レビュー『SUPER 8 / スーパーエイト』

スピルバーグの名作を巧みにカバーしただけの映画

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レビュー『SUPER 8 / スーパーエイト』

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監督:J・J・Abrams
出演:ジョエル・コートニー、エル・ファニング、カイル・チャンドラー
タイムアウトの評価:

スティーブン・スピルバーグの初期作品が映画ファンの心象にそこまで深く刻み込まれていないのは、作品の視点、人物像、驚くような特殊効果のせいではない。普遍的なものの中に、個人的なことが膨張しているからだ。スピルバーグは、自身の問題への対処と大衆を魅了することを同時に実現しようとする欲求のもと、問題のあった子供時代の挫折からヒット作を生み出している。

『SUPER8 / スーパーエイト』は、1970年代を舞台にした、スピルバーグの初期ヒット作を賛辞した映画だ。『LOST』を手掛けたJ・J・エイブラムスだが、不思議なほど『未知との遭遇』と『E.T.』の印象、感覚、家庭崩壊という設定を模倣している。スピルバーグ自身がプロデューサーの座にありながら、ここに欠けているのは、こういったすべてのノスタルジアは、関係者全員にとって重要であるという感覚だ。

『E.T.』のエリオットのように、思春期前の我らがヒーロー(ジョエル・コートニー)は、親の不在とたたかっている。彼の場合は母親が工場の事故で亡くなった。警察官の父親(カイル・チャンドラー)は、夏休みの間、息子を野球合宿に入れたがっているが、その息子はと言えば、友達と怪獣映画を撮り、かわいくて清純な女の子(エル・ファニング)と心を寄せ合うことを楽しんでいる。

ある夜更け、少年達は劇的な列車事故を偶然にも撮影してしまう。(ここからネタバレのため、ご注意を!)

その事故により解放された地球外生物が、静かな町の脅威となっていく。

この不器用に動く『クローバーフィールド』的なCGIの産物は、登場時間が短いほどいい。(これにより、『ジョーズ』で壊れかけたアニマトロニクスの鮫を使いこなしたスピルバーグへの新たな賞賛が生まれる)一方エイブラムスは、(スピルバーグの制作会社である)アンブリン・エンターテインメントのチェックリスト“自転車の少年達”、“父と息子”、“あやしげな政府の人間”を網羅していく。エイブラムスが“リブート”した『スタートレック』の内輪ウケで終わっているジョーク「転送を頼む」と全く同じように、全てが如才ない。ひどく冷淡な模倣である『SUPER8/スーパーエイト』は、エイブラムスを巧みなカバー映画アーティストとして確立した。彼が真似できないのは、スピルバーグの駄作でさえ備えている、”無邪気な感嘆”だ。スピルバーグのいちばんの傑作『ジョーズ』のセリフを少し言い換えて「エイブラムスには、もっと大きなハートが必要だ」とでも言っておこう。



By A・A・ダウド
翻訳 ウィルクス 恵美
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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