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2010年02月04日 (木) 掲載
20代のスケーターが大半を占める、日本のプロフィギュアスケート界に、42歳で現役を貫くスケーターがいる。西田美和は現役最年長のプロフィギュアスケーターだ。8歳でスケートを始め、18歳から全日本選手権や国体に出場。インターカレッジで3位入賞を果たしたこともあり、現在はプリンス・アイス・ワールドなどのアイススケートショーに出演しながら、新横浜プリンスホテルスケートセンター専属インストラクターとして後進の指導にあたっている。2006年のトリノオリンピックでは、日本代表だった安藤美姫選手のサポートコーチも務めているというから、その実力は業界関係者も認めるところだ。
その西田美和が主演を務める映画が、バンクーバー冬季オリンピック開幕直前の、2010年2月6日に公開される。『COACHコーチ 40歳のフィギュアスケーター』は、華やかなフィギュアスケートの世界を舞台に、一人の女性の生き方、夢を追いかける強さが描かれている。当然、フィギュアスケートのシーンが多く、西田はもちろん、オリンピックのメダリストである伊藤みどりや、荒川静香の映像も盛り込まれている。
40代で新たな挑戦をした西田美和。映画『COACHコーチ』に込めた思いや、現在のフィギュアスケート人気について話を聞いた。
プロのフィギュアスケート界では42歳で最年長なんですね。20代、30代の方が続けられないのは、どうしてでしょうか?
西田:アイススケートショーで滑るプロと言っても、やはりスポーツの要素が大きいので、体力的にとてもキツイんです。ショーでは、ずっと滑っていなければなりませんから、練習も疎かにできません。気持ちが、ちょっとでもめげてしまうと、練習ができないので、モチベーションを保ち続けるのが大変なんです。あと体型。人前にでる最低限の体型を保たなければなりませんから、厳しい世界です。でも、最近は、空前のアイススケートブームがきっかけで、アイスショーを辞める人もいるんですよ。
それは、どういうことですか?
西田:私たちはショーに出演していない時は、コーチ業もしているんですけど、4年前から急激に生徒の数が増えて、コーチ業が忙しくなったので、両立が大変なんです。トリノオリンピックで荒川静香さんが金メダルを獲ったことや、安藤美姫選手、浅田真央選手の人気が影響してますよね。私は10数名の生徒さんを受け持っているんですけど、1人で50人の生徒さんを見ている方もいます。レッスンは分刻みで、クラブに入会できず、順番待ちをしている方も多いんです。それなのに、不況の影響などから、スケートリンクが、どんどん閉鎖されて、滑る場所がなくなって、みんなやりたいのにできない。それが現実です。プロチームが練習するためのリンクもとれないんです。もちろんコーチ業はしているので、毎日、氷の上には乗っていますけど、貸切で思いっきり滑るのが、ままならない状況です。当然、アイスショーとコーチの両立は難しいですよね。
西田さんは、それでも続けていらっしゃいますね。
西田:そうなんですよ。なぜか、足がそっちへ行っちゃう。“好きだから”という、それに尽きるんです。私は小さい頃から、プリンス・アイス・ワールドで滑るのが夢で、大学卒業と同時に夢が叶ったんです。アイスショーは毎回、毎回、お客様の反応が違いますから、みなさんが喜んでくださると、また頑張ろうと思いますし、「綺麗だったよ」「よかったよ」なんて言われると、さらに頑張ろうかなと。ずっと、その繰り返しで…気づいたら、四半世紀。スゴイ……。
そんな西田さんが、今度は“女優業”にも挑戦されています。フィギュアスケートも女優も、演じて、人に見せるものですよね。
西田:そうなんですけど、まったく違いました。同じ見せるでも、スケートはやっぱり点数がつくんです。それで、成功と失敗が明確にわかります。ジャンプも、ちゃんと着地したら成功。転んだら失敗。誰でもすぐにわかりますけど、お芝居は点数がないですから…。点数点数で育ってきたので、戸惑いました。アイスショーで演技をする場合でも、お客様の反応がリアルにわかります。でもお芝居は、いいのか、悪いのか、本当にわからないんですよ。監督のOKがすべてなので、とても不安でした。
新しいことに挑戦するという意味で、不安はありましたか?
西田:お芝居をしたことがなかったですし、選手として有名だったわけでもないので、ためらいはありました。本当に私でいいのかと。それでも決意したのは、こんな私でも、女優に挑戦することで、多くの人にスケートの魅力を伝えることができると思ったんです。それに、今回の作品は、映画興行収益金の一部が、ジュニア選手の育成など、スケート界発展の為に役立てられるので、私もアイススケートに恩返しができると思って挑戦しました。
子供たちにスケートを教えることも、恩返しのひとつですよね。でも、実際にコーチとして教えていて、大変なことはありませんか?映画の中では、コーチと、生徒の親との間に、練習方針の食い違いがあって、大変そうでしたけど……。
西田:お母様方は、みなさん、子供に安藤選手や浅田選手のようなトップスケーターになってもらいたいと、強い憧れをもっていらして、スケートを習い始めて1、2ヶ月で、「うちの子は才能ありますか?」「オリンピック選手になれますか?」と聞いてこられるんです。でも、結果はすぐにはでないんです。安藤選手も、浅田選手も、小さい頃から注目され続けていますけど、20歳前後になった今、一番輝いているように感じます。スケートって、本当に時間がかかるスポーツなので、長く続けなければわからないんです。特に女の子は、体型が変わりやすいですよね。突然、太ってジャンプが飛べなくなってしまったりしますから。もちろん、怪我をしたら、それで終わりですし。一概には言えないんです。だから、お母様方も、子供達も、まずは強い気持ちを持って、継続して欲しいです。
そういう難しさがある中で、荒川静香さんや安藤美姫選手、浅田真央選手が、ひときわ才能を伸ばせたのは、どういう点に違いがあったと思いますか?
西田:練習量の違いもそうですけど、自分の目標が明確にあるスケーターというのは、そこに近付いていくのだと思います。今の時代の子は、テレビなどの影響もあって、小さい頃からオリンピックを見ていますから、“オリンピックへ行きたい”という強い意志を持っている子は伸びていくように思います。それから、やっぱり素直な子。これが一番。素直な子はどんどん上手になります。
『COACHコーチ』の中では、時東ぁみさんもフィギュアスケーター役で出演されています。時東さんのフィギュアスケートはいかがでしたか?
西田:生まれて初めてのアイススケートだったそうなんですけど、素晴らしかったです。運動神経がいいとは聞いていたんですけど、氷におりて、5分後ぐらいには、もう立っていました。軸がしっかりしていて、バランス感覚がいいんでしょうね。ひいき目なしで、上達が早かったと思います。映画は、お芝居が初めての私と、フィギュアスケートが初めての時東ぁみさんの共同作業ですね。若いのに、助けてくれました。
公開が待ち遠しいですね。映画が公開された1週間後には、バンクーバー冬季オリンピックが開幕します。日本は世界で唯一、男子シングル、女子シングルともに最多の3枠ずつを獲得していて、こちらも期待が高まっていますね。
西田:コンディションをキープして、強い気持ちで臨んだ人が良い結果を出せると思います。小さい頃からみんなを見ていますので、全員にメダルを獲ってもらいたいと願っています。
最後に、東京でおすすめのスケートリンクはありますか?
西田:今なら、東京ミッドタウンに期間限定で設置されている、スケートリンクでしょうか。実は、2月14日の日曜日、夕方4時より、映画『COACH コーチ』のエンディング曲『MAP〜未来の地図』を歌ってくれている、アーティストの小川真奈さんが歌って、私がフィギュアスケートを披露するショーがあります。是非、多くの方に遊びに来ていただきたいです。
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