映画『二郎は鮨の夢を見る』レビュー

アメリカ人監督が映す、国宝級鮨職人が追い求める究極のシンプル

映画『二郎は鮨の夢を見る』レビュー

『二郎は鮨の夢を見る』タイムアウトレビュー

まるで夢の中にいるかのようだった。『すきやばし次郎』の店主、小野二郎を追った、デヴィッド・ゲルブによる瞑想的で美しいドキュメンタリー映画は、食通はもちろん、映画好きも垂涎ものの作品だ。この85歳の鮨職人を、美食家セレブのアンソニー・ボーディンは称賛。そして、こじんまりとした小野の店は、ミシュランガイドで最高点を獲得した。スクリーンに映し出される見事な食材のカットは、作品の見所のひとつとなっている。二郎が切り出す切り身のクローズアップは、半透明で美しく、まるで細胞がまだ生きているかのよう。ただ座って食材を眺めながら涎をたらすだけでも、十分と思える作品だ。

だが、ゲルブはもちろんそれだけでは満足しない。この作品は、二郎が極めたシンプルかつミニマムな手法を映画化したかのようで、82分の上映時間に無駄なくまとめられている。フィリップ・グラスやマックス・リヒターの選曲も素晴らしい。特筆すべきは、二郎の長男でカウンターにも立つ、小野禎一だ。二郎と禎一、父と子の間にある緊張感が鋭く、そして静かに描かれている。寿司職人になるべくして生まれた天才である二郎対して、禎一は修行で技を鍛錬させた技の天才だ(劇中、彼が子ども時代に描いたパイロットになる夢を語る時、何気ない態度ではあるが、ほんの少し後悔の念を感じさせる)。彼らの天賦の才能は疑う余地がないが、鑑賞後、2人の天才の間にある絶妙な不音の余韻が残るだろう。

原文へ(Time Out New York)



『二郎は鮨の夢を見る』

製作・監督・撮影:デヴィッド・ゲルブ
出演: 小野二郎 他
配給:トランスフォーマー
2013年2月2日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国順次公開

舞台となった『すきやばし 次郎 本店』の情報はこちら


By キース・ウーリッチ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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