この秋、観るべき映画 5

『朱花の月』『監督失格』『ミケランジェロの暗号』ほか

この秋、観るべき映画 5

『朱花の月』 (C)2011「朱花の月」製作委員会

『さすらいの女神たち』


かつてジャン=リュック・ゴダールに「君と僕こそ世界一の映画監督だ」と絶賛されたポーランド映画の鬼才、イエジー・スコリモフスキー。昨年日本公開された17年振りの復活作『アンナと過ごした四日間』が絶賛されるなか、早くも新作が登場。今回主役を演じるのはヴィンセント・ギャロ。アフガニスタンでアメリカ軍に捕まったゲリラ兵が、東欧の収容所に運ばれていく途中に脱走して雪山を逃亡するという物語だ。ギャロは酷寒の雪山を裸足で走りまわり、アリを食べ、過酷なサヴァイヴァルを体当たりで演じて、ヴェネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞した。

公開:2011年9月24日(土)
劇場:シネスイッチ銀座 ほか全国順次公開
監督・主演:マチュー・アマルリック
出演:ミランダ・コルクラシュア、スザンヌ・ラムジー
ウェブ:www.ontour.jp/
ツイッター:twitter.com/sasurai_divas


『パレルモ・シューティング』


ヴィム・ヴェンダーズ監督の最新作は、死に魅入られたカメラマンの物語。最近、悪夢ばかり見て眠れないカメラマンのフィンは、偶然、ある写真を撮ったことをきっかけに、謎の男に付け狙われるようになる。ミステリアスな雰囲気のなか、古都パレルモを魅力的な舞台に仕立てたのは、さすがロード・ムービーのマエストロ。また、ロック好きのヴェンダースらしく音楽ネタも満載で、フィンをドイツのパンク・バンド、ディー・トーテン・ホーゼンのカンピーノが演じ、ルー・リードが本人役で登場。ボニー・プリンス・ビリーやポーティスヘッド、グラインダーマンなどヴェンダース好みの音楽が映画を彩っている。

公開:2011年9月3日(土)
出演:カンピーノ、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、デニス・ホッパー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ルー・リード
監督:ヴィム・ヴェンダース
ウェブ:www.palermo-ww.com/
劇場情報:
新宿K'sシネマ:10月14日(金)まで
横浜 シネマ・ジャック&ベティ:10月22日(土)〜11月4日(金)


『朱花の月』


日本を代表する女性監督として海外でも評価が高い河瀬直美監督が、久し振りに故郷の奈良を舞台にした最新作。編集者の哲也と長年同棲していた染色家の加夜子は、木工作家の拓未と愛し合うようになり、加夜子が子供を身ごもったことで、3人の関係は大きく変化して行く。一人の女性を二人の男性が愛する愛憎劇を、万葉集に書かれた想いや登場人物の祖父母の悲恋など、過去の記憶と交差させながら描いた本作は、監督みずからがカメラを回して、揺れ動く3人の男女の内面を静かに浮かび上がらせる。役者全員が現地でひと月合宿をして、土地と馴染んでから撮影するというアプローチから生まれた自然な演技も印象的。

公開:2011年9月3日(土)
出演:こみずとうた、大島葉子、明川哲也
監督・脚本:河瀬直美
ウェブ:www.hanezu.com/
劇場情報:
渋谷ユーロスペース:10月14日(金)まで 
横浜 シネマ・ジャック&ベティ:10月15日(土)から


『監督失格』


アダルトビデオ黎明期から活動し、200本以上の作品に出演した伝説のAV女優、林由美香。妻子ある身でありながら彼女を熱烈に愛した映画監督、平野勝之が、林との関係を赤裸々に綴ったドキュメンタリー。東京から北海道まで、二人で自転車旅行をした様子を記録した映画『由美香』の舞台裏や、林に捨てられて撮るべきものを見失った苦悩の日々が描かれるなか、平野は予想もしない形で林の死と向き合うことになる。その様子を偶然捉えることにな った映像は衝撃的で、痛ましい喪失感が胸に突き刺さる。監督たっての希望で主題歌を担当したのは矢野顕子。「しあわせなバカタレ」というタイトルが、狂おしいまでに林を愛した平野にぴったりだ。

公開:2011年9月3日(土)
劇場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、TOHOシネマズ 川崎 ほか
出演:林由美香
監督:平野勝之
ウェブ:k-shikkaku.com/


『ミケランジェロの暗号』


第二次世界大戦の最中、オーストリアの美術画商の息子、ヴィクトルは、親友のルディに先祖代々受け継がれて来たミケランジェロの貴重な絵画のことを打ち明ける。そのことを知ったルディは自分の出世のためナチスに密告。ユダヤ人だったヴィクトル一家は絵を奪われて収容所に送られるが、絵は偽物にすり替えられていて、本物についての手掛かりは死の間際にヴィクトルの父親が残した言葉だけ。絵の存在をめぐって、ヴィクトルはナチスを相手に決死 の攻防戦を繰り広げる。二転三転するサスペンスフルな展開には、戦争に対する怒りと同時にブラックなユーモアも織り交ぜられて、人間ドラマを大切にしたエンターテイメントとして楽しめる逸品。

公開:2011年9月10日(土)
劇場:TOHOシネマズ シャンテ ほか、全国ロードショー
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリヒ、ウーズラ・シュトラウス
監督:ヴォルフガング・ムルンベルガー
ウェブ:code-m.jp/

テキスト 村尾泰郎
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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