インタビュー:トム・フォード

初監督作品『シングルマン』について語る

インタビュー:トム・フォード

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グッチをクールに蘇らせたトム・フォードは、その後、自身の名を冠したファッションブランドを立ち上げ、成功を収めた。またジェームス・ボンドの衣装も担当した。まさに彼こそが、メトロセクシャルな男性そのものといえる。その証拠に、彼は自身のブランドの広告キャンペーンに登場。ヴァニティ・フェア誌の表紙では、着飾った上、ヌードのスカーレット・ヨハンソンとキーラ・ナトレイを従えていた。もはやトム・フォードが達成していないスーパークールなことといえば、評判の良い映画を監督することぐらいじゃないかと思っていたが、今回、やってしまったようだ……。そんなトム・フォード“監督”にインタビューした。

この映画『シングルマン』はヴェネツィア国際映画祭で評価され、主役のコリン・ファースが最優秀男優賞を獲得しました。あなたの映画にチャレンジするという決断は正しかったと証明されたと思いますが、人々がどのような反応をするか心配ではありませんでしたか?

トム・フォード:最初はみんな、すぐに笑いものにされると思ってたんじゃないかな。口では社交辞令で「最高だね。楽しみだね」なんて言ってたけどね。でも実際、冷たく笑われたりすることはなかったよ。

物語をかなり書き直したようですが、それはなぜですか?

トム・フォード:まぁ、本は本だからね。あの本は、大切な人と死別したゲイ男性の心情を描いたもので、映画になるような物語の筋があるわけじゃないんだ。だから、そこを起点にして考えた。コリン・ファースが演じるジョージは、人生最後の日と決めた一日を過ごす。すると、自分の周りの世界がよく見えるようになり、生きることの素晴らしさを実感するようになる。その時に心を奪われたのは、男性の目や女性の唇、親友と過ごした夜などで、物質的な対象ではないんだ。これは、私が脚本を書いている最中に、まさに感じたこと。私は元々、非物質的なほうだったけど、グッチをやっていた間は物質的なものに頼り過ぎていた。グッチを離れた当時、私は、カルチャーシーンにおける自分の役割が終わり、さらには自身の存在も終了したかのような気持ちになった。悲嘆にくれたよ。物質的な美しさは今でも好きだけど、非物質的なこととのバランスの中に存在しているよ。

この映画の題名はテニスンの詩からですよね。永遠の若さではなく、永遠の生命を手に入れた人についての詩ですが、永遠の生命は価値があると思いますか?

トム・フォード:永遠の生命は欲しくないね。バラは朽ちるからこそ美しい。悲しみと美しさは繋がっていると思う。

驚きはしませんでしたが、とてもスタイリッシュな映画になりましたね。ヒッチコックの影響が垣間見られました。『サイコ』でのジャネット・リーの目がセットの背景に使われていたし、バーナード・ハーマンが作曲した『めまい』の音楽への言及もありましたね。

トム・フォード:ヒッチコックは大好きな監督のひとり。彼の映画では、すべての要素に完璧なスタイルがあり、私はそれの虜になっている。何かをスタイリッシュじゃないように終わらせようとしても、結局はどこかでスタイリッシュになってしまう。でも、わざわざスタイリッシュさを演出しようしていたのではなく、現場で「その時計を少し動かそう。そんな酷い絵を彼は飾らないよ」というようなやりとりをしていただけなんだ。キャラクター作りの手助けになるように、役ごとにヴィジュアルのアイディアをまとめたバインダーも用意したりね。例えば、ジョージの使う香水は決まっていた。文房具はスマイソン、ジェケットにはサビルロウのロゴを入れる。というようにね。

映画の衣装担当がいるのに、コリンはあなたがデザインした服を着ていたようですね。

トム・フォード:違うんだ。コリンの服は、映画の衣装を担当したアリアンがきちんと考えた。だけど、作ったのは私なんだ。質感については、私がいちばん把握してたからね。今でも彼の服を作るよ。私は、彼のテイラーだね。

あなたはかつて、ファッションは消費されるもの、映画はアートだと言ってました。しかし、ファッションもクリエイティブだと、思うのですが。

トム・フォード:そうだけど、持続性が違うね。映画は、それが1932年の映画だったら、出演者は天国にいるかもしれない。でも、その映画は観るものを泣かせ、笑わせることができる。いちばん永遠なものだと思う。

映画といえば、『セプテンバー・イシュー』は見ましたか?どう思いましたか?

トム・フォード:好きだったよ。知っている業界の話だしね、ヴォーグ誌のグレースは私が尊敬している人だ。ファッション業界の人は、表面的なとこしか見せないところがある。実際、私も世間に対しては、自分が意図した以外の部分は見せなかった。しかし、グレースはとても情熱的だ。彼女の仕事はアートといえるね。

ジュリアン・ムーアは、『エデンより彼方に』とあなたの映画に出たことで、ゲイの男性にとっての魅力的な女性という存在になりつつありますね。この映画では、寂しがりで、歳を重ねたジョージの女友達を演じ、心を打つ演技をしていました。

トム・フォード:歳を重ねた女性たちについては、映画をひとつ作りたいぐらいだね。男性は、スポーツカーを乗り回して、若いブロンド女性とデートするみたいな、誰もが描くイメージがあるだろうけど、女性についてはそんな風にならないだろう。私は、女性のために働いているようなところもあるし、女性が好きだ。まぁ、ストレートの男性が意味するのとは違うけど。より客観的に見ていると思う。

どうであれ、ストレートの男性の多くが女性を“愛さない”ですよね。

トム・フォード:もし、私が女性だったら、レズビアンになっているかもね。

ということは、恋愛対象が女性になるということですよね?

トム・フォード:もし、私が女性なら、そうだろうな。女性を好きにならない、ってことはないと思う。

主演のコリン・ファースがとても素晴らしいですよね。力を発揮していました。彼は素晴らしい役者ですが、うまくいかないこともあるようですね。

トム・フォード:会えば会うほど会いたくなる。ジョージのキャラクターの特徴はまさにそれだった。表面的には、魅力的だけど、どこか影があって、ロマンティックで、悲しみと何かを切望する気持ちを内に秘めているようなところがある。コリンにもそんな印象を受けるね。

ジョージは多くのことを抑え、いや抑えなければならなかったわけですが、これは“クール”であることの定義ともいえますよね。そして、あなたはその様に振る舞っていると、仰っていましたが。

トム・フォード:そうだね。人に見せている部分と、実際の自分というのは違うだろうね。でもそれは、自分がそうしようと、コントロールしようと思っていることでもある。実は写真が嫌いなんだけど、得意でもあるんだ。撮られる時は、ライティングやアングルの指示を自分でするんだよ。みんなおかしいって笑うけど、どう見えるのがベストか知っているのは自分だしね。みんなが見ているのは、そうした結果なんだ。宣伝のための手段だし、自分の好きなこと、クリエイティブな仕事をできる場面でもある。

同映画は2010年10月2日(土)より、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー

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原文 ニーナ・カプリン
翻訳 東野台風
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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