PC Musicについて知っておきたい5のこと

ヒップスターの革命か、自己満足か。ロンドンの異能メタポップ集団

PC Musicについて知っておきたい5のこと

見えない人には見えないが、しかし、確実に広大なマップを作り上げているポストインターネット時代の音楽たち。そのなかで、日本の先鋭的なトラックメーカーたちもこぞって2014年のフェイバリットに挙げたPC Musicは、ロンドンから登場したポップミュージックのミュータントとして、今最も刺激的な存在だ。わざとらしさを逆手に取ったようなキャッチーなメロディー、つるつるとしたシンセ、イギリス産のベースミュージックを通過した歪なリズム。これらをポップに響かせる、不気味な集合体の正体とは。

1.架空世界のゆるやかな集合体

そもそもPC Musicとは何か。なかなか難しい質問だ。ざっくばらんに言って、PC Musicは、アーティスト、ダンスミュージックプロデューサー、シンガーが緩いつながりで一緒になった集団だ。それぞれのメンバーにはシュールな性格付けがなされている。例えばA.G.CookとSOPHIEが作り上げたQTというキャラクター。QTは画像修正された完璧なポップスターで、架空のエネルギードリンクの広報大使を務めている。現実世界に目を向けると、PC Musicの創設者A.G.Cookはチャーリー・エックス・シー・エックスのリミックスを担当しており、また提携プロデューサーのSOPHIEは、Diploやニッキー・ミナージュらとともにマドンナの新作アルバムの仕事に関わっている。また、きゃりーぱみゅぱみゅとのコラボも進行中だ。これまでのところ、PC Musicは大部分の楽曲をSoundcloudを通して発表しているが、2015年5月に、最初のオフィシャルリリースである『PC Music Volume 1』が発売となった。


2.J-POPからの影響

彼らの音楽性は驚くほどしっかりと確立されている。ダンスミュージックに対してユニークな角度から挑戦しており、荒々しい男臭さといったものを一切削ぎ落としている。PC Musicの一員であるDanny L Harleによる『Broken Flowers』は、UKガラージやハッピーハードコアの甘ったるい部分を取り出し、艶やかで、しかし高音がどこか小動物の声めいたコーラスを追加した一曲だ。また、J-POPのなかでも「ピコピコポップ」と呼ばれるような、落ち着かない音楽の影響も大いに受けている。感じを掴むためには『PC Music x Disown Radio』を聴いてみると良い。これは、レッドブルとの協同で作られた1時間のミックステープだが、2014年を代表するリリースとして正当な評価を得た作品だ。


3.なぜPC Musicは重要なのか

まず、音楽的に非常に素晴らしいからだ。そして、音楽的なテイストが多少甘すぎると思ったとしても、現在、私たちの周囲にあるデジタル環境に対して、音楽的な意味で何らかのリアクションを起こしているのは、PC Musicがほとんど唯一の存在と言っても良い。現代は、スクリーンショットがビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケット写真の代わりに、架空の広告写真がありきたりなバンド写真の代わりになる、そのような世界なのだ。いったい何が起きているのか、正確に把握することは難しいが、何らかのストーリーが進行中であることは間違いない。ティーザー動画や『サウス・バイ・サウスウエスト』のアーティストっぽいショーケースライブを見れば一目瞭然だ。俯瞰的な視点から言って、例えば、インタラクティブシアターが劇と観客とのあり方に革命を起こしたとすれば、PC Musicがそれと似たようなことを音楽の世界で起こす可能性はある。それともあるいは、ありあまる才能を自認する彼らが、「それっぽいこと」をいたずらに繰り広げて自己満足しているだけなのだろうか。


4.「中の人」のパーソナリティ

パフォーマンス、完璧主義、そして悪ふざけという衣を纏って、複数の人間が活動しているのがPC Musicのおぼろげな実態だ。そのため、誰が誰なのか、正確に知ることは難しいと言わざるを得ない。「中の人」として紹介されている人物の中には、例えば、GFOTY(Girlfriend of the Year)がいる。GFOTYは自分自身を「スローン族2.0」と位置付けている。Victoria Aitkenばりに、上流階級からミュージシャンの世界に飛び込んだという設定だ。また別メンバーのひとりで、シンガーとイメージ製作者を兼ねたHannah Diamondは、現実世界ではデジタルレタッチの分野で大変な実績のある人物なのだ。


5.風刺か、プロレスか

彼らの音楽が風刺であるかどうか。これもまた、答えを出すには時期尚早と言える。ブランドの世界に波風を立てようという彼らの行動からは、風刺的な匂いが漂ってこないこともない。メンバーのひとりであるeasyFunは、動画の中に『easyJet』(急成長を見せているイギリスの航空会社)のロゴを悪びれもせず登場させている。そしてもちろんQT。いつも架空のドリンクを宣伝している姿で写真に写っている。しかし、例えば、PC Musicは実際にレッドブルと一緒に仕事をしたこともある。まだほとんど何もリリースしていないが、どのようにして活動資金を得ているのかという点も気になる。最終的に、PC Musicのもっとも上手いアナロジーはWWEプロレスだということになるだろう。うそ臭い登場人物ばかりであり、どこまでがリアルなのか誰にも分からないが、あえて詮索するような人はいない。というのは、つまり、そうしたことがすごく面白いからなのだ。


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By オリバー・キーンズ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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