映画『007 スカイフォール』レビュー

サム・メンデスが監督したシリーズ50周年記念・史上最高のボンド映画

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映画『007 スカイフォール』レビュー

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『007 スカイフォール』タイムアウトレビュー

ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドにQ(ベン・ウィショー)が言う。「突然ペンが爆発するかとでも思った?そんなのはもう時代遅れだよ」。『007 スカイフォール』は、これまでのボンド作品を振り返りつつも、明らかに前進している。伝統と革新が常に混ざり合う、これぞまさに007だ。サム・メンデス監督(『アメリカン・ビューティ』、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』)によるシリーズ最新作は、厳かなビジュアル、薄暗いムードと、どっしりとした安定感が特徴だ。シリーズ50周年目を迎える本作には、ファン酔狂のボンドらしい渋いリマークはもちろん、『ゴールドフィンガー』に登場するアストンマーチンDB5や、3代目ジェームズ・ボンドのロジャー・ムーアが『死ぬのは奴らだ』で飛び乗ったワニのような、古典的ボンドの魅力が目白押しだ。

007シリーズはこれまでにも映画作り最高の宝石を次々と取り入れてきた。2008年の『007 慰めの報酬』は『ボーン』シリーズに影響されたかのような仕上がりだったが、『スカイフォール』では最近主流の、暗いダークヒーロー作品の傾向を汲み取りつつ、社会情勢にも敏感に反応している。テロリズム、データ盗難やハッキング、昨今の政況が描かれるが、実際の事件に関連づけることはしない。ボンド映画では、雰囲気が重要なのだ。現代社会が面している状況が嗅ぎ取れれば充分なのだ。

イスタンブールのミッションが失敗に終わり、シークレットエージェントの名前が敵に渡ってしまったことに苦しむボンド。その頃、故郷ロンドンのMI6本部も爆破され、M(ジュディ・デンチ)に危機が迫っているのが明らかになる。Mや英国政府の上官、マロリー(レイフ・ファインズ)を陥れた容疑者を追うため上海やマカオをわたりながら、ボンドは次第に元の自分を取り戻していく。

ハビエル・バルデムが魅力的な悪役・シルヴァを好演している。女性っぽいなよなよとしたキャラクターで薄気味悪いが非常に洗練されていて、ボンドの足に手をはわせるシーンは見物だ。ボンドの男らしさの危機に、この映画に出資した協賛企業はひやひやしたかもしれないが、クレイグ演じるボンドは眉一つ変えず、塵も動じない。観客が喜びそうな気の利いた台詞も(走行中の電車の屋根を飛び移りながら「馬車を乗り換えるぞ」など)まるで葬式の最中のジョークかのように飛び出してくる。

『スカイフォール』はボンド映画そのものだといっても過言ではないだろう。イスタンブールのグランバザールの屋根で繰り広げられるバイクチェイス、上海に切り立つ高層ビルのガラスに輝くネオンの光から、フィナーレのどんよりと重いスコットランドの風景まで、目を奪うビジュアルタッチは見事だ。ボンドの両親との確執をほのめかせつつ、全てをさらけ出さずにボンドの感情の深淵をかいまみせる演出も素晴らしい。観客が古典的なボンドらしさを期待しているのをメンデスは熟知している。正当なボンド的方程式をきちんと計算した上で、新しいボンドの魅力を存分に引き出しているのだ。だが、ナオミ・ハイリス演じるMI6同僚のボンドガール、ベレニス・マーロウの魔性の女は、やや迫力に欠けつまらない。観光案内のようなマカオのシーンも、どこか場違いだ。舞台が英国に移る後半、メンデスはようやくボンド映画にかかせない奥の手を次々と出し始める。息をのむ複雑なアクションシーンが繰り広げられる中、ボンドと敵の孤独なフィナーレのクライマックスに向け、感情を揺さぶるストーリーは一気に高まっていく。

原文へ(Time Out London)

『007 スカイフォール』

監督:サム・メンデス
出演: ダニエル・クレイグ 他

配給:ソニー・ピクチャーズ
2012年12月1日(土)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー



翻訳 佐藤環
テキスト デイヴ・カルホン
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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