マレーシアのピート・テオ監督語る

第22回東京国際映画祭に出品した映画監督が語る第2弾

マレーシアのピート・テオ監督語る

ミュージシャンとしては現在のマレーシアを代表するアーティストでもあるピート・テオが、異色のドキュメンタリー風オムニバス映画『15 Malaysia』で今年の東京国際映画祭に登場し、その生々しいほどに斬新な映像が、観客に鮮烈な印象を与えた。

ピート・テオは、マレーシア・サバ州コタキナバル出身。10代でイギリスに留学し、1985年の大学在学中に、 イギリスのテレビ番組の音楽制作を担当し、プロとしてのキャリアをスタートさせた。2003年に初のソロ・アルバム『Rustic Living For Urbanites』で来日し、北海道、東京、大阪でライブツアーを実施。2004年に、マレーシアのレコード大賞にあたる『AIM』2部門を受賞している。2006年にはセカンドアルバム『TELEVISION』をリリース、ツアーで再来日を果たし、『AIM』3部門を受賞した。音楽分野での活躍も目覚ましいが、現在は、作家、俳優としても活動の場を広げている。また、ソーシャル・ワーカー、大学での哲学講師、建設会社管理職、株式トレーダーなど、さまざまな職業を経験しているのもユニークだ。

今回の映画『15 Malaysia』は主に3つの人種が生きるマレーシアという国の、社会と政治にまつわる問題をテーマに、15個の短編作品で構成されている。発表当初はウェブのみで公開され、YouTubeでは2週間、世界ランキングでトップ10に入った。

監督:5~6年前にインディペンデント・フィルムの映像関係者たちと出会い、最初は俳優として関わり始めた。その後、ミュージック・ビデオを作ったらこれが評判がよくて、マレーシアの50%に当たる1200万人が見てくれた。そこで次のプロジェクトとして考えたのが『15 Malaysia』だった。たった3人のチームで動いていたので、ぼくは企画から営業まで自分でやった。6カ月間、2時間睡眠だったよ。だから眼の下にクマができてる。昨日飲みすぎたからじゃないよ(笑)。公開はネットだけにした。言論制圧があるマレーシアではテレビでは流せない。2日置きに1本ずつ、夜中の12時にアップロードしたら、6台のサーバーがクラッシュしたよ。

マレーシアの言論制圧は生半可ではない。裁判なしで誰でも逮捕できるのだという。しかし映画監督としてのピートは注意深く体制を整え、大胆にまっすぐに表現することをあきらめない。

監督:たくさんの友達が「注意してくれ」とメールをくれるよ。でも世界に向けて発表したことで、もはや数百万人規模のサポーターを得たし、5人の政治家に守ってもらっているから大丈夫。マレーシアという国はマレー系、中華系、インド系の人種が混在し、パスポートには人種を書く欄がある。しかし僕たち以降の世代はこの項目をはずしたがっている。マレーシア人、でいいじゃないか。

『15 Malaysia』では、人々の淡々とした日常を切り取ったかに見える小さなストーリーのなかに、ピート自身の「マレーシア人でいいじゃないか」という強いメッセージが観る側の胸をぐいぐいと押す。

監督:たとえばMTVを観ていると憂うつになるよ。いろんなポップミュージックが流れてくるけれど、中身がない。60~70年代はそうじゃなかった。日本でかまやつひろしさんとも話したんだけどね。実際にセールスが落ちているのも、音楽にメッセージ性が失われているという影響があると思う。エンターテイメント性で勝負したら、ブリトニー・スピアーズは任天堂のゲームに負けちゃうんだよ。ボブ・ディランなどは土俵が違う。メッセージがないと意味がないと僕は思うね。刹那的に流行り、廃れていくものをつくりたいとは思わない。映画をつくりたいと思ったのもそこなんだ。ポップミュージックの1曲では伝わらないものを、映像で表現していきたい。

ピート・テオ監督『15 Malaysia』
ウェブ:15malaysia.com/

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※掲載されている情報は公開当時のものです。

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