インタビュー:『ブラック・スワン』

ダーレン・アロノフスキー監督、ナタリー・ポートマンが語る

インタビュー:『ブラック・スワン』

「自分にとってはどの映画も大変なものだよ」とダーレン・アロノフスキー監督(41)は語る。その笑顔からは、場慣れしていながらも控えめな感じが垣間見られる。ブルックリン出身の監督は、今まで人を追い込んでいくような映画を撮ってきたが、予想に反してとても陽気だ。「『π(パイ)』の製作のため、6万ドルをかき集めるのにものすごく苦労をしたよ。『π』が上映されて、皆の注目を集めると、急に人が寄ってきて“次は何を撮るんだ?”と聞いてくるから、『レクイエム・フォー・ドリーム』を見せたんだ。とたんに誰も声をかけてくれなくなったよ」

監督の前作は『レスラー』。復活を果たしたミッキー・ローク主演のこの映画は、オスカーにもノミネートされ話題となった。この『レスラー』のヒットが、更に人を追い込んでいくような映画、拒食症気味に細く、過酷なバレリーナの世界を描いた『ブラック・スワン』の興行収益を後押ししたであろうと考えられる。しかし監督は、「それはないね」と真っ向から否定する。彼は困惑したプロデューサーのような声(ユダヤ系の母親のなまりが出たのかも)で言う。「誰がバレエを題材にした映画を見たいと思うんだ。レスラーのようなホラー映画が好きだった人たち?きっとみんな、『ブラック・スワン』がどんな映画かわからずに見たと思うよ」と肩をすくめた。

台本を読んだものにとって、『ブラック・スワン』の暗くスリリングな心理劇は、監督のあらゆる心配(少なくとも最近の心配事)をよそに、神秘的に映った可能性がある。だが、スクリーン上となれば話は別だ。『ローズマリーの赤ちゃん』で見られた伝統的な“勝ちパターン”や、ニューヨーク・シティ・バレエ団の陰気な空気を使ったこの作品は、『白鳥の湖』の新しいエトワールの座をめぐって繰り広げられる緊張感のある内容である。本作品のコンセプトを知ってスタジオが躊躇したのも不思議はない。ナタリー・ポートマン演じる主人公のニーナは、白鳥と黒鳥という相反する二役を演じるという重圧から破滅へと向かっていく。白鳥と黒鳥になりきりすぎたため、もはや羽でも生えてきそうだ。あらゆるメロドラマの要素を功名にブレンドしたこの作品は、まさに今期見るべき一本といえる。

ナタリー・ポートマンは「監督のトーンは強迫的で、容赦がないの」とメールで答えてくれた。彼女は長い間、監督と仕事をしたいと思っていたという。「彼の作品は進化しているように見える。だから、『レスラー』が一番好きな作品。この作品で監督は、パフォーマンスに集中するという術を自分のものにしている感じがする」と彼女は付け加える。

そんなナタリー・ポートマンの黒鳥への変身ぶりは圧巻だ。スター・ウォーズシリーズで“置物の人形役”だった彼女が、急に生身の不安定な人間となり、バーバラ・ハーシー演じる子離れのできていない母親兼マネージャーと、ヴァンサン・カッセル演じる卑屈な芸術監督のプレッシャーに押しつぶされる様を体当たりで演じている。

監督はしなやかなバレリーナ体型のナタリー・ポートマンを「彼女の振る舞い方には、いつも感心させられていたんだ」と評価する。彼らは『ブラック・スワン』の構想が持ち上がったころ、2001年に初めて出会った。「彼女は年を重ねているのに、彼女を少女ではなく一人の女性として撮る監督がいないことに気づいたんだ。かろうじて、マイク・ニコルズ監督が『クローサー』で彼女を女性として演出したかもしれない。だから、『ブラック・スワン』では彼女を一人の女性として魅せたいと思ったんだ」と監督は付け加えた。

ただ、2人の出会いから一本の映画を撮るまでが9年とは、とても長い時間が過ぎている。ナタリー・ポートマンは当時まだ大学生であったにもかかわらず、監督は自分の選んだキャスティングにこだわった。その結果、ナタリー・ポートマンは彼の意図していた以上に成熟してしまった可能性がある。「時が経つにつれて、彼女は“バレリーナ役を演じるには年をとりすぎてしまう”とよく嘆いていたな」と監督は彼女の言葉を思い返す。監督はそんな彼女の嘆きに「君はすばらしい体型を維持しているし、君ならきっとできる。もう少し時間をくれ」と答えたという。

皮肉にも、いったん撮影が始まると、時間がいくらあっても足りないくらいだった。そして、撮影のための肉体改造は、誰の目にもハードなものとなった。ナタリー・ポートマンは、12歳までバレエを習っていたが、そんな彼女でも、1日8時間にも及ぶ1年間のトレーニングは、「非常に厳しいもの」だったという。彼女は「バレエを一から習いなおしたようなものだったわ。体の感覚は抜けてはいなかったけど、かなりの練習が必要だった」と振り返った。同じく、何週にも及ぶバレエの特訓を受けたコスタ・ミラ・クニス(27)も、その苦労については皮肉を込めて、「私はもうすばらしいダンサーよ。本当に。ちなみにすばらしい歌手でもあるけどね」と語っている。

極限までキャストを追い込むことについて聞くと、監督は軽くうなずいた。それは彼の美学である。ただ、そのやり方については自分でも批判的な部分がある。彼は「バレリーナは単純に食べていないんだ」と指摘する。「有名なバレリーナのスーザン・ファレルは1個のりんごを3つにきって、それを1日の食事としているなんて話をしているんだ」と監督は加えた。

この手の排他的な追い込みは、監督の作品を批判するものの持つ、偏見の一つである。「『レスラー』を撮っているときも、体中にタトゥーやピアスをしている人たちも生身の人間なんだってことを実感したんだ」と監督はいう。2012年に発表予定である監督の最新作『ザ・ウルヴァリン / The Wolverine』(原題)は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の続編だ。この作品の主人公も生身の人間だと言われれば、そう思えてくる。今となっては監督にけちをつける人はいない。「やっと映画作りをしたいという人たちに囲まれている」と監督は満足気にいう。


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『ブラック・スワン』のクロスレビューはこちら


『ブラック・スワン』は、5月13日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー

テキスト ジョシュア・ロスコフ
翻訳 タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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