映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』レビュー

GOMAの過去と現在を描いた感動的なドキュメンタリー作品

映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』レビュー

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オーストラリアの先住民族、アボリジニの伝統楽器であるディジュリドゥ。その日本における第一人者として前人未到の活動を続けてきたGOMAが交通事故にあったのは2009年末のことだった。その少し前、彼は活動10周年の節目となるイベントを終えたばかりで、まさに次のステップへと踏み出そうというタイミングでの事故だった。

事故後のGOMAの症状は深刻なものだった。過去の記憶が部分的に失われ、新たな記憶が定着しづらくなるという症状は「外傷性脳損傷」と医師に診断された。音楽活動は当然休止。彼を知る者はいつの日かやってくるであろう活動再開を信じて待ち続けるしかなかったが、それがいつの日になるのか、僕らはおろかGOMAや彼の家族すらも分からなかったはずだ。そんな苦しい日々のなかで彼は脳内に広がる景色を点描画という形で定着させるようになっていく。その後開催された展覧会で展示された作品にはまばゆいばかりの色彩が踊っていて、僕らを多いに驚かせた。それまでまったく筆を取ったことがなかった彼が何かに取り憑かれるようにキャンパスに向かったというのも不思議な話だが、GOMAにとってそれは霧中を手探りで歩くような日常における道標のようなものだったのかもしれない。そうした日々のなかディジュリドゥをふたたび手にするようになったGOMAは、少しずつ活動再開へと動き出していく──。

映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』は、そんなGOMAの過去と現在を描いた感動的なドキュメンタリー作品だ。監督は『童貞。をプロデュース』や『ライブテープ』などの作品で知られる松江哲明。斬新な手法でドキュメンタリー表現の可能性を提示してきた彼はGOMAの人生をどのように描いたのだろう?興奮を押さえるように劇場に向かった。

まず驚かされるのが、本作が3Dで撮影されているという点。その前情報を聞き、3Dがどのように使われているのかさっぱりイメージできなかったのだが、いくつもの時間軸がレイヤーのように折り重なった映像世界は確かに3Dでしか表現し得なかったはず。ときおりGOMAの点描画がインサートされることにより、何とも言えぬサイケデリックな効果を生む。大きなスクリーンで観ると、この3D効果にまずノックアウトされる。なんとういうか、未知の映像表現に触れているという感覚に陥るのである。

作品の基調をなすのは、GOMA率いるGOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTIONの演奏シーン。ディジュリドゥの重低音と生命力に満ち溢れたグルーヴが全編で鳴り響いており、思わず劇場の座席から立ち上がって踊り出してしまいたくなる人もいるかもしれない。

そして、そこに挟み込まれるさまざまな「記憶」。愛する家族やTHE JUNGLE RHYTHM SECTIONのメンバーとの日常。かつてGOMAが歩んできたオーストラリアやイギリスでの生活。こちらはそうした映像をGOMAの過去の歩みとして観るが、ふとした瞬間にGOMA自身がこれらのシーンを覚えていないだろうことが思い出されて胸が締め付けられる。平和だった過去の記憶。死まで考えたという事故後の記憶。そして、多くの人々に支えられてふたたびステージへと舞い戻った復活後の記憶。そうしたいくつかの記憶が活き活きとしたリズムに乗って編み直され、未来に向けて解き放たれていく。そこに描き出されるのは、苦難を乗り越えたGOMAとその家族、仲間たちの逞しさ・勇気だ。GOMAから「僕も大変だけど、君らもがんばれよ!」とエールを送られているような気分になるのは僕だけじゃないだろうし、観終わった後には清々しさだけが残るはず。『フラッシュバックメモリーズ 3D』は素晴らしい音楽映画であり、嘘偽りのないヒューマンドラマであり、松江監督の誠実な眼差しがあってこそ形になった傑作ドキュメンタリーである。

現在のGOMAの表情は明るい。復活直後に見られたような不安げな表情は少しずつ消え、今ここでしっかり踏ん張ろうという決意が漲っているかのようだ。この映画を観て心が震えた方は、今後の彼の歩みもぜひ温かく見守ってほしい。


『フラッシュバックメモリーズ 3D』

監督:松江哲明
出演:GOMA&&THE JUNGLE RHYTHM SECTION
ウェブ:http://flashbackmemories.jp/
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開中

GOMA 記憶展 第三章 ひかり

期間:2013年3月9日(土)~20日(水)
会場:KATA
映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』の公開を記念したGOMAの個展。

※映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』との連動キャンペーンが決定。チケットの半券もしくはパンフレットを持参すると、ポストカードをプレゼント(一人1回限り/KATAのみ。在庫が無くなり次第、終了)

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テキスト 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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