レビュー:ゴーストライター

傑作エアポート・ノベルが巨匠ロマン・ポランスキーの手により映画化

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レビュー:ゴーストライター

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監督: ロマン・ポランスキー
出演: ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、オリヴィア・ウィリアムズ

タイムアウトの評価:

“派手に演出されたハラハラ感”は、お腹いっぱいの僕らにとって、ロマン・ポランスキー監督が描きだす緻密に計算された映画は、ずっと魅力的に感じられてしまう。『チャイナタウン』や『ローズマリーの赤ちゃん』といった永遠の傑作を生み出した巨匠ロマン・ポランスキーは、ロバート・ハリス原作の、“英国元首相ラングの回顧録のゴーストライターを担当することになった青年(ユアン・マクレガー)が不可解な真実を知ってしまう”といったいかにも商業的なエアポート・ノベル(空港のニューススタンドに並ぶ類の長編小説であり、複雑な事件や冒険を主題するものが多い)を、ジワジワと迫り来るような傑作映画へと作り替えてしまった。

ワイドスクリーンで撮影された今回の作品は、ポランスキーによる見事な演出力を見せつけた作品といえるだろう。マクレガーの演じる名の知れたゴーストライターと、トム・ウィルキンソン演じる怪しげなキャラクターとの間の緊張感が染み渡る会話と推理によって、真実が明らかになっていくが、そこにはポランスキーの作品『反撥/Repulsion 』(1965)にあるような悪意のあるコクトー風味が込められており、見るものを忘却の彼方へと引きずり込んでゆく。『反撥』よりはどっしりしているが、ポランスキー流のひと味ひねった展開はしっかり込められている。無表情なロングショットのパンで撮影された首相の妻(オリヴィア・ウィラムス)には肉欲的なものを感じるし、 情熱的だが虚弱にみえるイーライ・ウォラックも際立っていて、ゴーストライティングを依頼した首相が何を計画しているのか、マクレガーの中でふつふつと沸き上がる疑惑の気持ちを掻き回すという老練な役をこなしている。

そして、名誉の証なのか見下すような疑惑の証拠なのか、幾人かのキャラクターは主人公の立場に対して皮肉な味方をしている人がいる(さすがイギリス人!)。

この映画の中には華やかな演出がしっかりとちりばめられており(悪趣味なジョークのようなエンディングだけでも、入場料を払うだけの価値はある)そのおかげで深みの感じられる作品になっており、今まで見たエアポート・ノベルの中では一番のクオリティだと、他の編集者も語っている。

ただ残念ながら、この『ゴーストライター』がロマン・ポランスキーの最高傑作だと言えるほど、余韻のある奥深さは感じられなかった。ポランスキーはあるジャンルの作品をバイタリティと気持ちを込めて作り上げたが、この作品も、もっと入り込んでも良かったのかもしれない。

『ゴーストライター』 は、2011年8月27日(土)より全国順次ロードショー



By キース・ウーリッチ
翻訳 西村大助
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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