インタビュー:Q・タランティーノ

新作『イングロリアス・バスターズ』について

インタビュー:Q・タランティーノ

(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

タランティーノならではの世界大戦の描き方

クエンティン・タランティーノは、いまだツイッターに懐疑的だ。「まったくのミステリーだね」。マンハッタンのミッドタウンにあるレストラン『マイケルズ』の窓際に陣取った46歳の映画監督は、グラスに入ったロゼワインをすすりながら言った。突如、指を動かしつぶやきを打つ真似をして「今これ打ってるとこ!ワオ、すごくない?」とふざけながら、名前をあげての個人攻撃こそしないものの、ツイッターにハマっているセレブたちを茶化した。(『レザボア・ドッグス』でウエイトレスに渡すチップの額で一悶着起こすスティーブン・ブシェミとまではいかないが、かなり近いものがあった)。

このマシンガンのようにしゃべる男に、140文字制限で何かを言わせるのは到底無理な話だ。我々は彼の新作、スリリングに第二次世界大戦を描いた『イングロリアス・バスターズ』について話すためにここにいるのだ。延々と続く会話こそが、複雑かつオールドスクールな座談の名手、タランティーノの特徴だ。瞬く間に議題は飛び回り、「僕がこの世で一番好きなライターだ」とポーリン・ケイルについて話したかと思えば、「僕のヒーローは彼だ」とニューヨーク・オブザーバー紙の映画批評家アンドリュー・サリスの辞任を嘆き、デジタルメディアではなく紙媒体を支持すると宣言し、筆者のような映画評論の仕事をいつかしてみせると約束する。

自身が映画評論家になる可能性はあると語る。「意外かもしれないが分析するのは楽しい。ストーリーを書くときは、どこかまだセルジオ・レオーネの影響があるね。20分におよぶ導入部無しではどのキャラクターもろくに成立させないとか」。伝説的なマカロニ・ウェスタンの生みの親ともいえるイタリアの巨匠は、いまだにタランティーノの殿堂のトップにいるという。彼は巧みに『イングロリアス・バスターズ』の核心部に話題を移す。戦争映画で、機知に富んだストーリーとセリフの交差がこの上ない緊張感を生む。まさにレオーネの天才的編集手法のようだ。この新作は主演ブラッド・ピットの、戦う男のアクション映画のように宣伝されているが、映画のほとんどは無駄なおしゃべり、誘惑、オタク的なずれたドイツ映画への愛、酒場での酔っぱらったカードゲームが占める。

この間違った解釈に、タランティーノは笑顔で答える。「まさにそれが僕のやり方だよ」そしてこう続けた。「映画のストーリーが浮かぶとき、最初はとても薄い。強盗の映画、カンフー映画だとか。スタートはそこからで、アイディアはジャンルの壁をぶちこわしてどんどん膨らむ。想像していたより、バスターズは大きくなったよ。この映画は、言語や二枚舌というテーマを持っているんだ」。ある火のシーンが、ブライアン・デ・パルマの『キャリー』に通ずるものがあるのでは、というと、タランティーノは興奮気味に賛同した。「ナチを意地の悪い高校生たちだとすれば――もちろんだね!」。

(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

スクリーンで注目を浴びたのは、弁の立つ悪役だ。「クエンティンのエネルギーは発電所並みだ。ブーンと音を出しながら稼働する、高電圧変圧器のようだね」とオーストリア出身のクリストフ・ヴァルツは言う。52歳のヴァルツは、ずる賢いナチの高官(タランティーノが創り上げた架空の人物)を好演し、カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞に選ばれた。「演者であれば誰もが彼のエネルギーに触れることができる。朽ちることのない創造の泉にだ。100%合致することはないとしても、心配はいらない。彼は自分の思い込みを断ち切らせてくれる」。電話先で苦笑いするように、「“夢”のようかって?そうだね。“叶った”かって?それはまだわからない」とヴァルツはすばらしい結果を残した役を演じることができた自身の幸運を、いまだに信じられないという。

『イングロリアス・バスターズ』の誕生は簡単なものではなかった。遡ること1998年に作品は生まれたが、少しの間のお口直しとして『キル・ビル』を公開するため、2000年初頭にはひとまず棚の上に追いやられていた。タランティーノがライターとして壁にぶち当たっているという当初の噂について聞くと、苛立つように答えた。「事実はまったくその逆だ。わかるか?僕は書くことを止められなかった。脳をシャットオフすることができなかった。新しいキャクターやネタが次々に浮かんだ。この作品は普通の映画じゃなくて12時間のミニシリーズになったかもしれない。監督はこの作品が『パルプ・フィクション』に続く“少しだけ大事に扱う”存在だということを意識していたようだが、第二次世界大戦についての脚本は数年で完成した。

「映画を撮るたびに、それが最高傑作になるように撮っている。前作の2倍はヒットすることを目指すよ」。かつての情熱的なビデオ屋の店員がそこにいた。タランティーノは、自分の成功や影響力を熟知しているし、少なくとも他の目にはそう映るだろう。だが、彼にとって、書くことはいまだに苦行だ。1997年の『ジャッキー・ブラウン』の原作に、誰もが到底真似できない息吹を吹き込んだのは他ならぬ彼だ。「あれは過去のことだよ」とタランティーノのは単調にいう。「誰かに自分の実力を証明するためにやる必要はない。もうすでに証明はされているから」。彼は『ジャッキー・ブラウン』が彼の最も熟成した映画だと笑う。「大人になることを題材にした映画を作ったのは青二才だったから出来たことだよ(笑)。もう他の誰かが書いた作品を映画化することには興味がない。白紙を見つめる状態から始めることに意義があるんだ」。ここまで言ったあとに、めずらしい静寂がその場を包んだ。

『イングロリアス・バスターズ』は全米では8月21日に公開。日本では11月20日(金)からTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー。

公式サイト: i-basterds.com/

原文へ(Time Out New York / 725 : Aug 20-26, 2009 掲載)

テキスト ジョシュア・ロスコフ
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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