荻上直子、最新作インタビュー

日本のユーモアや“間”は、世界で成立するかチャレンジした

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荻上直子、最新作インタビュー

(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ

映画『かもめ食堂』と『めがね』の公開から3年ぶりとなる、荻上直子監督最新作『トイレット』が、2010年8月28日(土)に公開される。舞台となっているのは北米東部で、出演のもたいまさこ以外はキャストも全員外国人だ。そのため、ほぼ全編英語で展開。国境を越え、言語を越えて生活をともにする家族の姿が、ユーモアたっぷりに描かれている。監督をつとめた荻上に、撮影中のエピソードなどを聞いた。

(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ

フィンランドで撮られた『かもめ食堂』に続き、2度目の海外ロケでしたが、カナダでの撮影はどうでしたか?

荻上:日本での撮影とあまり大きな違いはなかったです。映画をやっている人は皆、次にどう動くかをだいたいわかっていて、それが言葉じゃなくてもわかり合えるんですね。カメラマンもカナダの人でしたが、このシーンを撮ったら次は必然的にこっちのカメラ位置に行く、みたいな。それはどこに行ってもだいたい同じです。ただ、カナダではスタッフの拘束時間が12時間と決まっているのが、大きな違いでした。なので、最後は焦って仕事をするような感じになっていましたが、日本みたいにいつまでも撮れると思わないで、それもまたメリハリがあって良かったです。撮影場所をカナダに決めたのは、東海岸の良い場所を探していて、トロントは映画産業も盛んで映画が撮り易いということからです。

映画を拝見して、喜怒哀楽などの感情は言語を越え、ボーダレスなのだと感じました。

荻上:それはとても嬉しいです。語学が違ったり、海外でロケしたりすることでも、自分の面白みとかユーモアとか“間”とかがちゃんと成立するかどうか、というのが今回チャレンジしたかったことです。

もう海外での試写はやられたのですか?スタッフの方々の反応はどうでしたか?

荻上:スタッフの試写はもうお祭り状態、ぎゃーぎゃー笑って喜んでくれました。だけど皆、身内のようなもので、彼らの反応が実際の観客と同じ反応であるかどうかは難しいですけど……。アメリカ映画はスピードで魅せるというか、編集でスピード感を持たせるものも多いですし、『トイレット』のような作品が受け入れられるのか、どういう反応がくるのか見てみたいですね。ただ、前回の作品『めがね』とか、前々回の作品『かもめ食堂』とか、映画祭でまわったりすると、日本人と同じようなところで笑ってもらえたので、今回も反応を見るのがとても楽しみです。

荻上さんがもたいさんと一緒に映画をやられるのは、『トイレット』で5作目ですが、どういうところがお好きなんですか?

荻上:もたいさんは、映画の役と同じように、いつも寡黙でいらっしゃる。あんまり“べしゃべしゃ”としゃべるタイプの方ではなくて、だけど、ぼそっとおっしゃることがすごく重みのある言葉なんですよね。それがすごくブラックジョークで笑えることもあるし、芯をついている部分もあったりして、いつも本質を見極めている感じがします。

撮影の現場でも、特にご自身でリードしようと思ってしているわけではないと思うのですが、やはり持っていらっしゃるオーラは、青年の役者たちに比べると段違いに大きいですね。ベテランですし、芝居歴にもかなり差があるので、どうしても、もたいさんが現場にいらっしゃると空気感が変わったり、ぴりっとした緊張感が出たりしました。3兄弟を演じた役者たちにも、最初に「もたいさんは日本ですごい女優さんだ」という話をしてあったので、尊敬の気持ちで迎えていたと思います。

日本が世界に誇れるものは色々あると思うのですが、その中からトイレを題材に選ばれたのは、どうしてですか?

荻上:以前、フィンランドの人が日本のトイレに感動していたのを見て、面白いなと思って。その時、ネタのひとつとして、トイレで映画を作ろうと思ったんですよね。

今回、英語で作品を撮られたのはどうしてですか?

荻上:私自身がアメリカに留学して映画製作を学んだ経験のあることが、まず理由にあります。それから、私は90年代のアメリカのインディーズ映画、例えば『ウェルカム・ドールハウス』とか、『ゴーストワールド』とか、『アメリカン・スプレンダー』が大好きなんです。だけど今、そういう世界が廃れてきた部分もあって。やっぱり経済がダメになったのと、ユニオンが強くなり過ぎてしまったこともあると思うのですが、ローバジェットの作品だと言っても、ローバジェットじゃないようなところがすごく大きいんですよ。日本でローバジェットと言えば、数千万円から自由に作れるのに、アメリカではそういうわけにはいかなくなって、5億だったり、10億だったりして、こんなのローバジェットでも何でもない、って私はいつも思います。

でも、今の状況って、どこかで崩れる気がするんですよ。その、崩れる瞬間にいられたら良いな、と思って。 もう今は、グローバルで世界がボーダレスになって、どの国の映画だって観られるようになった。昔の90年代の、ルールとかがまだゆるくて、監督が自由に個性的な作品を作っていた頃のような作品作りに、日本のインディペンデント映画を作る自分も参加したいですし、『トイレット』を作ることで、アメリカのインディーズ映画を改めて見直してもらえるようになれば良いと思いました。

荻上さんが賞を取られた『ぴあフィルムフェスティバル』からは、『ハッピーフライト』の矢口史靖監督をはじめ、日本映画の次世代を担う監督が次々登場していらっしゃっていますが、これから日本映画界を牽引していくような感じはありますか?

荻上:あまり感じていないですね(笑)。結構自分勝手なもので(笑)。皆で何かしていこうとは思わないけれど、ミニシアター系だったり、インディペンデント系と呼ばれる中の映画監督として、盛り上がるひとりになりたいと思っています。

次に海外で撮られるとしたら、興味のある場所はどこですか?

荻上:アフリカですね!

海外で撮影される時に、必ず持って行かれるものはありますか?

荻上:マイマグカップです。今は、フィンランドで買った、ムーミンの絵のついたカップを愛用しています。あと、昆布茶も必ず持って行きますね。

(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ


トイレット

(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ
2010年8月28日(土)から
新宿ピカデリー、銀座テアトルシネマ、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:ショウゲート/スールキート
脚本・監督:荻上直子
出演:アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー、デイヴィッド・レンドル、サチ・パーカー、もたいまさこ




テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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