インタビュー:園子温

子ども達を太陽のように描きたかった。エログロの人だと思われているけれど…

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インタビュー:園子温

鬼才・園子温監督が、初めて“原作もの”に挑んだ。その原作は、『行け!稲中卓球部』の漫画家・古谷実の異色作『ヒミズ』。第68回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の染谷将太と二階堂ふみが、それぞれ最優秀新人俳優賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞、公式上映ではスタンディングオベーションが8分間も続いたという話題作だ。古谷実が『ヒミズ』でギャグを封印したように、園監督もまたエロスやグロテスクさから離れ、そして震災被災地の映像を導入して描きたかったものとは何か。園監督に話を聞いた。

― 園監督にとって初めての“原作もの”ですが、なぜ『ヒミズ』を映画化しようと思ったのですか。

上手く言語化できないのですが、これまでずっとオリジナルで映画を撮ってきた自分にとっての初めての“原作もの処女作”に何を選ぶのかと考えたとき、この作品しかないと思ったのだと思う。スタッフも、いろいろな作品を持ってきてくれましたが、結局は自分がすごく好きな作品を撮ることになりました。

― 3.11の震災を受けて、シナリオを変更されたと聞きました。震災前後では、どのように変化したのですか?

大きな変化は、被災地で撮影した映像を導入したことですね。撮影をスタートしたのが、ちょうど2011年5月でした。この話は、“リアルな現代の日本で生きる若者”の青春物語。でも原作が描かれたのは、今から10年以上も前。その時代の“リアル”を、今の現代に置き換えるには、(震災を)撮らざるをえないと思った。環境として、背景として、どうしても入れなければいけないと。撮影した被災地には、先日またボランティアに行きました。そうしたら、ガレキが跡形もなく処分されてさら地になっていて、5月に撮った風景はどこにもなく、まったく違う風景になっていた。撮影に行く前は、「やめた方がいい」と止められたりもしましたが、やっぱり記録しておいてよかったんじゃないかなと思いました。

― 園監督ご自身は、震災で変わりましたか?

変わりましたね。それまでは、(日本社会の問題を)何でも無視しても生きていけた。でも震災は違った。今回は僕にも関わる問題だったから、これを表現者として無視してはいけないと思いました。1990年代以降の日本を“終わりなき日常”と表現する人たちがいますが、そのような“日常”は終わり、“終わりなき非日常”に突入したんだと思います。

― その一方、何も変わらない人もいると思いますか?

そうですね。“なかったこと”にしようとするの、日本人の特徴なんだろうな。少なくとも、自分は“なかったこと”にはできなかった。男性に、そういう傾向が強いですね。変わりたくないっていう。女性はどんどん前に進んで行くけれど。

― かつて「映画館で励まされたくなんかない」とおっしゃっていた園監督ですが、本作は「がんばれ」という台詞がキーワードになっています。これも変化のひとつですか?

ぎりぎりですよ。「希望に負けた」と僕は言っているんですけど。「映画館で励まされたくない」という気持ちは変わっていません。励まそうなんて気持ちは今も毛頭ありません!(笑) (撮影)現場でも悩んでいたんですよ。主人公の行く末に関して。原作とは異なりますが、でもやっぱりこれしかないと思って、ああいったラストシーンになりました。

― 映画で住田君と茶沢さんという2人を、どのように描こうと思ったのですか?

とにかく、子ども達を太陽のように描きたかった。俺はエログロの人だと思われているけれど、もともと普通にこっちの(青春映画の)人なんですよ。だから、もとに戻ったと思っている。

― 全編を通じて、園監督が子どもたちに希望を託しているように見えました。

そうですね、そういうことだと思います。僕は中学生って本当に良いなって思うんですよ。そして現代における青春像を描きたいと思った。

― 住田君が絵の具や泥にまみれになるシーンが印象的でした。

これは現場で生まれた演出なんです。前半と後半をわけるピークとして、染谷の芝居を文字通り、自分で色をつけてみたいと思った。彼の芝居を助けるという意味でもね。

― 今回はキリスト教は出てきませんでしたが、人にとって救いになるものは何かというテーマを感じました。

単純に俺はキリストのファンクラブの会員なんで。キリスト教徒ではないけれども。まあ、そんなものは(ファンクラブ)ないですけど(笑)。でも人間としてキリストの生涯って面白いと思っていて、いつか映画化したいと思ってる、うん。ずっとキリスト教に入りたくて、でも自分のどこかが受けつけられなくて結局入らなかったんだけど。「神」という問題が大きかった時期もあったし、そういうのはあると思う。

― 人を救いたいという気持ちは強い方ですか。

いやぁ、人を救いたいどころか、自分も救えないのに。それはないですね。でも、「人を救えない」という愕然とした気持ちや絶望的な気持ちになることはあるけれど…。うーん、でも、「なんで人を救えないんだろう」っていう思いと、だからこそ人を救いたいっていうことは一緒なのかなぁ。

―ヴェネツィア国際映画祭での『ヒミズ』の反響は熱狂的だったようですね。

一作一作に関しての反響に関しては完全に聞かないようにして、いつも耳をふさいでいるから、実際はどんな反応があったのか詳しく知らないんです。そんなものに揺れ動かされたくないんで、「俺は俺の作りたいものを撮るだけだ、黙れ!」って思っています。

『ヒミズ』

公開:1月14日(土)
劇場:新宿バルト9、シネクイントほか全国ロードショー
監督・脚本:園子温
出演:染谷将太、二階堂ふみ
渡辺 哲、吹越 満、神楽坂 恵 光石 研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、村上 淳
窪塚洋介/吉高由里子/西島隆弘(AAA)/鈴木杏
ウェブ:himizu.gaga.ne.jp/
ツイッター:twitter.com/himizumovie
製作・配給:ギャガ
ⓒ2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ


『ヒミズ』作品レビューはこちら

インタビュー 鈴木沓子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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