映画『アデル、ブルーは熱い色』レビュー

2013年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞、レズビアンの恋を描いた話題作

映画『アデル、ブルーは熱い色』レビュー

『アデル、ブルーは熱い色』タイムアウトレビュー

本作は、綿密な描写で、焼けつくほどに官能的なレズビアンの初恋を描いた3時間の大作。監督、脚本家を務めたフランス系チュニジア人、アブデラティフ・ケシシュは、自身が同じく監督、脚本を手掛けた2010年公開の前作『Vénus noire』(原題)で、惨憺たる経験している。19世紀の南アフリカを舞台に、「奴隷の見世物小屋」を題材にしたサラ・バートマン主演の壮大な伝記映画だが、この作品は、イギリスとアメリカの配給会社にとってあまりに痛ましい結果をもたらした。大抵の映画監督はそんな経験の後には安全圏に逃げ込もうとするだろう。が、ケシシュはそんな「大抵の映画監督」ではなかった。『アデル、ブルーは熱い色』 は、非常に恐れ知らずで並外れており、『クスクス粒の秘密』(2007年作、日本未公開)を撮った監督だからこそ作ることのできた、彼の「帰還」を示す作品であり、その経歴の中で最も豊かな作品である。

劇中の大人びた語り口や核となる恋愛の揺れ動きに関しては、本質的には新しくも、特筆して思い切った表現というわけではない。だが、若者の欲望に対する自由気ままなケシシュの視点は、感情の成熟という点においての扱い方が普通とは異なる。ヒロインであるアデル(アデル・エグザルホプロス、なんと同じ名前だ)が多感な女子高生を演じるところから物語が始まり、自分自身の学ぶべき課題が、未だ多く残る大人の女性として幕を閉じる。ゲイであることをカミングアウトすることに焦点を合わせたような、ありふれたタイプの同性愛テーマの映画と異なり、本作は、アデルの人生の舞台を大胆な年齢の移行を伴いながら流れるように見せ、次々に生じる課題の中で不安定な性を維持することを、より繊細なドラマを表現している。

アデルは15歳の時に、自分のデートライフに違和感を覚える。夢見がちな学校の友人のトマス (ジェレミー・ラエルト)はアデルに夢中だが、彼女は青い髪の美大生のエマ(レア・セイドゥ)との、路上での些細な出会いが忘れられない。アデルが及び腰ながら初めてレズビアンバーを訪れた時、2人は再会する。そしてすぐさま恋が花開き、映画史上に残る鮮烈で官能的な女性同士のセックスシーンへと導かれる。しかし、年上で世間擦れしたエマと比べ、アデルは性的アイデンティティについて納得することが完全にはできず、劇中で何年か経過した時にも依然として、2人が共に享受している幸福は儚いものであることが描かれている。

シンプルで、取り立てて特徴があるというわけではないこのラブストーリーから、ケシシュはあらゆる点において、誰にも身近な大作を作り出した。この映画における微妙な感情の変遷のすべてが、スクリーン上のエグザルホプロスのこの上なく表情豊かな顔に表れており、弱冠19歳ながら、ハイティーンから若い大人の女性に至るまでのアデルの成長を苦もなく表現している。一方、ケシシュの映画では恒例だが、彼女の自分自身の探求は、周囲にいる騒がしい友人、家族との食事の場を通して見出すことができる。ケシシュは相変わらず非常に社交的な映画監督であり、新作映画における舞台裏の機微にも、よりいっそう注目する必要があるだろう。


原文へ(Time Out London)

『アデル、ブルーは熱い色』

2014年4月5日(土)より、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
© 2013- WILD BUNCH - QUAT’S SOUS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – RTBF (Télévision belge) - VERTIGO FILMS
2013年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞・国際批評家連盟賞受賞
監督・脚本:アブデラティフ・ケシシュ
原作:ジュリー・マロ『Blue is the warmest color』
出演:レア・セドゥ、アデル・エグザルコプロス、サリム・ケシゥシュ、モナ・ヴァルラヴェン、ジェレミー・ラユルトほか

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