撮影:篠山紀信
2010年05月20日 (木) 掲載
歌舞伎や能にはよく行くものの、『日本舞踊』を観たことが無いという人は多い。だが実は、古代からの日本の舞踊を集約した『日本舞踊』は、伝統芸能の初心者であっても、“観るもの”として楽しむことができる優れたパフォーマティブ・アーツなのだ。舞台芸術を鑑賞する機会はたびたびあるにも関わらず、能や歌舞伎に比べると、『日本舞踊』はパブリシティが少ない。その理由を、日本舞踊界をリードする『五耀会』の中心人物、西川箕乃助に聞くと、「日本舞踊は“習うもの”という認知の方が強くなってしまって、“観るもの”としての認知が低い」とその背景を語った。
だが本来は、“言葉”を中心に展開される演劇である歌舞伎や狂言よりも、リズムと旋律と動きで構成される『日本舞踊』の方が人間の感性に直接うったえかける芸術なのだから、パフォーマンス自体の持つ性質からいえば、初心者には“入りやすい伝統芸能”になるはずだ。特に「歌舞伎で役者が音曲に合わせて踊り、舞う姿が好き」という方なら、『日本舞踊』の公演は多分に楽しめるはずだ。なぜなら、歌舞伎における“踊り”こそ『日本舞踊』であるからだ。
ではそもそも、『日本舞踊』とは何か。その歴史は400年もの長きに渡っており、それより以前に存在した『能』や、日本各地の様々な舞踊の古典技法を基礎としながら、その時代ごとの新しい技も導入しつつ作り上げられたもの。なかでも大きな要素をしめるのが『歌舞伎踊り』だ。演劇、音楽、舞踊の3つの要素を組み合わせた『歌舞伎』がエンターテインメントとして成立した17世紀のはじめごろに誕生した振り付け師。彼ら、“踊りのプロフェッショナル”たちが連綿と技を磨きつづけた結果、『日本舞踊』は現代へと受け継がれている。
現在の『日本舞踊』は、江戸の“踊り”と上方の“舞”に大別できる。江戸では五大流派といわれる西川流、藤間流、坂東流、花柳流、若柳流を中心に発展。上方には山村流、井上流、吉村流、楳茂都流がある。なかでも最も長い歴史を持つのが、前述の西川箕乃助の父で、人間国宝の十代目西川扇蔵が率いる西川流だ。18世紀初頭(江戸時代)の初代扇蔵の時代から、歌舞伎作品の振り付けを数多く手がけてきた。歌舞伎の演目として最も有名といってよい『勧進帳』も、振り付けは四代目扇蔵によるもの。
長い伝統を誇り、稽古事としても親しまれている『日本舞踊』だが、流派を担う若手のプロフェッショナルは、これから“芸能”として存続していくにあたって、共通の危機感を抱いている。西川箕乃助に『五耀会』について聞いた。
「日本舞踊には、プロの踊り手がチケットを購入して観に行く舞台芸術としての側面もあるということをもっと知ってもらいたい。そんな想いを抱いていた5人によりはじまった踊りの会が、五耀会です。“習う日本舞踊”も当然ながら大事ですが、やはり我々としては、お金をわざわざ払うに値する舞踊を舞台で演じたい、という気持ちも強く持っている。“観るもの”としての認知度が低いことに対して、問題意識を持っています。日本舞踊は、“観るもの”としても結構面白いものなのです」
また、初めて観る者が、どのように楽しめばいいのかについて、西川は「踊りなので、基本的にはセリフがありません。歌に合わせて踊りますが、歌詞を聞き取ろうと頑張らずに、旋律の音楽的な情緒を感じながら、深いところからにじみ出てくるように表現されるものを感じてほしいと思います」と語った。
2010年5月23日公演のチケットは残念ながら完売しているが、観客を魅了する踊りのプロフェッショナルであることをアイデンティティとする舞踊家が集う公演は今後もつづく。“観せる”踊りとしての日本舞踊界のチャレンジ、ぜひ足を運んでほしい。
五耀会
日程:2010年5月23日(日)
時間:14時00分から
場所:三越劇場
出演者:西川箕乃助、花柳寿楽、花柳基、藤間蘭黄、山村若
電話:03-3404-6928
ウェブ:www.goyokai.com/
舞踊『源平絵巻』
日程:2010年5月29日(土)
時間:14時00分から
場所:国立劇場 大劇場
出演者:西川扇蔵、西川箕乃助、藤間蘭黄、ほか
電話:0570-07-9900/03-3230-3000(国立劇場チケットセンター)
ウェブ:ticket.ntj.jac.go.jp/
第十一回 西川扇蔵 素の会
日程:2010年6月6日(日)
時間:17時00分から
場所:国立劇場 小劇場
出演者:西川扇蔵、西川箕乃助
電話:03-3355-6878(西川流事務局)、0570-02-9999(チケットぴあ)
ウェブ:www.nishikawaryu.jp/
(国立劇場での公演は、国立劇場チケット売り場での直接購入も可能)
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