驚きのない2010年のアカデミー賞

タイムアウトロンドンの映画批評家によるオスカー候補分析

驚きのない2010年のアカデミー賞

『アバター』 (C)2009 Twentieth Century Fox. All rights reserved.

第82回のアカデミー賞(オスカー)のノミネート作品が発表された。無難なリストになっているという事には驚いたが、それ以外のサプライズは特に無いようだ。

オスカーは、数ある映画賞の中でも最もきまじめかつ珍しさのない発表をする賞だが、それでも毎年何かしらの "想定外" の選出があるものだ。昨年は『フローズンリバー』のメリッサ・レオが主演女優賞の候補になったし、2008年には『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベル監督が監督賞の候補になったようにだ。だが、今年は上から下まで、人気作品やメジャーな作品が並んでいる印象だ。

イギリス人にとっては、喜ぶべき事柄が無い訳ではない。『17歳の肖像』で素晴らしい演技を見せてくれたキャリー・マルガンが主演女優賞の候補になり、『17歳の肖像』自体も作品賞のリストに入った。リスト入りは期待していなかったので誇らしい限りだ。その他、イギリス関係では、『In The Loop』(原題)は脚色賞にノミネートされ、(もしアカデミー賞に "罵り賞" があれば間違えなくこの作品が最優秀だ)、コリン・ファースは『シングル・マン』で、ハリウッドの名優達と肩を並べ主演男優賞の候補になった。

さらに見ていくと、実は今までのオスカーのなかでも国際色豊かなリストになっていることに気づく。外国語映画賞にノミネートされているドイツ映画の『白いリボン』が、メイン部門のひとつである撮影賞でも候補になったことは喜ばしい。さらに、イタリア映画の『イル・ディーヴォ』はメイクアップ賞、フランス・ドイツ・チェコ映画の『幸せはシャンソニア劇場』は歌曲賞の候補に入った。このように、アカデミー賞は制作国に関係なく、価値ある作品は然るべき部門へリストするという方針になりつつあるようだ。

メジャーな部門では、特に注目するようなことは何もない。長編アニメ映画賞で間に合うはずの『カールじいさんの空飛ぶ家』が作品賞候補にまで入っているようだが、並んで『第9地区』も入っていたのは非常に嬉しい事だ。

同じように俳優関連部門も思い切りが無い。『Crazy Heart』(原題)のジェフ・ブリッジスが、例の金色の像を持ち帰ることを期待したい。『イングロリアス・バスターズ』で腹黒い脇役を演じたクリストフ・ヴァルツが、最優秀助演男優賞に選ばれるかは注目だ。

もちろん、『ハート・ロッカー』と『アバター』がいちばんの話題を集めている。『ハート・ロッカー』は、一月下旬に発表になった監督組合賞と製作者組合賞をダブル受賞し、波に乗っている。

一方の『アバター』は、ゴールデン・グローブ賞での作品賞受賞を踏まえると、アカデミー賞での賞取りもありえるが、ノミネートリストをよく見てみると、ジェームス・キャメロンを不安にさせる要素があることがわかる。この『アバター』は俳優関連部門でのノミネートがない。映画の成り立ちからすると、仕方がない。しかし脚本関連でもノミネートを取り損ねたことは、この映画にとってはさらに悪い暗示と言える。過去に、最優秀作品賞を獲得した作品が、脚本部門でのノミネーションから外れたことはあまり思い出せない。ただし、困ったことに『タイタニック』には、その法則が当てはまらなかった。

『アバター』をぐらつかせる要素はまだある。ノミネーションの数だ。『アバター』は、編集、音効果、視覚効果部門を中心に9つのノミネーションしか獲得していない。この数は『タイタニック』が受賞した部門数の11という数を既に下回っているので、昔のようには行かないだろうという予想が成り立つ。

アカデミー賞の授賞式3月8日(日本時間)に行われる。

原文へ(ノミネートリストはこちら)(Time Out London / Feb 2, 2010 掲載)

原文 トム・ハドルストン
翻訳 東野台風
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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