インタビュー:矢田部吉彦

東京国際映画祭プログラムディレクターが語る映画祭の魅力、楽しみ方

インタビュー:矢田部吉彦

今年で早25回目を迎える東京国際映画祭(以下、TIFF)。タイムアウト東京では『TIFFでしかできない25のこと』と題してTIFFをより楽しむためのティップスを紹介したが、今回はTIFFの舞台裏に迫ってみよう。映画祭のコアとも言える上映作品の選定を担っているのが、プログラミング・ディレクターと呼ばれる人物。『コンペティション』部門のプログラミング・ディレクターを務める矢田部吉彦に話を聞いた。

矢田部吉彦


―プログラミング・ディレクターという役割について、どんなことをされているのか教えてもらえますか?

矢田部:とにかく、映画祭で上映する作品を“選ぶ”、そして選ぶために、“1年中探し続ける”ということですね。海外の映画祭やフィルムマーケットに出張に行ったり、映画会社の方とミーティングをしたり。プロデューサーにも会ったりしながらほぼ1年中かけて、作品情報を集めています。TIFFは10月開催なので、8月中に上映作品を決められるよう、6月、7月、8月で選考作業をします。

―いつからこの職務についているんですか?

矢田部:作品の選定に関わり始めたのは約8年前で、現在の肩書きで仕事をはじめたのは6年前からですね。

―選定のために、年間何本くらい映画を観ているんですか?

矢田部:映画を観るのは自分の趣味なので、どこまでが選定作業なのか線引きが難しいですが、年間750本~800本は見ていると思いますね。その内の500~600本が映画祭の選定に関わる作品です。

―TIFFにおける、選定の特色は? 東京だからこそ意識するポイントなどはありますか?

矢田部:TIFFは、10月に行なわれるので、その年の後半の新作を東京で公開することにこだわり、欧米作品に関してはアジアン・プレミアを、アジア作品に至ってはワールド・プレミアを目指しています。“東京だから”ということを意識せずに、グローバルスタンダードというか、世界の映画祭の照準に合わせたいと思っています。やはり、日本映画やアジア映画を多く入れたいという思いはありますが、アニメやサブカルチャーを増やす、ということはあえて意識していないですね。それから、日本はやっぱり映画のマーケットが世界の中でも広い国いんです。海外の映画祭では、そこで上映されれば、一般の映画館で公開されなくても良しとする風潮があるんです。その風潮にお客さんも満足しているから、海外の映画祭ではアート色の強い、コア向けの作品が多くなる傾向にあると思うんです。逆に東京では映画ファンの層が広いので、あらゆる層に楽しんでもらえるよう、“メジャー系と、コアなアート系の作品とのバランス良いプログラミング”を意識している部分はあります。

―グリーンカーペットに象徴されるように、TTIFFは、環境をテーマにした部門がありますね。

矢田部:この部門は、今年、私が一番力を入れて選定しました。『最後の羊飼い』なんて、泣いてしまいましたし、素晴らしい作品ばかりです。“人間賛歌”をテーマにした作品と“地球やエコロジー”がテーマの作品の、2つの柱で成り立っています。作品的には、“ショッキング系”と“癒し系”に分かれると思いますね。唯一の音楽モノである『ヨーデルは夢をみる』は後者にあたるんですが、音楽は素晴らしいし、景色は圧巻。ストーリーも面白く、本当に素晴らしい作品です。逆に、動物の肖像画を72分間、セリフ無しで見続ける『檻の中の楽園』はアート度100%で、挑発的でもあります。

―映画祭ときくと、一般の人には敷居が高く、映画業界向けの“見本市”的な雰囲気があるようにも思えますが、一般の人がよりTIFFに参加しやすくするためには、どうすれば良いと考えますか?

矢田部:そこが課題なんですよね! TIFFのことは聞いたことがあっても、一般の人が行けるイベントとは思われていなかったり。グリーンカーペットをセレブレイティが歩いてその模様がテレビで報道されたり、TIFFが派手な露出をすればするほど、一般の人たちは隔たりを感じてしまう。それを越えるのが、最大の課題です。

―最後に、矢田部さんが考えるTIFFの楽しみ方を教えてください。

矢田部:TIFFに初めて来場される方には、映画祭では上映後に“映画監督やキャストに直接Q&Aができる”ということを知ってほしいですね。映画館とは違う映画体験をできるはずです。ウェブサイトで、来場ゲスト付きの回を調べて狙って来るのも良いのでは。それから、金額的にお得なので普段なら自分では観ないようなタイプの映画を積極的にトライしてほしですね。特に、学生さんは学割金額(当日券のみ500円で発売)で観覧できるので、非常にお得です。自分の引き出しを増やしに、そして可能性を広げに来てください!



矢田部オススメの『コンペティション部門』上映作品


『ティモール島アタンブア39℃』


© MILES Films
矢田部: 今年のTIFFでは『アジアの風』部門において、インドネシアを特集していますが、その中の1人、リリ・リザ監督の新作『ティモール島アタンブア39℃』をコンペティション部門で紹介しています。彼の旧2作品『虹の兵士たち』と『夢追いかけて』は『アジアの風』部門で上映されるのですが、この『ティモール島アタンブア39℃』は、今までのリザ監督の庶民的な作品とは違い、リリカルでアート色の強い作品に仕上がっています。インドネシアの注目作家の新作を発信できるたり、1人の作家のプログラムをまとめて紹介できるのは嬉しいですね。


『フラッシュバックメモリーズ3D』


『フラッシュバックメモリーズ 3D』©SPACE SHOWER NETWORKS.inc
矢田部: 松江監督は、ジェームス・キャメロン、ヴィム・ヴェンダーズ、そしてヴェルナー・ヘルツォークに続く、革新的な3Dの扱い方をしています。ナレーションなし、テロップなし、というかなりストイックな作り方ですが、国境を越えて伝わる作品だと思います。松江監督は(高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者)GOMAさんの現在の姿と過去の記憶を3Dで映し出すことによって、記憶のレイヤーを、奥行のある3Dで表現できるのでは?と試みたんです。その発想自体が、もう天才ですよ。見事な出来栄えです。


『風水』


矢田部:これはもう、悪妻役の女優、イエン・ビンイエンの演技が素晴らしいんです!女優映画ですね。イエン扮する、強烈な上昇志向を持つ主婦の幸せの追求とその代償を描いた作品なんですが彼女の熱演と存在感は素晴らしい。


『黒い四角』


矢田部:中国の北京郊外の芸術家村に移住して制作活動をしている日本人監督、奥原浩志の作品です。奇妙で、美しくて、時空を超えたラブストーリー。とにかく、とても不思議な作品なんです。日本の中堅どころといえる奥原監督の新境地、というところにも注目したいですね。


『イエロー』


©medient 2012
矢田部:この作品は……注目ですね! トロント映画祭で上映され、世界では今回が2度目の公開となります。僕はニック・カサヴェテス監督を個人的に追っているのですが、『きみに読む物語(2004年)』からはガラっと変わった、彼の新境地と言えます。主人公の女性教員が観る世界を、非常にポップで楽しいイマジネーションを駆使して描いているんですが、テーマ自体は非常にヘビーなんです。このギャップはすごいですよ! 観た後は、不思議感にとらわれ、映画について誰かとしゃべりたくなるんじゃないでしょうか。色々な捉え方ができるエンディングなので。それから、役者陣が素晴らしいです。シエナ・ミラーはブッ飛んでいるし、メラニー・グリフィス、ジーナ・ローランスといったキャスティングも最高です。


『ニーナ』


© 2012 Magda Film, Paco Cinematografica
矢田部:大学で建築を専攻したエリザ・フクサス監督による本作は、画面が非常にスタイリッシュなんです。建物や街並みを切り取るショットや、空間の使い方にとても独特な才能があります。ニーナという若い女性が主人公の自分探し的な面のある作品ですが、ポップでスタイリッシュな作品に仕上がっていて、特にアート系の学生には是非観ていただきたいです。




ワールドシネマ部門

『スプリング・ブレイカーズ』


© Muse Film – Radar Pictures
矢田部:これは鉄板です! ハーモニー・コリン監督の作品ですが、彼が“次のステージ”に上がった印象を受けました。『ジュリアン(1999年)』の時のようなアート色は薄れ、どちらかというと『キッズ(1995年)』のようなハチャメチャぶりはあるんですがでも、バカバカしいだけでなく、アメリカの闇をきちんと描いている。海外でも批評家受け、一般受け、ともに良いです。


『ストラッター』


© Allison Anders and Kurt Voss
矢田部:ロック音楽と相性のいい作品を撮るアリソン・アンダース監督と、カート・ヴォス監督との共同作品。ダイナソー・ジュニアのJ・マスシスが音楽を担当しているということもあって、特に音楽ファンには是非とも観て頂きたい! スタッフにも評判が良いです。

『ある嘘つきの物語 モンティ・パイソンのグレアム・チャップマン自伝』


© Liar's Films Ltd.
矢田部:14人のクリエイターが3Dアニメーションで故グレアム・チャップマンの自伝を映画化しました。彼の死後に作られた作品ですが、ナレーション部分は本人の生前の朗読音源を使っているという面白い作品です。


『サイド・バイ・サイド』


©2012 Company Films, LLC
矢田部:これは今年絶対観ておかなければいけない一本です! キアヌ・リーブスが様々な監督に質問を投げかけていく、という構成なのですが、フィルムからデジタルへという映画の過渡期において、非常に重要な意味を持っているドキュメンタリー作品です。出演している監督陣の顔ぶれも豪華で、観ていて飽きません。




日本映画・ある視点部門

※新しい才能の発見が期待できる部門。かなりインディペント色が強く、若いクリエイターがシリアスに社会問題や身の回りのことを描きこんでいる作品が多い。

『あかぼし』


矢田部:吉野竜平監督は役者の演技の引き出し方が素晴らしいです。とてもリアルに物語を綴っていて、一切甘えのない作品です。是枝裕和監督に近いところがありますね。


『GFP BUNNY-タリウム少女のプログラム』


©W-TV OFFICE
矢田部:ドキュメンタリー+フィクション+再現ドラマとでも言いましょうか。今話題の、iPS細胞がらみの話も出てきます。刺激的な作りで、注目の作品だと思います。


『はなればなれに』


©Particle Pictures Co.,Ltd
矢田部:タイトルから分かるとおり、ジャン=リュック・ゴダール監督を意識したと思われる作品です。何人かの男女がたわむれる様を描いた、ふわふわとして楽しい、雰囲気の良い作品です。


インタビュー・テキスト タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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