーはありますか?

真鍋:もうねえ、麻痺しててあんまりないんですよね(笑)。一緒にやっている人達はそうなってるケースが無いんじゃないかな。ただ、その代わり馬鹿みたいに事前の確認とか慎重にやるし、これでもかっていうくらいテストをやっているのと、バックアップのプランがあるので失敗することはないんですけど、(残念なことは)たまにバックアップのプランになって第一希望ができないっていうことがあります。

チームワークで気を使われていることはありますか?

真鍋:チームのみんなは本当に僕より優秀な人が多いのと、コラボレーションなのでヒエラルキーはないですね。逆にみんな仕事ができ過ぎて日々プレッシャーを受けています。現場に遅れて行ったら、もうできあがってたことがけっこうある。手が早いし、クオリティも高いし、求めていること以上のことをやる。優秀な人と一緒にできてすごいラッキーですね。昔よりも多くのプロジェクトが短期間でできるようになったし。

ひとりだと時間的な限界がありますね。

真鍋:そうですね。たまに血迷ってひとりで制作するんですけど、みんなでやったほうが楽しい。ひとりで作るのは打ち込みの音楽ぐらいですかね。チーム作りっていうのは、映画制作みたいなものですよね。僕は映像を作る、君は画像解析部分を開発する、データマイニングをやるなどの役割分担がしっかりしている。今のチームは会社という組織も国境も超えていてものすごく大きなものになっている様な気もするし、集まって飲んだらPerfumeファンの集いみたいにもなるし、うまく言えないですが今っぽい制作体制なんじゃないかなと思っています。

テキスト 高岡謙太郎
撮影 morookamanabu
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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