インタビュー:Andrew W.K.

来日公演直前、寝ても覚めてもパーティー状態の鼻血野郎が語る

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インタビュー:Andrew W.K.

衝撃のデビュー作“アイ・ゲット・ウェット~パーティー・一直線!”から早11年。デビュー当時から現在に至るまで変わらぬスタイル(脂っこい長髪、黄ばんだTシャツ、白パンツ含め)を貫き通してきた世界一のパーティーモンスター、Andrew W.K.が自らのルーツであるノイズミュージック、Jポップやガンダムのカバーアルバム、ダブのレジェンドであるリー・'スクラッチ'・ペリーのプロデュースについて「激しく」語った。


― 今回のジャパンツアーが発表されたとき、正直驚きました。今でもデビューアルバムがリリースされた時のことを覚えてますけど、まさかそれを「懐かしい」と感じるようになるとは思ってもみませんでした。その当時、10周年アニバーサリーに対する強い要望があるかもしれない、ということを意識したことはありましたか?

Andrew W.K.:うーん、それはなかったな。それよりも10年経ったという認識だね。それと、フルバンドでフルツアーが出来る技量を手に入れた。日本は2005年以来アメリカ、カナダ、イギリス以外で一番来てる回数が多いんだ。バンドとしては2006年以来だね。俺個人ではソロだとかイベントで何度も来日してるけど。だからバンドで来て、アルバムをフルでプレイできる状況にあるのはすごく嬉しいよ。ビジネス・契約上色々あったり、私生活でも大変なことがあったからなかなかフルバンドでのツアーは出来ないでいたんだ。

― デビュー当時に作られた曲に対する見方は変わりました?

Andrew W.K.:今の方が昔よりもずっとライブしてて楽しいんだよね。こんな風に思うなんて思わなかったけど。バンドやってる友達は昔の曲をやりたがらないことも多いよ。やっぱり一番新しい音源をプレイしたいんだよね。俺は思いっきり古い曲をプレイするのが楽しいと思ってるし、実際その曲を作った当時よりも楽しくプレイできるんだ。自分でもまさかって思うし、どうしてこんな風に思えるかうまく説明できないんだけど。コードが変わる所とか楽しいし、プレイするたびに発見があるし、昔よりもうまくプレイできるし。音楽なんてどうでもよくて、言ってしまえばそこに辿り着くまでの「ツール」でしかないんだ。アルバムもある目的地、つまりある感情のポイントに辿り着くまでの「ツール」。肉体的な感覚を生み出さなきゃいけないんだよ、特に俺の作る音楽に関しては。何かを物語る音楽でもないし、俺自身の経験に基づいてる曲でもなくて、ある感情に辿り着くまでの方法であり、テクニックなんだ。そのアルバムを聴き倒してたとしたら、一枚のアルバム全体が一曲として聴こえてくる感覚なんだよね。アルバムを聴き倒すと、その曲順だからこそ呼び起こされる感情がある訳で、もしコンサートっていうより壮大なフォーマットだったら、やっぱりそれってアルバムツアーじゃないとそのマジックを体感することはできないよね。想定外のことが起きるのがコンサートの醍醐味だけど、次に何をやるか、何が起きるかが分かっているのも、それはそれで楽しいと思うよ。

― Wolf Eyesのようなバンドと関わりがあったり、ノイズシーンにいらしたというバックグラウンドもあるようですね。ある意味、本能むき出しのライブを展開する日本人のノイズデュオ、Incapacitantsと今やられてる音楽とに共通するものがあるように感じられますか…

Andrew W.K.:Incapacitantsは最高だね。日本はノイズミュージックとかぶっ飛んだ音楽にぴったりの土壌だと思う。色濃い文化をもった国だよ。ノイズミュージックに傾倒してたとき、Alchemy Recordsのアーティストのセレクションにかなり感動したのを覚えてる。HijokaidanとかMerzbowとか。Alchemyのアーティスト達を観てると、危なっかしくステージに立つ自分の親父を観てるような気持ちになったよ。Incapacitantsが特にいい例で、露出も激しいし、かなり身体を張ってるんだけど、別に注目を浴びたいからやってる訳じゃないんだよね。むしろ、もっと自らの肉体を駆使して体現することに重点を置いてる。それを観てかなりの衝撃を受けたんだ。かなり早い時期に、同じ高校に行ってたWolf Eyesの奴らとかバンドをやってた年上の奴らからノイズミュージックの洗礼を受けた。奴らのやってる音楽もかっこよかったし、俺が夢中になれるものを教えてくれた。とにかく、強烈なセンセーションを味わいたいし、そういう音楽からの挑戦をうけたいし、前後左右の区別をなくしてしまいたいたかった。だから、こういう強烈なインパクトで俺の人生をより一層面白いものにしてくれたノイズミュージックには感謝してるよ。

― ノイズミュージックシーンの仲間は“I Get Wet”のツアーにはどう反応してましたか?

Andrew W.K.:まず、Wolf Eyesのアーロンとネイトに「一緒にバンドをやらないか」って聞いたんだ。まだ奴らがWolf Eyesを始める前のことだったんだけど。地元がミシガン州のアン・アーバーってところで、一緒だったんだ。既にニューヨークに一年程住んでた頃だったんだけど、友達も一人くらいしかいないし、友達を作ろうとネットワーキングはしてたもののかなり孤独だったから、奴らをライブで呼び寄せることができて、そりゃ嬉しかったね。奴らがニューヨークに引っ越すつもりで来たかどうかは分からなかったけど、俺にとってはこれだ、って思える瞬間だったんだ。みんなでニューヨークに住んで、他の友達も連れて来れたらくらい思ってた。でも、実際には多分アーロンとネイトはニューヨークがどんな感じか見るだけにとどめたかったんだろうね。ネイトにはバンドでベースをやって欲しかったから、ベースラインを教えたのを覚えてる。その頃はAndrew W.K.ってバンド名ではなくて、他のバンド名にしようと思ってたんだ。ただ、時期を同じくしてネイトはWolf Eyesを、もう一人の友達のトニーはネイトとMini Systemsをやっていて、それぞれに何かが起ころうとしてるのは明らかだった。才能あふれるグループだったのは間違いないね。じきに奴らは地元に戻って行った訳だけど、戻るや否やものすごくプロダクティブになって、駆り立てられているのが見て取れた。ニューヨークがそのきっかけになったかどうかは分からないけど、奴らの心の中では用意はできてて、パーフェクトなタイミングだったんだろうね。俺のバンドに収まる奴らじゃなかったんだ。そもそも奴らは俺の作る音楽がそれほど好きじゃなかったし、今まで作ってきた音楽とはタイプが違ったから。奴らは俺がノイズミュージックにのめり込む前から、実は分かりやすいメロディックな音楽が好きなことを知ってたんだ。それが、俺の激しさとか他のアーティスト達も表現してるような衝撃を与えられる位の音の深みとか、それに俺の持つスキルが合わさったものだってことも奴らには明らかだったはず。だからそれが俺のやるべきことだっていうことは明らかだった。今でもそのことは今でも毎日考えるし、その気持ちを忘れないでいたい。流れに逆らって、常に自分に挑戦して、ぬくぬくと居心地のいい状態に持って行かないっていう決断をしたのは間違いなく大きな一歩だったよ。

― 数年前にピアノメインのアルバム、“2009's 55 Cadillac”をリリースしましたよね、それもその自分に対する挑戦だったのでしょうか?

Andrew W.K.:そういえば、あったね。かなりビジネスベースのプロジェクトではあったんだけど。いいアルバムでも、印象に残るアルバムでもなかった。それはそれで全くもってよかったんだけど。数年かけて曲作りをしてアルバムをリリースする代わりに、2時間でレコーディングを済ませてアルバムをリリースするっていうのが目的だったから。ただもちろんちゃんと「聴ける」ものとしてね。興味を喚起するという意味で嫌な感じが出てればいいんだけど。そういう説明書きがあったら、少なくともYouTubeかなんかで恐いもの見たさで聴いてみようって気になるだろ。

ガンダム・ロックはどういうきっかけで作ることになったのですか?

Andrew W.K.:ガンダム・ロックの前にJポップの曲をカバーした、“一発勝負~カヴァーズ”ってアルバムを出したんだ。一曲一曲を分解して、何がどうなってるかを分析して、歌詞を翻訳してって作業がこれまたものすごく大変だったけど、やりがいはあったね。自分の好きな音楽を作る訳じゃないからね、むしろ学校の課題に取り組んでるような感じだったよ。いい意味で苦痛を伴ったね。誤解のないように言うと、俺が「苦痛」とか「努力を要する」って言い方をする時は決してネガティブな意味で言ってるんじゃないんだ。強いて言うなら、そういうことを通過することによって自分がより良いミュージシャンになれると思ってる。どの曲も最高だったよ。特に葛城ユキの“ボヘミアン”なんかは。変わった曲だよね、遠く離れた国の曲ってだけじゃなくて、どっか遠くの惑星から発信されてる曲みたい。このカバーアルバムがきっかけでガンダム記念版の話が舞い込んできたんだ。ガンダムの“哀戦士”って俺も大好きな曲をやったら、「その曲が好きだったら、もう18曲やってみる気ない?」って聞かれてさ(笑)。正直、自分の中では「あのカバーアルバムをもう一枚作るようなもんだよな、キツいよな…」って気持ちが強かったんだ…ものすごく孤独な作業だし。ガンダムのアルバムの制作で変わったことと言えば、レコーディングギリギリまで音源を聴かなかったこと。全曲かなり複雑な作りだったし、それを一曲一曲聴いてたら完全に圧倒されて作業どころじゃなくなってたと思うから。複雑に入り組んでてさ、特に一回目に聴いた時はついてけなかった。パートをまたいで、突然すごい勢いで変調が入ったり、テンポとかアレンジが変わったり。それに魅了されて、ストリングスからブラスのパートまで全部忠実に再現しようと頑張ったよ。大きく付け加えたのはギターのパートだけ。それでも、他のパートを出来るだけ邪魔しないように入れたんだ。あとは、恥ずかしいくらいの勢いで歌入れをした。「恥ずかしいくらい」っていうのも勿論いい意味でだよ。この2枚のアルバムに対して恥ずかしいとは一切思ってない。俺がやるべきものだったんだ。“一発勝負~カヴァーズ”もかなり大変だったけど、ガンダム・ロックはレベルの違う大変さだったよ。

― 元メガデスのマーティー・フリードマンが、メタルシーンにいて、Jポップに魅せられて深みにはまってしまった人のいい例ですよね。

Andrew W.K.:そうなんだよ、Jポップって本当激しいんだよ。全然控えめじゃない。バラードでもラブソングでもそれよりもスローテンポで繊細な曲もすごく激しいんだ。眠りを誘うような心地のいい音楽じゃないね。とにかく、感情的にもギリギリな感じで、狂気に満ちてるように感じる曲もあるし。音楽的にも本当にギリギリなんだけど、実はそれってちゃんと計算されてるんだよね。今まで見たこともない形状のものを見た後に、誰かにそれがどんな形だったか聞かれても再現できないみたいな感じなんだよ、Jポップの曲って。あまりにも複雑で一回聴いただけでは絶対に覚えられないんだ。

― ずっとお聞きしたかったのですが…何がきっかけでリー・'スクラッチ'・ペリーのプロデュースをすることになったのですか?

Andrew W.K.:テキサス州のオースティンで開催された音楽のカンファレンスでミシガンの音楽仲間に紹介してもらったんだ。ずっと彼のファンで、彼の音楽には圧倒されっぱなしだった。自分と比べる訳ではないけど、彼のことを知れば知る程、彼という人物自体が作品を体現してることが分かってきた。興味対象が散らかっている訳ではなく、やることが一貫してるんだ。創意工夫の固まりが炸裂する感じ。音楽の師匠に出会ったと思ったよ。50年以上のキャリアの中で、自分のスキルに磨きをかけて、ますますパワフルになっている訳だからね。同じ空間にいるだけで魅了されてしまう、そんな人なんだ。だから彼本人と、彼のレーベルに、どんな形ででもいいから関わらせて下さいって頼んだら、何と2週間後に連絡が来たんだよ!このことが俺の人生の一番のハイライトだとするなら、今までやってきたことはそこに辿り着くまでのプロセスだと言っても過言ではないね。アルバムを一緒に作らなかったとしても、彼とプライベートな時間を過ごせただけでも満足できてたと思う。彼と出会ったのはそれくらい素晴らしいこと。今まで頑張ってきて本当に良かったし、そんな機会が与えられたのは心から恵まれてると思うよ。その期間、彼と時間を共にしてた人たち全員がそう思ってたはず。

― 次のアルバムのご予定は?どんな感じになりそうですか?

Andrew W.K.:あるよ!もちろんロックで思いっきりエキサイティングな感じで。そのロックな部分が俺の「激しさ」を集約してるんだと思う。6月にニューヨークに戻ったら、アルバム制作に取りかかるよ。ギター、ドラム…キーボードもシャウトもてんこもりで(笑)。

― どのようにしてその「激しさ」を保っていらっしゃるんですか?

Andrew W.K.:分かんないなー、たまに寝て、栄養価の高い食事をすることかね(笑)。フランスでは今の季節、自転車レースが多く開催されてるんだけど、俺のやってることよりもよっぽどエネルギーとトレーニングを要するよね。俺は好きなことをやってるだけ。疲れてる時だって、自分でも他の人のものでもいいんだけど、音楽のことを考えるとそれだけで気分をがらっと変えることが出来る。自分をベストの状態に持って行ける術を見つけるのは大切なこと。常にハッピーで元気な状態じゃないといけないってことじゃない、でも、明日死ぬとしたら気分のいい状態でいたいだろ。難しいことじゃない、至ってシンプルなことだよ。

― もしAndrew W.K.をやっていなかったら何をしていらっしゃると思いますか?

Andrew W.K.:何もしてないだろうね。他の興味対象がないんだよ、それって深刻だよね(笑)。周りの友達も大体そんな感じなんだよな。でもツアーで一緒になったバンドの奴らは興味の範囲がスポーツだとか釣りだとか広くて、ちょっと羨ましかったりもしたよ。その方が人生豊かそうだし、メインにやってることとのコントラストもあって。それが必ずしもみんなに当てはまる訳じゃないんだけどさ。バンドとか音楽のプロジェクトっていうくくりじゃなくて、俺が生きて存在してる事自体がプロジェクトなんだ。身体張って色んなことに挑戦して、それで自分自身を含め人を楽しませることが出来たらいいなって思うよ。


Andrew W.K.は2012年5月23日(水)恵比寿・リキッドルームで『アイ・ゲット・ウェット~パーティー・一直線!』リリース10周年を記念した公演を行う。





















インタビュー・撮影 ジェイムズ・ハッドフィールド
翻訳 さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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