インタビュー:Eli Walks

エレクトロニック・ミュージック界の期待の新星

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インタビュー:Eli Walks

Eli Walks with his gear. Photo by James Hadfield

エレクトロニック・ミュージック界の新星として注目されるEli Walks。デビューアルバム『Parallel』が3月14日にリリースされ、FUJI ROCK FESTIVAL '12への出演も決まっている。カリフォルニア芸術大学を卒業したのち、東京で音楽活動を続けている彼に話しを聞いた。

― 常に曲を書いているタイプですか?それとも一曲一曲にじっくりと時間をかけるタイプですか?

Eli:大抵の場合は日記を付ける感じで曲を書くよ。何か思いついて、それを家に持ち帰って、書き留めるんだけどしばらく放っておくんだ。で、次の日はまた別の曲に取りかかるっていう。だからなかなか完成までに至らないんだよ。iTunes内に400曲位デモトラックが入ってる位だからね。

― 断片を繋げてそれを一つの曲にするような感じなのでしょうか?

Eli:うん、そうかもしれない。ライブするときに特にそう感じる。断片を繋げてライブ内でそれを一曲にして、その中を行き来することもあるかな。それで、ここをこう繋げたら完璧じゃん!っていう感じで曲が出来ることもあるよ。かといっていつもこういう風に曲作りをしてる訳ではないけどね、常に新しいやり方を探しているよ。

― そうすると、一日で曲を完成させるのは稀ですか?

Eli:うーん、仕事としてだったらあるかな。締め切りが決められてないとダメなんだよ(笑)。そういう時はがっと集中してこなすようにしてるよ。

― かなりテクニカル面に長けていらっしゃると思うのですが、曲作りをされる際にその事が役に立っているのではないでしょうか?

Eli:作業スピードが早いのはそこに起因しているかもしれないね。そのお陰で使う機材もかなり深く理解しているし。例えば、ニックと作業中に使ったテクニックを、元々溜めていた曲に組み込んだらどうなるかな?とか考えたりしてね。最近はそれを頭の中でイメージする事ができるんだ。

― では実際、どのようにして音楽に目覚めたのですか?今のような曲作りを始める前にも何か楽器はやられていたのですか?

Eli:12歳頃にギターを初めて手にして、その頃はメタルとかオルタナに夢中になっていたよ。エレクトロニック・ミュージックに関しては、実は20歳位まで全く知識がなかったんだ。実はメタル一筋でね。しかもかなりのメタルヘッズ(笑)。ギター以外には学校で2年間トランペットをやって、ピアノも少しかじっただけだから、Cのキーが何処にあって、楽譜が読めて、童謡が弾ける位のレベル。だから、やっぱりギターに辿り着いた訳だけど、16歳の頃に東京に引っ越して来て初めてダンスミュージックの洗礼を受けたんだ。六本木とか渋谷に行けばドンツドンツドンツって聴こえてくるじゃない?

― それがエレクトロニック・ミュージックとの出会いだったのですか?

Eli:そうだね、それまでそういう音楽には興味を示さなかったんだ。やっぱり、音楽をやっていた姉2人の影響が大きかったね。一人はその当時トリップホップに夢中でマッシヴ・アタックの存在を教えてくれたんだ。彼らはバンドの要素もあるから入って行きやすかったよ。ポーティスヘッドもそうだね。もう一人の姉はその当時バークレー音楽大学に通っていて、ある日オーテカのTri Repetaeを「はい、クリスマスプレゼント。絶対聴かなきゃダメだからね」ってくれたんだ。

― いいお姉さんをお持ちですね(笑)

Eli:そう、で、その後にボーズ・オブ・カナダのアルバムも貸して。正直、その当時はああいう音楽が全く理解できなかったよ。すごいテクの演奏が繰り広げられているのは分かったんだけど、どうしてもピンとこなかったんだ。でもだんだんのめり込んでいって、気づいたらエレクトラグライドにスクエアプッシャーとかクラフトワークを観に行ってたよ。

― 一聴しただけでこれだ!って思ったアーチストはいますか?

Eli:クリス・クラークだね。Empty the Bones of Youはかなりのお気に入り。ボーズ・オブ・カナダのGeogaddiもね。エイフェックス・ツインは好きになるまで時間がかかるよね。ボーズ・オブ・カナダの方がメロディーがあるから入りやすかった。ギターのバックグラウンドがあるから、メロディがないと落ち着かないんだよ。でも、サウンドデザインを学んでから、エイフェックス・ツインのような音にもすごく興味を惹かれるようになったんだ。音と音が重なり合ってテクスチャーを作り出しててさ。エイフェックス・ツインはきっとこの為にランダマイゼーションのプラグインを書いたりしたんだよ。聴き込めば聴き込む程ものすごく精巧に組み立てられてる事がわかってきてね。そんなんで、次第にノイズにものめり込み始めてさ、そうやってどんどん深みにはまって行くんだよね(笑)。

― 実はクリス・クラークについてはお聞きしようと思っていました。今回のデビューアルバムを聴かせてもらったとき、シンセのキレとかラウドなところとかなんかが特にクラークっぽいなと思ったんですよ。でもメロディックなところはプラッドを彷彿とさせるし、ブンブンいわせている所なんかはブレインフィーダーとかロウ・エンド・セオリー辺りの音を彷彿させますよね。この辺のアーティストからはやはり影響は受けられているんですか?

Eli:うん、彼らのヘヴィーなビートとかメロディからはかなり影響を受けているよ。だからクラークは一瞬にしてこれだ!って思ったんだろうね。メロディがすごく良くて、こういうのを作りたいなって。僕の作る音楽ってポップな側面もあって、ブレインフィーダーもその傾向にあるからね。この辺のアーティスト達って打ち付けるようなビートを多用しているじゃない、そういうノリの音を作ろうと思ってさ。だからワープ周辺のアーティストとか、ブレインフィーダーなんかからもかなり影響を受けているし、聴くのもその辺だね。

― 他にはどの辺の音楽を聴いているんですか?

Eli:最近EPを出したブリアルがかなり気に入っているよ。以前は全く持って関心なかったんだけどね。カリフォルニアの青空の下で聴いても全然ピンとこなかったんだ。

― 東京で聴いた方がピンときますよね。

Eli:そのCDを東京で聴いたとき、大雨が降っていて、それこそ、そのまま外に飛び出したくなったよ!

― もしこのアルバムをカリフォルニアで作っていたとしたら全く違うものになっていたと思いますか?

Eli:うん、そう思う。カリフォルニアは寒くなる事もないしさ。多分もっと「クラブに行って踊ろうぜ!」的な感じのパーティーチューンになっていたんじゃないかな。東京はもっと気分に左右される感じだね。憂いのある空気が漂ってはいるんだけど、渋谷辺りを歩けばネオンとか明かりがきらびやかでさ。そんなことも影響していると思う。

― メタルのバックグラウンドも影響していると思いますか?

Eli:そうだね、ハードなビートはそこに由来していると思う。メタルをやっていたときにギターをかき鳴らしていた箇所は、今はヘヴィーなキックドラムとか、そこに入り込んでくるシンセとかベースになったって感じかな。ギターだと大抵キーを2つ使ってパワーコードを作り出すところを、今作っているような音楽だとそこに更にハーモニーを重ねていって新たなヴァイブを生み出すんだ。だから重ねたものを取り払うとメタルに戻るっていう。

― 曲作りをされるときはMPCとギター両方を使われるのですか?

Eli:始めた当初はキーボードを使っていたね。ギターがこのキーならキーボードならこのキー、って感じで。

― ライブでプレイされるときは、先ほど仰っていたように曲の断片を繋げて一曲にするというフリースタイルなんですか?それとも事前にこういう風にプレイしたいというのが頭にあるんですか?

Eli:両方だけど、アルバムを完成させた今となってはちょっと変えていこうかなとも思っている。今まではループさせて、グリッチさせて、それをまたループさせてって感じでインプロヴァイズしていたんだ。でも、今回アルバムを完成させて、それをどういう風にライブで使おうか、どういう風にエフェクトをかけてオーディエンスに聴かせようか考えているよ。

― では、オーディエンスが楽しめるように工夫はしていきたい、と。

Eli:えーっと、そうだね。まず自分自身がクラブにいる事をイメージして、自分がどういうものを聴きたいかを考える。今まではアンビエント調のトラックもあったけど、今作っているのは常にビートが聞こえてくる感じのもの。音楽に合わせてのるのが好きだし、ドロップオフがあってまたビートに戻ってくるあの感じも好きだね。

― 最近ではかなり広いジャンルに渡ったイベントでプレイされていますよね。モードセレクターともやられていましたし、WWWでもアブストラクト・エレクトロニカ方面のアーティストとも共演されるようですが、そういったことでどのようなパフォーマンスにするかの方向性が見えて来たりしますか?

Eli:なんとなくね。でも困った事に、持ち合わせている素材が多くないんだよ(笑)。何曲か思い浮かべて、「これで10分は繋げられて、多分盛り上がるだろうな」なんて思ったりするんだけど、実際ステージに立ってみないと分からないんだよね。それでそのときのノリ次第でやったりやらなかったり。

― もう日本に戻られてだいぶ経ちますが、東京のエレクトロニック・ミュージックシーンで気になるアーティストはいますか?

Eli:タナベ・ダイスケのライブセットはすごいよ。2、3回一緒にやった事あるんだけど、横で吸い込まれるように観ていたよ。あとはクアルタ330のビートもハンパない。この2人からは目が離せないでいるんだ。

― これから更にトライしてみたい事はありますか?

Eli:ボーカルを入れてみたいね。実は今回このアルバムを作っているときもそう思ったんだけど、デビューアルバムだしインスト一本で行こうって決めたんだ。でも、才能あるシンガーが周りにいる恵まれた環境にいるからそれも活かしたいし、さっきも言ったようにギターもやっていたからギターでトラックを作ってテープマシーンに通してアナログな方面に持っていって、もっと音のテクスチャーを重ねたりもしてみたい。

― アルバムについて聞かせて下さい。全ての曲がだいたい3分から3分半とある意味、ポップソングの長さですが、今後もっと長い曲を作られる予定はありますか?

Eli:うん、もちろんだよ。iTunes用に作ったボーナストラックが既にそうだし、このアルバムとは全然違うスタイルだしね。ドラムをもっとループさせたり、アレンジでもっと遊びたいね。ドローンな感じのトラックも作ってみたい。このアルバムは本当に短い曲を集めて作ろうと思っていたから、目的は達成されたね。

― もっとこういうアルバムが世の中には必要ですよね。

Eli:そうだね、でももっと長い曲を書きたいとも思うよ。ミュージシャンがどういう状況に置かれているかにもよるけどね。やっぱりそれで全てが決まると思うからさ。


インタビュー ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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