塚本晋也『鉄男』インタビュー

ものすごく壊れちゃう危険性をはらみ過ぎた世界で、どう破壊を描くか

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塚本晋也『鉄男』インタビュー

塚本晋也の世界的代表作『鉄男』から20年。2010年5月に公開された『鉄男 THE BULLET MAN』のDVD/ブルーレイが、11月4日(木)に発売となった。前日には世界初となる、シリーズ全編『鉄男』『鉄男II』『鉄男 THE BULLET MAN』の全作一挙上映イベントが開催された。発売を控えた塚本に、『鉄男』に対する想いを聞いた。

『鉄男 THE BULLET MAN』は17年ぶりの『鉄男』シリーズ最新作ですが、久し振りに『鉄男』の世界に向き合ってみていかがでした?

塚本:基本的な“鉄男スピリット”はそのままなんですが、そこに流れる気分は違いました。17年の間に結婚して子どもができたり。あとは戦争っていうようなシチュエーションから何十年も離れて、人々がまたそれに近づいていってるんじゃないかという不安というか。そういうものが色々入り混じったような気分が出ていると思います。

映画では主人公のアンソニーが、ずっと悩んでいますよね。親として、夫として、自分はどうするのか。敵の理不尽な暴力に対して復讐するのか、耐えるのか……。そこには監督の今の気分が投影されているのでしょうか?

塚本:ああ、それは今言われて初めて気づきました。確かにアンソニーは自分の投影なのかもしれない。鉄の子どもを育てていく悩み、平たく言うとそういう話だし、戦争みたいなものが身近にきていることの恐怖もあるし。

今回、主人公をアメリカ人に設定したのはどうしてなんですか?

塚本:アメリカ映画を作らないか、と言われて、それを自分なりに温めてきた結果ということもあるし、自分でアメリカ映画を作るというのが一番の遊びでもあったんです。もちろんアメリカでも公開を目指しましたし、それは実現に向かっています。最初はアメリカを舞台にするというアイデアもありました。ニューヨークの空を飛ぶ鉄男、とか広大な夢はあったんですが、最終的には東京というサイバーパンク・シティを舞台にして、そこにアメリカのゲストを迎えるという方が自分らしい『鉄男』になるような気がしたんですよ。

主人公をアメリカ人に設定したことで、“9.11”と結びつけられることもあったんじゃないですか?主人公が報復するかしないか、その選択を問われる作品ですし。

塚本:そういうのは、どこかで入ってきてるかもしれないです。アメリカが復讐すると、こんな効果があるんだって。力のある人は、ちょっと控えてよっていうような。

『鉄男』が生まれた80年代って、例えば『AKIRA』とかスプラッター映画とか、何か破壊衝動みたいなものが文化のなかにありましたよね。でも時代を経て、最近では街や人が壊れる映像が普通にメディアで流れるようになってしまって。

塚本:そうそう、ものすごく壊れちゃう危険性をはらみ過ぎているから、昔みたいにただ壊すだけの映画では、ちょっと難しい。今の自分にはニコニコ笑いながら壊す映画はできないし、それをやったら若ぶってる嘘つきになってしまうんです。だからといって、したり顔しすぎるのもイヤだし。そこが悩ましいところでしたね。映画の最後も、これから先、ブチ壊すかもしれないし、壊さないかもしれないし、どうなるかわからない。でも、選択を間違えると大変なことになるぞ、と。

今回もどんどん変化していくアンソニーの造形デザインが凄かったですが、デザイン面ではどんなところにポイントを置いたんですか?

塚本:映画のコンセプトでもあったんですが、兵器や銃器をイメージしたデザインにしました。鉄の感触も、拳銃のように黒っぽくてゴツゴツした感じを出したりして。あと今回はデザインだけじゃなくて造形までやりました。途中でイヤになるかな、と思ったんですけど、思ったものが形になるのは楽しかったです。

特撮に加えて、音響がまた凄まじかったですね。

塚本:『鉄男』『鉄男II/BODY HAMMER』っていうのは、音と映像の映画と言いながらモノラル録音だったんです。それを劇場でボリュームをデカくしていただけだったんで、「もっと、こうしたい」という想いがずっとあって。今回はその想いを爆発させました。人間が鉄になっていく過程で、肉がちょっと鉄になった時の音と、鉄づくしの段階、あと声もだんだん鉄になっていったりとか、そういうディテールを出したかったんです。最初に音をつけてもらった時もかなり頑張ってつけてもらったんですが、2回目はもっともっと意識的に音を足してもらったんです。録音している時は音が凄過ぎて、僕は耳の正確さを保つためにずっとスタジオの外にいたんです。録音技師の人達は、ひと仕事終えて出てくると、鉄の大きな山を頭に乗せて出てくるような面持ちでした(笑)。かなり疲労感が伝わってきました。

今回のDVD化にあたっては、どんなところにこだわられましたか?

塚本:今回はブルーレイも出るので、まず画と音が鮮明であること。それからエンドロールの音楽は、ナイン・インチ・ネイルズと石川忠さんの2曲が収録されています。どちらも大事な曲なので、1曲に絞ることができなかったんです。あと、普通のメイキングがついているのもつまらないので、本編と同じ音を入れて、その音にシンクロさせたメイキングになっているんです。コンテを入れたり、イメージビジュアルを入れたりして、まったく本編と同じ尺で作った、世にも不思議で斬新な特典映像になりました。

では最後に、DVD/ブルーレイで『鉄男 THE BULLET MAN』を楽しむファンへのメッセージをお願いします。

塚本:家に『鉄男』を連れて行くと、ちょっとお行儀よくなってしまう可能性があるので、家でも目いっぱい音を大きくして『鉄男』を暴れさせてください。映像と音をたっぷり味わってほしいです。


『鉄男 THE BULLET MAN』
2010年11月4日(木)DVD&ブルーレイ発売、DVDレンタル同時開始
ウェブ:tetsuo-project.jp/

テキスト 村尾泰郎
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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