インタビュー:クラーク

Warp Recordsきってのワーカホリックアーティストの頭の中

インタビュー:クラーク


「渋谷のホテルのエレベーターに乗ったまま作曲したら、音楽にどんな効果が出るだろうって思って」。こんな発言も、冗談に聞こえないのがクラークという人物だ。2001年にWarp Recordsから弱冠21歳でデビューし、エレクトロニックミュージックの寵児としてキャリアをスタートさせた彼は、実直な佇まいのストイックな多作家であり、とにかく現在まで、ワーカホリックといえる勢いで作品作りに邁進してきた。多作であるのだが、しかしながら、そのディスコグラフィーには、彼の強い意志が読み取れる確かな流れがある。今回は、新作EP『Flame Rave』について、そして2015年5月30日(土) から行われる『TAICOCLUB'15』でのパフォーマンスについて、そして、自らのイマジネーションにひたすら忠実なこの芸術家が、現在どのような創作生活を送っているのかについて聞いた。


制作する際にセオリーを意識したことは一度もないね


ー今回のEP『Flame Rave』の4曲は、それぞれが非常に充実した内容ですね。引き続き生楽器の使用はなく、アルバム『CLARK』の延長線上にある作品と捉えているのですが、さらに力が抜けているという印象も受けました。この4曲は新たに集中して取りかかったものなのですか?それとも、過去のストックから?

今回の4曲は、アルバム『CLARK』と同じ惑星から生まれているよ。いや、月から生まれているって言ったほうがいいかな?月は人間が想像している以上に常に広大なものなんだ。今回のEPにも言えるけど、コンスタントにリリースして自己を露出しすぎると、リスナーは飽きて感動しなくなるというリスクがあるよね。アルバムの直後にEPをリリースすると、リスナーが聴く際には常に少し信用が薄れるよ。少なくとも最初のうちはそう。でも僕の音楽はリスナーの心に入り込んでいくまでにしばらく時間がかかる。僕はそういうのが好きなんだ、ゆっくりと焼き付けるっていうか。僕は必ず、徹底的で、発散的で、時おり容赦ないまでに批判的な視点を持ち込んで考慮してから、全ての作品を発表しているよ。自分の行動についてはすごく考えているんだ!それで、今回もリスナーに『CLARK』の曲と同じぐらい良いと理解してもらえると徐々に確信したよ。『Winter Linn』(アルバム『CLARK』の楽曲)はもう聴き飽きたよ。だって千回以上は聴いたから。でも『Springtime Linn』はそのテーマ、モチーフに生き生きした新しい生命を吹き込んでいるんだ。それに、いまちょうど春だしね。

ーその『Springtime Linn』で再構築されているもののイメージを教えてください。

より明るくて、より上向きな曲にしたかったんだ。意味が伝わるかな。方位磁石がある一定の方向を示すように、曲にはリスナーが「物事をみる」ためのある一定の方向が存在すると考えているんだ。開放的で伸び伸びした、より自然なサウンドで、リスナーが上を向いて空を見上げたくなる音楽もある。ある意味で精製されていない生の音だよね。一方で、ドロドロに機械的な重量があって重くて、リスナーの足を地球につけさせる音楽もある。それも好きだね。EPの曲『To Live And Die Grantham』はそんな感じだよ。

ーなるほど。『To Live And Die In Grantham』はインダストリアルなテクノトラックですが、ダンサブルなトラックを作る際は、ある程度、ジャンルのセオリー的なものを意識したりすることもあるのでしょうか。この曲は逸脱している部分とスタンダードな部分のバランスの妙がありますね。

いや、制作する際にセオリーを意識したことは一度もないね。過去には確かに音楽的な研究の虫食い穴に魅了されていたことはあったけどね。作曲のプロセスに対して、不自然かつ意識的であからさまに形式張った反応をするよりも、純粋で本能的な潜在意識の力を利用するのに慣れた神経ループあるいはリソースになるべく、十分に挑戦して学習していたよ。僕にとって、形式張ったアプローチはは堅苦しくて活気のないものに感じる。僕は物事をゆるく、もう少し自由でカオティックに扱うほうが好きだからね。だから作品を制作している際には、まるで夢の中にいるかのように感じるよ。


技巧としては、音楽的なリソースに対して潜在意識を使うことがすべてだよ。大きな蛇口を常に絶え間なく開いておけば、アイデアがひたすら流れ出す。まるで限りなく続く海で永遠に泳げるようにね。それは技巧として間違いないね。だから僕は常に制作しているんだと思う。この地球上において自分が音楽的にやりたいことすべてをやるためには、時間が足りないだけなんだけどね。修行みたいなものじゃないよ、ただ音楽的な「なにか」から離れていられないだけなんだ。しょうがないね。



ーアルバム『CLARK』はイギリスの田舎で缶詰めになって作ったそうですが、今回の『Flame Rave』の制作はどこでされたのですか?

『Airbnb』で見つけたドイツの田舎にある奇妙な風車で制作したよ。現在は使用されていない風車だけど、見知らぬ田舎の町に、かなり孤立した感じで建っていた。週末にはライブをして、平日にはそこへ戻って、クラブでかけるデモ音源の制作をしたよ。こういう音楽のリアリティに基づいた発散的(divergent)でダイナミックな視点を持つことが大好きなんだ。極端な手段をとり、その競合する要素から闘争的だけど調和がとれたバランスをもぎ取るように心がけている。例えば、開放的な田舎で音楽制作をする孤独な鍛錬と、閉塞的な都会の環境で大勢の前でプレイする喜びに満ちた解放のバランスとか。


しばらくぶりに自分に生殖器があることを再認識するときに似てきている


ー機材面では、今回もハードウェアを中心に使用したのでしょうか。

今回のEPには『Octatrack』(スウェーデンのシンセサイザーメーカーelektron製のサンプラー/リズムマシン)を使用したよ。今も使用しているけど、奥が深い機材だね。こうやって「ハードウェアはソフトウェアに勝る」とか「ソフトウェアはハードウェアに勝る」とか議論することには興味ないんだけどね。人間って物事においてどちらか一方に決めたがる。自分も時々そうだから、気をつけるようにしているんだ。僕は歳を重ねてよりオープンになるにつれて、似たような結果を達成するために何千通りもの方法があるって気付いたよ。音楽、特にエレクトロニックミュージックは、プロセスがすごく重視されるから機材フェチになりがちだけど、それって結局悲しいことだよね。

実際のところ消費対象やステータスの象徴になることに夢中であるならば、すごくメインストリームで型にはまった姿勢を持っていなければならない。僕は、音楽にはもっと生命力や反逆があると考えるほうが好きだな。アイデア、エッセンス、エモーショナルな体験としての音楽そのものに興味あるっていうか。例えば禅僧の修行のような、知見を比較して物事を表現する必要性や、ある種の哀れで退屈な争いにおいてお互いをつなぐツールは、何を生み出すのかな。ああいったものは、とても男性的な思考方法で、ちょっと懐疑的になっちゃうよ。彼ら自身がただのツールじゃないのかな。僕は音楽のアイデアを表現するために必要があれば、木、ディクタフォン、紙、ペンを使うよ。

ーフィールドレコーディングの素材で新たに取り込んだものはありますか?

今回のEPではどの曲もフィールドレコーディングしてないね。ってことに今気付いたよ。ほら、これが僕が話したことだよ!潜在意識のレベルで制作する美学を持って決定しているから、まったくもって意識的なマインドを持って概念化したり、合理的に思考したりしないんだ。インタビューって時に素晴らしいね、制作した後に自分の音楽に対して知らなかった発見があるから。いい質問をしてくれてありがとう。なぜ自分がそうやっているか理解していないと明らかになったね。でも、何事もなぜやるかを「本当に」理解している人って存在するんだろうか?それを把握したと思えばすぐに、現実というタマネギの別の皮の層みたいなものが現れて、無限の深淵に直面するよ。

ーでは、作風について聞いていきます。音の立体感という点で、あなたは作品ごとに目を見張る進化を見せていますが、今作でも、そうした新鮮な響きをもたらす効果的な作り方は随所に見受けられました。例えば、EP1曲目の『Silver Sun』の序盤の、急激にドライになるドラムの音などは、4次元的な遠近法という感じで。音を空間的に配置することは、やはり重要な要素なのでしょうか。

ありがとう。そうだね、重要だね。その曲を実体験のように感じてほしいから。音楽が気づかないうちにリスナーの背後や上方から忍び寄り、もろく分裂したりする感じで。予測不能だけど堅調で強烈で、デジタルで組み立てられた無機質な足場の平坦な場所で聴こえる感じではなくてね。音楽をその段階まで持っていくのはしばらく時間がかかるのは確かだね。膨大な数の曲を作っても、そこまで行き着かない。その音楽に自分が不満を感じると気づくと、すぐに消去する。多くの音楽を消去したよ、さもなければ忘れ去って次に進み続ける。曲をエディットするには、それがすべてだね。曲を作ることはすごく簡単。1日に6曲作曲して、必要があれば全曲仕上げることもできる。自分にとっては驚きじゃないし、それで満足を感じていられるのもわずかな時間に限るけど。過去に約2ヶ月間で100曲以上作曲したこともあるよ。しばらくぶりに自分に生殖器があることを再認識するときに似てきているけどね。何年経っても良いと思われる11曲を選ぶことは、曖昧なメロディを乗せたり、何でもいいんだけど、かなり良い感じのドラムループ千本を量産するよりもずっと難しいよ。どの曲が良いか、色褪せることなく、世に出す価値があるかを選ぶ作業は、難しいし、やりがいを感じる部分だね。でも、どちらの作業も実践としてやるのはいいよ。自分が苦労して作業したものや、それに付随した軽率でより即興的に作った音楽を扱うことにもなるから。

ーなるほど。これは『CLARK』以降で、私があなたの作品に感じていることなのですが、今のあなたは、これまで絶えず広げてきた幅を、1度集約させる方向に向かわせていて、そのために、作曲がより自由自在になってきているという感覚に溢れているように見えます。前回のインタビューでは、「リリースを重ねれば重ねるほど、前作よりも良いものを作らないとっていうプレッシャーが生まれる」とおっしゃっていました。そうしたストイックな姿勢を貫くことで、あなたのディスコグラフィーは、この例えが的確か分かりませんが、レッドツェッペリンのアルバムのように濃く進歩的な変遷を辿っています。しかしあなたはソロアーティストで、バンドのように常に刺激し合う仲間はいません。あなたの作品の方向性に影響を与える要素とは何でしょうか。潜在意識といったキーワードが出ていますが、日常生活や環境といった外的な要因はどうですか?

すべてかな。純粋なカオスだよ。満足する答えを出すのが難しいな。カオスや状態の領域でいえば、僕は間違いなくカオスの端にいる。右脳タイプなんだ。不測の事態や、カオスとか不安定であること、不慣れな領域にいることで、自分がすごく刺激される。だから旅行も大体好きだね。少なくとも許容はあるよ。異なる環境でも、バンの中でも、空港でも、すぐに寝ることができるし。まったく神経症とか不安症とか感じずに、よく休息できるんだ。ひどいホームシックになることもないよ。人が恋しくなることはあっても、場所が恋しくなることはない。音楽がそばにあれば、ある意味で仲間のようなものだね。音楽があれば、自分がいる環境を整えてくれて、世界のどこにいても快適に過ごせる。音楽は自分の内面世界にしっかりと存在しているから、自分はどこにいても同じような音楽を作り出すだろうと思う。比較的にわずかな気晴らしと時間があれば、音楽は生み出されてくる。でも物事をスムーズに運んでくれて、日々を冒険に変えてくれるような、良い仲間たちに囲まれながらツアーを回ることも楽しいよ。フレンドシップこそ重要だね。まさに人生が変わる。周りにお互いをサポートする素晴らしい仲間がいることは、とても良いことだよ。自分が孤島みたいにならずに、他人を見ることで人間らしい刺激をたくさん受けている。


タイコクラブでプレイした体験は、地球に生まれて最高の時間だった


ーそれでは、あなたが毎日聴いている音楽や、最近気に入っているアーティストはいますか?音楽だけじゃなくても画家でも写真家でも、なんでも結構です。

えっと、いまはTVシリーズ『The Leftovers』(『LOST』のデイモン・リンデロフの新作ミステリードラマ)のサントラ以外はあまり聴いてないな。マックス・リヒターは最高だよ。僕の意見だけど、比類がないね。彼が作るメロディとか、そんなに容赦なく精製されてなくて汚れのない感じとか。彼の音楽は、表面的には純真無垢だけど、無限の深淵や悲哀を描いている。とても魅惑的で、まさに本質だね!作曲において失活している部分はすべて、病的にならずに、とても純粋でエモーショナルな音楽の核を描いている。親しみやすいけど、型にはまってないよね。すべて非常に巧みで響いて気楽に聴こえるけど実はそうではなくて、もちろん心から描き出されている感じがするよ。

あと、作家のMichel Faberにもハマっているけど、新作『The Book Strange New Things(原題)』は素晴らしいね。エレクトロニックミュージックに関しては、Hemlock Recordingsから数年前にすごくカッコいい音楽がいくつかリリースされていたけど、それを続ければいいのにね。



ーでは、毎日食べているもの、または飲んでいるものはありますか?

お茶を大量に飲むよ、しかもあらゆる種類をね。いまは抹茶にハマってるよ。すごくフレッシュで繊細な味だね。お茶は何でも好きなんだ。コーヒーはそんなに詳しくないけどね。以前にニルス・フラームが「僕はピアノ演奏よりコーヒーで有名になりかけているよ」って話してきたことがあったけど、彼が淹れてくれた美味しいコーヒーを考えると納得するな。本当に美味しかったから。まぁ僕はそんなにコーヒー党ではないんだけどね。

ー日本食や日本酒はどうですか?

好きだよ。ベルリンに、ささや(Japanische Küche Sasaya)っていう美味しい日本料理のお店があるよ。色々なインタビューで紹介した気がするけど、それだけの価値がある店なんだ。

ー5月のタイコクラブでのライブがとても楽しみなのですが、今回はどのようなパフォーマンスになりそうですか?

楽器をもっと演奏したいと思っているよ。今回のアルバムでは使用しなかったけど。『Unfurla』(アルバム『CLARK』の楽曲)にチェロ、ヴィオラみたいな楽器が取り入れられることを想像してみて!すごく違う音に聴こえるだろうね。今回のアルバムはすごくエレクトロニックだったから、シンセを使用したライブだと完璧なバランスになるね。恐らくシンセで多くプレイする感じになるよ。あと、新たに最高のリバーブペダルを入手したから、それも試してみたいね。

ー日本では2012年のSound Museum VISION以降、野外でのプレイが続いていますが、クラブとフェスティバルでプレイに変化はありますか?

間違いなくあるね。僕はフェスティバルでプレイする方が好きなんだと思う。前回タイコクラブでプレイした体験は、本当に素晴らしかった。すべてにおいて、地球に生まれて最高の時間だったと言ってもいいかも。フレンドリーな雰囲気で、すごく良い感じにオーガナイズされていて、とにかく感動的だったよ。イングランドの真ん中で雨が降る中で泥沼にハマりながらプレイするより、明らかにずっと楽しかったよ。

ーそれはこちらとしても楽しみです。日本でお気に入りの場所はありますか?

人と、食べ物と、細部まで目が行き届いている常軌を逸したテクノロジーレベルかな。渋谷のホテルのエレベーターみたいにさ。今まで乗った中でも、最速で、最もテクノロジーを感じたエレベーターだったよ。あのエレベーターの中に乗ったまま、上がったり下がったりしながら、曲を書いたらおかしいかな。音楽にどんな効果が出るだろうって思ってさ。なにか奇妙な垂直のドップラー効果みたいなものが働いて電圧が下がるようなことがあったりして。

ー最後に、現在進行形のものでもいいのですが、これから試したい新たなアイデアについて教えてさい。

いまは生成的な音楽にすごく興味があるね。とは言っても、自分が生み出すものを解放する感じ。つまり、エゴの解放だね。すべて計算して、設計するけど、あとはやりっぱなしで、残りは機材がやってくれる。多くの選択を排除する。その音楽に直面して、強烈で利己的なパーソナリティを持つことを期待するとか。生成された音楽から最高の一片を選ぶことは必要だけど、選択はあっても、自分さえよければ生成におけるイベントの発生後にやればいい。きっかけというより、あとからの思いつきだよね。僕は、ただ奇妙なエイリアン的なグルーヴを作り上げるのが大好きなんだ。これまで人間がプレイしようと考えたことがないような純粋で自閉症のような音のグルーヴを生み出す。耳障りすぎるし、感傷や感情的な一貫性はないけど、「FFS理論がファンクを生む」ように感じる何かが所々に存在するような感じかな。僕はリズムに関しては主にそれを導入しているつもり。僕は表面を引っ掻くだけの、生成的な楽器やプログラミングを採用するんだ。もはや趣味を超えている感じだよね。まあ、その音楽に完全に集中する前に、まずは自分の注意を払う必要があるほかの事柄がたくさん発生しすぎるんだけれど。

TAICOCLUB'15』の詳しい情報はこちら
※余談だが、「そうだ、これも見てみてよ」と彼が教えてくれたホームページがこちら『if the moon was only 1 pixel』。

インタビュー 三木邦洋
翻訳 小山瑠美
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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