インタビュー:ソフィア・コッポラ

「ここではないどこか、ジョニーは変化を求めている」

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インタビュー:ソフィア・コッポラ

(c)2010-Somewhere LLC

ソフィア・コッポラ監督の最新作『SOMEWHERE』が、4月2日(土)より全国31館でスタートした。第67回ヴェネチア国際映画祭を制したこの新作は、すさんだセレブ生活を送る俳優の父と、ティーンエイジャーになる一歩手前の娘が過ごす、かけがえのない日々優しく描いたハートフルなドラマだ。

舞台はハリウッド伝説のホテル“シャトー・マーモント”。フェラーリを乗りまわし、退廃的に暮らす映画スター、ジョニー・マルコ(スティーヴン・ドーフ)のもとへ、前妻と同居する11歳の娘クレオ(エル・ファニング)がやって来る。ひさしぶりに娘と過ごす親密な時間のなか、ジョニーはやがて気付いていく――自堕落な生き方が置き去りにしてきた、大切な何かを。

父フランシス・フォード・コッポラとの思い出や、2児の母でもある自らを投影したパーソナルな家族の物語ともいえる本作について、ソフィア・コッポラに聞いた。

今回、父と娘の物語に興味をもったきっかけは?

ソフィア・コッポラ:私の友達に映画と同じような境遇の女の子がいて、彼女から聞いた話にインスパイアされたんです。もちろん、私も父親がいますから、父と娘という関係には馴染み深いものがあります。でも、私と父の関係は、映画のジョニー・マルコとクレアの関係とはまったく違ったものです。

自分が母親になったことは少なからず関係していますか?

ソフィア・コッポラ:もちろん。それは大きな影響を与えていると思います。これまでとは違った視点から、親と子の関係を見ることができましたから。今回の映画は、まずジョニー・マルコというキャラクターを思いついたところから始まったんです。ジョニーは私生活でいろんな女性に取り囲まれている。そんなところに、思春期の娘が突然やってきたら、彼はどんな反応をするんだろう。それを描いたら面白いかもしれないと思ったんです。

男性を主人公にしたのは今回が初めてですね。

ソフィア・コッポラ:様々な男友達のことを考えたりしながら、多分男の人はこういうことを考えているんだろうな、とか、こういうことをするんだろうなとか、いろいろ想像しながら脚本を書きました。スティーヴン(・ドーフ)が脚本を読んだ時に感想を聞いたら、「ああ、こんな感じだよ」と言ってくれて安心したんです。例えば映画のなかで出張のポールダンサーが出てくるんですけど、あれは私の想像だったんです。でも、スティーヴンは実際にパーティーでああいうダンサーを見たことがあるらしくて。それを聞いて、私の想像もまんざらじゃないなって思いました(笑)。

ジョニーとクレアとの日常が丁寧に描かれていきますが、とてもプライベートな雰囲気が印象的でした。演出面でとくに気をつけたことはありますか?

ソフィア・コッポラ:観客の方々には彼らと一緒に暮らしているような、彼らの実生活を間近で見つめているような感じで映画を観てもらいたいと思ったんです。そのために3つのことに気をつけました。まず、カメラをあまり動かさないで長回しすること。次に、編集では細かく切らずに長いシーンにする。そして3つ目として、スタッフの数を最小限に抑え、撮影現場の雰囲気を親密なものにしたんです。

映画全体がミニマルなタッチで作られていますね。セリフもすごく切り詰められています。

ソフィア・コッポラ:私が映画が好きな理由のひとつとして、映像で物語が語れる、ということがあります。つまり言葉を使わなくても、その人が思っていることや言いたいことを伝えることができるところです。もともと私の映画はセリフ重視ではありませんが、今回の映画も言葉では語れないことを映像を使って語りたいと思っていました。それに今回の作品では、ジョニーが抱えている空虚感を描きたいと思ったので、できる限り沈黙を大切にして、使う音楽も最小限にしたんです。

2人が一緒に暮らすホテル、シャトー・マーモントも印象的です。ハリウッドでは伝説的なホテルだそうですが、あなた自身、何か思い出があったりしますか?

ソフィア・コッポラ:シャトー・マーモントは歴史があって、いろんな逸話が残されてて、とてもユニークな場所だと思います。これまで映画スターをはじめ、ファッションカメラマンやミュージシャンなど、いろんな人々が滞在して、いろんな歴史を刻んできたんです。私は大学生だった頃によく友達と飲みに行ったりしたんですが、行く度にいろんな面白い人達と出会いました。だから、私自身もとても思い出の深い場所なんです。

『ロスト・イン・トランスレーション』でもホテルという空間が重要な役割を果たしていましたが、今回の映画ではホテルは親子にどんな影響を与えているのでしょうか?

ソフィア・コッポラ:ジョニーは家を持っていない、つまり、定住場所がないんです。作品と作品の間にホテル暮らしをするというのは、俳優にはよくあることなんですが、定住場所がないということは、ジョニーがいま人生の過度期にいることとも重なっています。そして、そこにやってきたクレアは、ホテルの部屋で料理をしたり、いろいろすることで、そこを我が家のような場所にしようとするんです。

クレアの存在がジョニーに“家”を与えて、彼に人生を考えるきっかけになるんですね。では最後に映画のタイトルの意味について教えてください。

ソフィア・コッポラ:簡単に言ってしまうと“ここではないどこか”。ジョニーは変化を求めていて、今いる場所からどこか別の場所に行きたいと思っているんです。でも、その“どこか(Somewhere)”が、実際にどこであるかは二の次で。つまり、彼が変化を求めて何かを変えたいと思っている、それがこの映画の大切なところなんです。


ソフィア・コッポラ新作『サムウェア』のレビューはこちら

インタビュー 村尾泰郎
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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