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2009年11月12日 (木) 掲載
スパイク・ジョーンズは作品について多くを語らないーー分かることは、この映画は確実にジョーンズ・テイストだということだ
インディーロックサウンドと共に登場するガーゼ人形のような怪獣の姿を予告編で見るたびに、ウィリアムズバーグの親たちが公開を心待ちにしていた映画、『かいじゅうたちのいるところ』がついに映画館に登場する。世界中で愛されているモーリス・センダックの絵本を原作に、巨額の制作費を投じた映画が完成した。手がけたのは映像の神童、スパイク・ジョーンズだ。完成には長期にわたる様々な紆余曲折があった。数えきれないほど撮り直しを繰り返し、ハリウッドでも近年まれに見るトラブル続きの映画だと噂された。これらのトラブルは、監督自身にとっても成長する為の傷みを与えたようだ。この映画が“少しは”大人になるきっかけになったという。ただ、ジョーンズの忠実なファンでもその価値があったのかどうかを疑問に思うだろう。
39歳のジョーンズは、ロサンゼルスからつながっている電話の向こうで、この質問に答えるのはうんざりだというようにまくしたてた。「誰のために映画を作っているかって?興味を持ってくれる人、全てだ。特定の誰かに向けてに撮ったんじゃない。だから編集段階でスタジオ側と揉めたんだ。子供向けの映画を作りたかった訳じゃなくて、子供時代についての映画を作りたかったんだよ」。
長年のスケーターでもありBMXライダーでもあるジョーンズの、独特なゆっくりとした話し方は自身が『スリー・キングス』で演じたコミカルな役柄そのものだ。ジョーンズは独学で映画撮影を学び、チャーリー・カウフマン脚本による『マルコヴィッチの穴』や『アダプテーション』といった“神経がどうにかなりそうな”映画を監督したほか、変なダンスを踊るクリストファー・ウォーケンや、ヒゲ面のビースティ・ボーイズらが登場するミュージックビデオを、次々とヒットさせてきた。
だが電話口のジョーンズは、過去の自分についてのイメージを振り払いたいようだ。「コンセプチュアルな作品を撮ることはできるけど、コンセプチュアルなだけでは駄目なんだ。感情がそこになければ」という彼こそが、様々な映画監督が失敗してきた“センダックの絵本”の映画化を2000年から準備し、完成させた他ならぬ人物だ。「モーリスが僕に言ったことは、原作を愛するあまり恐れるな、ということだ。彼は頑強なまでにしつこく、この本を元に自分の信念に従った作品を創れ、自分の内にあるものを造り出せ、と言ってきた。彼の根幹にある哲学抜きにしてはこの作品は語れない」。
2つのスタジオとの仕事と頭痛の種であった『ジャッカス』の制作を乗り越え、ジョーンスはようやく、作家のデイブ・エガースと脚本のドラフトを完成させた。ストーリーには怒りと孤独があった。家族は崩壊、姉弟間の関係も悪化している、という設定だ(ジョーンズは、ソフィア・コッポラとの離婚をごく最近に経験)。主人公のマックスは5歳ではなく8歳になり、うわさ話と陰口が好きな野獣たちには名前と人格が与えられ、より現実味を帯びたキャラクターになった。脚本はすでに絵本の域を超えていた。
少なくとも原作者のセンダックは、この脚本に理解を示した。「彼のことを気に入ったんだ。正直なところがね。だから彼を応援した」と81歳のセンダックはTime Out New Yorkのインタビューにメールで答えた。ブルックリン出身で現在はコネチカット州の郊外に住むこの作家は、1963年に出版されたこの絵本が、なぜこれほどまでに世界中で支持されているのか不思議だという。モーリスについて、ジョーンズが制作したHBOのドキュメンタリー番組『Tell Them Anything You Want: A Portrait of Maurice Sendak』を見れば、2人の共通点が分かるかもしれない。ともに子供時代への“美化されがちな望郷”に対する冷静な視点を持っているのだ。できるだけ現実的に捕らえようとしているよう、感じられる(例えば彼らの関係を「孫と祖父のようですね」というと、ジョーンズは「どちらかというと兄だ」と即座に訂正する)。
センダックの理解とサポートを得たあとのジョーンズを待ち受けていたのは、2006年にオーストラリアで行われた大掛かりな撮影だった。アニマトロニクス(生物に見えるようなロボットを使って撮影する技術)を使用したぬいぐるみは、予測不可能な動作不備が多発し、ミシェル・ウィリアムスはキャストから降板、ローレン・アンブローズが代役に起用された。さらには撮影開始から1年半後になって、制作途中の映像がネット界隈で酷評されたことから、長期間にわたり撮り直しが行われた。だが、全てのジョーンズ作品に参加する撮影技師のランス・アコードはこういう。「僕らの撮影のやり方に関して、かなりひどい噂が流れたのは事実だよ。だけど撮り直しの理由は、スパイクが野獣たちのセリフをころころ変えるせいだ。つじつまを合わせるために最初に戻って、マックスとのシーンを撮り直したり、そういう作業がほとんどだったんだ」。理由はなんにせよ、セリフと脚本は当初のものと比べ大幅に変更された。
注目を集めた撮影後のワーナーブラザースとの確執について、ジョーンズは乾いた笑いで「いいものじゃなかった」というが、「終わってみれば、僕は撮りたい映画を撮ることができたし、最終的には彼らも作品を気に入ってくれた。この思い入れのある映画を、大きなプロダクションならではのやり方で、大々的に世に送りだしてくれるのもありがたい。恵まれているよ」と語った。
映画の不均一なトーンと、スタジオ側の宣伝モードが釣り合っているようには見えない。だがジョーンズは「妥協しないことが大切だ。それだけは守っていきたい」という。若すぎず、年を取りすぎてもいない相応なセリフが、ここにきてやっと聞けたのかもしれない。
『かいじゅうたちのいるところ』は全米で10月16日から公開中。日本公開は2010年1月から。
公式サイト: wwws.warnerbros.co.jp/wherethewildthingsare/
原文へ(Time Out New York / 733 : Oct 15–21, 2009 掲載)
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