インタビュー:クリス・クラーク

4月21日からのSonarSound Tokyoで再来日

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インタビュー:クリス・クラーク

今週末のSonarSound Tokyoで待望の再来日を果たすクリス・クラーク。タイムアウト東京は今月リリースしたばかりの『Iradelphic』、その中でトリッキーやマッシヴ・アタック等と共演の経験のある女性ヴォーカリスト、Martina Topley-Birdとのコラボレーション、過去の作品について話を聞いた。

―しょっちゅう徹夜で作業して、常に音楽を作っていらっしゃるのでしょうか?

Clark:そうだね、本当にいつも。取り憑かれたようになるからそれがたまに嫌になる時もあるけど。日常生活の中での普通の事ができなくなるからさ。今回のアルバム以外についてはあまり話さない方がいいのかもしれないけど、もう次のアルバム用にすごくいいアイデアが浮かんじゃったんだよね。アナログウェーブをたくさん繋ぎ合わせるんだ。こういうアイデアが浮かんでくるとは思わなかったよ。リリースを重ねれば重ねるほど、前作よりも良いものを作らないとっていうプレッシャーが生まれるんだ。自分自身にもかなりプレッシャーをかけるからね。でもそこを突破するのはものすごく爽快だよ。

―'Iradelphic'を前作二枚に対する回答ととらえたいところですが、それに対してどう思われますか?

Clark:その通りだと思うよ。そうしようと思ってそうなった訳ではないって事は強調してるんだけどね。そういうことは実際作品を作り終えてから分かるものだと思ってるから。だから別に常に'Turning Dragon'や'Totems Flare'を意識して今回のアルバムを作った訳じゃないんだけど、比べると断然色味とか暖かみが感じられるよね。'Turning Dragon'と'Totems Flare'では機材を完全に制覇して、ラウドさを限界まで上げることに焦点を当ててた。ハーモニーとかエモーショナルなコアの部分を保ちつつではあったけど、ディストーションとそのラウドさに埋もれてしまってたんだよね。そのやり方にはどうしても限界があるんだ。だからそう言う意味では今回のアルバムは前作二枚のアルバムに対する回答だね。

―そのやり方でご自身の限界まで持って行けたと思いますか?

Clark:うん、そうだね。'Totems Flare'以上に粗いものは作る事は出来ないと思う。細やかだけど無機質で、耳をつんざくようなかなり粗い音にしたかったんだ。でも、曲作りとしてそのやり方はこの先持たないよね。うまく表現できないけど、'Iradelphic'にもまだかなりノイジーな部分は残ってるんじゃないかな。

―ところどころに荒々しさがそれとなく残ってますよね。

Clark:そうだね。でも'Turning Dragon'と'Totems Flare'に関してはトラック間で色々なアイデアが飛び交って、突然の変調も結構あったりして、'Iradelphic'向けではなかったんだよね。例えば、'Com Touch'ではかなり変調が入ってるんだけど、秒単位の調整にものすごく時間がかかったよ。ところどころにそれが散りばめられてるから、人によっては薄っぺらく聴こえるかもしれないけど、実はかなり意図的なものなんだ。そうは言ってもそれを人に分からせるのは難しいけどね、それが好きか嫌いかの話だと思うからさ。

―アコースティックな音をトラックに取り入れるところなどは、'Body Riddle'通じるものがありますね。

Clark:うん、思い返せば'Body Riddle'って「これはインストアルバムです」っていうのを全面に出して売り出してたよね。生のドラムも入ってたんだけど… 'Body Riddle'はもっと'Iradelphic' みたいになるはずだった。自分の作品について語るのって変な感じだけど、聴く側にとってみればこれだって言えるのは'Body Riddle'なんだろうね。でも個人的にはやっぱり全然満足いかなかった。



―どのようなところが?

Clark:流れがあんまりないんだよね。'Com Touch'はかなり'Herzog'に近いけど、そこまで入り組んでない。もっとストレートだし、変調とかパーカッションが入ってるんだけど、'Herzog'に関してはやり過ぎ感が…(ひと呼吸おいて)こういう事あんまり言っちゃいけないよね。自分に厳しいんだよ…正直言うと、'Iradelphic'の一曲目は'Herr Barr'みたいな鋭さがないんだよね。大げさなオープニングで始まるアルバムにはしたくなかったんだ。前作三枚はそうだったんだけど、それを繰り返す訳にもいかないし。それで趣向を変えてみようってことで本来は7分のプログレのトラックだったものに、ほんの少しだけギターのパートを入れてみようと思いついたんだ。ギターとドラムマシーンが合わさったものすごく不安定なものが出来上がってさ、いやあれは本当にひどかった、あれはないね。誰にも聴かれなくて本当に良かったよ。

―以前のインタビューで未発表の音源のストックがかなりあるとおっしゃってましたが、今回'Iradelphic'で試されたフレッシュなアプローチというのは実際のところ過去に既に試されたものだったりするのでしょうか?

Clark:大体がかなり古いものだよ。'The Pining'の出だし部分に至っては5年前のものだし、一曲目の'Henderson Wrench'も4年前のもの。'Ghosted'もかなり昔のもの。いざ作り始めるんだけど、完成に向けてのビジョンが浮かばないからそこでやめてしまうんだ。'The Pining'のかなり初期のバージョンでは初めてドラムとギターを重ねてみたんだけど、それも挫折に終わった。それでも、気になって、また手を加えて作り直したらすごくいい感じに流れが生まれて一つにうまくまとまったんだ。4年もの間ずっと自分の中で暖めていたものなら少しの事じゃダメになったりしない。そういった曲には寿命はあるけどね、少なくとも僕にとっては。でも、こういう曲こそ作り終えた時心から満足がいくものだと思うんだ。

―'Iradelphic'と'Totems Flare'は従来の曲構成にボーカルのメロディーを乗せると言うスタイルでしたが、以前から使われていたスタイルなのですか?

Clark:そうだね、ここ7年位ずっと自分の声を楽器としてトラックに使ってはいたんだけど、結局いつも最後の最後で取ってしまってたんだ。自分の声がすごくいいと思わないから、大抵はバックグラウンドとして使うんだけど。'Iradelphic'でも最終的にはかなり自分のボーカルを削ったね。'Ghosted'にだけ残す事に決めたんだけど、そうしてすごく良かったと思う、叙情的でね。Martina [Topley-Bird]と作業できたのも良かった。今まで自分がやってきたように、一つのリリックのラインで30テイク位するのが当たり前だと思ってたんだけど、横を見るとMartinaはfacebookをチェックしてるし、「いつ始めるの?」って聴いたらものの数秒で準備して10テイクをサラッと録ったんだ。それぞれのテイクが違う感じで全部良くてね。今回彼女と一緒に作業が出来て色んな事に気づかされたよ。これからも色んなボーカリストと一緒にやっていきたい。

―彼女とは以前から面識があったのですか?

Clark:ううん、全然。彼女とは会った事すらなかったんだけど、意気投合したんだよね。信じられないくらい美しい声の持ち主で、音楽的にも僕ら似てると思うし。二人とも全く違うバックグラウンドから来てるからこうなったのは面白いと思う。でも、自分と同じようなことをやってるような人、例えばテクノのプロデューサーとかとはコラボレートしたくなかったんだ。違うジャンルの人とコラボレートした方がハードルを上げられるし。もっと面白いコラボはできないかなって考えるのが楽しいんだ、例えばClipseとScott Walkerとかさ。

―今、ClipseとScott Walkerっておっしゃいました?

Clark:うん、面白い事になるよ。同じ部屋に彼らを入れるって考えただけでもさ。



―想像つきませんけどね!

Clark:(平然と)でしょ、おかしいでしょ?音楽のストライクゾーン広いんだよ。音楽の趣味って考えたら狂気の世界じゃない?Scott WalkerもClipseも両方すごく好きなんだよ、でも二人とも全く別の世界にいるでしょ。だから今までDJになろうって思わなかったんだろうね、絶対にうまく行かなかっただろうから。僕は一つの音楽のジャンルにとどまるってことができないから。

―面白い見方ではありますね…

Clark:うまい人はすごくうまい事やるよ。スキルだよあれは。僕も変わったミックスをたまに作る事はあっても、結局のところ同じレコードに戻るし。

―'Body Riddle'リリース後はクラブでのセットをかなりやられたと聞きましたが?

Clark:そうだね。それまでやってたセットアップをちょっと変えようかな、と。MPC2つだけでやってたんだけど、もっとアナログな機材沢山揃えたんだ。ここ二日間ずっとそれにかかりっきり。新しいセットを考えてね、楽しいよ。みんな気づいてないと思うけど、プレイするときセットが短ければ短い程緊張するんだ。ライブで最悪なのが時間を持て余してしまうとき。でも、そこで全力投球して、そこに自分をどっぷり浸からせればいいと思ってる。

―今度開催のSonarSoundではデイタイムではなく、夜中のスロットにスケジュールが組まれてますね。どんな風になると思います?何年か前のWombでのセットのように攻撃的には恐らくならないですよね?

Clark:ああ、あれはかなり攻撃的だったね。分かんないな、何ともいえないね。既に3トラック新しいのを作り始めててそれを今回のアルバムのトラックをリンクさせようと思ってるけど、セットがどんな感じになるかは見当がつかないな。今の機材だと、ボタン一つでテンポが変えられるからね。最初は160BPMでやって、そのあとにドローンになって、ヒップホップになって、なんてやってたら多分訳の分からないセットになるよね。

―始めたばかりの頃はやはり大変でしたか?

Clark:初めのうちはそうだったね。まぁ、僕も生意気な20歳の子供だった訳だし。「好き放題やって、それに飽きたらまた他のものをプレイすればいいし、みんながそれを気に入らないならそれはそれでいいし、お前らなんてどうでもいい」って態度だったんだよね。今はもうそんな事全くないけどね、僕が信頼をおいてる人からフィードバックが貰えるから。過去のセットを振り返ると、すごく飛び飛びだったと思う。延々と同じ事をやり続けるよりもいいとは思うんだけど、いいセットの流れを作るのも自分のスキルの内だと思う。

―日本では'Iradelphic'と時期を同じくして2001年のデビューアルバム、'Clarence Park'のデラックス盤がリイシューされました。デビューアルバムは振り返ってどうですか?

Clark:その当時のうまくはまらないトラックが沢山あるんだけど、聴くとすごく変な気分になるんだよね。まるで別の誰かが作ったような感じでさ。でも実際にはその中に自分の一部が見え隠れしてるんだ。今はもう前みたいな曲の作り方はしない。昔の音源を聴き返して、そこからトラックを選ぶ作業はいい経験になったよ。色んな時期を経て現在に至るからね。10年前までさかのぼって、その頃どういうものに傾倒してたか分かるし。ただ、これが僕の20歳の頃の日記でそれを全世界に公開するってことでもあるから、「何でこんな事をしたんだろう?」って思う節もあるね。青いなーって思うよ。

―過去の音源を振り返って、今では作ることができないと思うものはありますか?

Clark:あるある。'Clarence Park'と'Empty the Bones of You'のリリース後、'Diesel Raven'みたいなトラックは絶対に作る事が出来ないと思ってたから、やってみようと思わなかった。だから常に前を見て、出来る限り新しい事をやっていかないといけないんだよ。出来ないって分かってる事を頑張ってまたやろうとする事程ばかばかしいことはないから。時間が経てば人も変わるから同じ事が出来ないのは当然の事。 その当時'Iradelphic'に対して、誰かが「10年先を行ってるね」って言ってきたら、それはそれですごく嬉しいだろうけど、同時に違和感を抱くと思うよ。その当時の自分が作るサウンドとは全く別のものだからね。

―ご自身の作品を通して、継続して常に意識している事、キーになる要素はありますか?

Clark:うーん、わからないな…範囲が広すぎるから絞るのは困難だし。でも自分のやってる範囲が広い事は必ずしもいい事だとは限らなくて、だから気をつけるようにはしてる。僕の作る音楽にははっきりしないけど、後を引く何かがあってそれを放っておく事はできないんだ。何か手を打たないとって思ってしまう。'Clarence Park'を作ったとき、一日で1トラック仕上げられ状態ではあったんだけど、それと同時に他にやらなきゃいけないことが50あるような状態だった。プロデューサーの多くは自分にすごく厳しくて、コアの部分をサッと捉えて、出来るだけ早く作品を仕上げないといけないという使命感に駆られてると思う。僕はあまりそういうことで悩んだ事はないな。数日間で何かを完成させないと相当落ち込むプロデューサーを何人か知ってるけど。でもさ、両方必要なんだと思うんだよ、すぐ仕上げられるものとそうでないものと。数分でトラックを仕上げて、いらないファイルを削除してそれで終了とするのも要領のいいプロセスだから好きだし、でも一方で4年間かかって仕上げるトラックもある訳で。やっぱり両方必要じゃないかな。


インタビュー ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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