2015年02月18日 (水) 掲載
保守的で愛国者だが、人間の悲劇に敏感なクリント・イーストウッドのような映画監督でなければ、イラク戦争の退役軍人にスポットライトを当てた作品を作ることはできなかったであろう。今作は、まだまだ若い84歳のイーストウッド監督が、1人の兵士の任務に伴う不安や、自らに起こる悲劇を描く。その中には、絶妙な度合いで批判が込められていた。映画『ハート・ロッカー』同様、余分な騒ぎは省き、砂浜での身も震える訓練を経て戦闘地域へと向かう兵士たち(海軍の特殊部隊、ネイビー・シールズ) の献身を称えている。主人公である、兵士の1人クリス・カイル (ブラッドリー・クーパー)は、実在するテキサス州出身のロデオ乗りで、テレビでテロ事件を見たのを契機に軍で最も危険な武器となり、160人を射殺している。
しかし、帰国したカイルに起こる震え、血圧の急上昇、家族崩壊こそが、この映画を今まで制作された戦争映画の中で、最も共感を呼ぶ作品のひとつとしている。体重を増やしてもなお特徴的な神経症は健在 (『世界にひとつのプレイブック』や『アメリカン・ハッスル』の時よりは控え目) なクーパーは、精神不安定状態のカイルをかつてないほどの素晴らしさで演じた。そして、物語は強烈な皮肉で幕を閉じる。見ごたえとしては若干劣るが、全体の印象は頭から離れない作品であった。
2015年2月21日(土)より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:クリント・イーストウッド 脚本:ジェイソン・ホール 原作:『ネイビー・シールズ 最強の狙撃手』クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス著(原書房刊) 出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラージェイク・マクドーマン、ルーク・グライムス、ナヴィド・ネガーバン、キーア・オドネルほか 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
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