2010年09月21日 (火) 掲載
淡い情景を描くシンガーソングライターとして、そして最先端のクラブミュージックをプレイするDJとして活動を続けてきたG.RINA。彼女のニューアルバム『Mashed Pieces #2』は、イギリスのビートメイカーたちがリリースしたトラックに自身の歌声を乗せたストリートアルバム『Mashed Pieces #1』をさらにブラッシュアップした作品。その制作プロセスもふくめ、類を見ないユニークな一枚となった。11月には出産を控え、新しい人生の扉を開こうとしている彼女に話を聞いた。
まず、前作にあたるストリートアルバム『Mashed Pieces #1』を作ることになった経緯からお聞きしたいんですが。
G.RINA:DJのときはダブステップとかファンキーなベースミュージックをよくかけてるんですが、どうしてもイカつい曲が多くて、歌モノが欲しくなってきたんですね。最近ではダブステップでも歌モノが増えてきたんですけど、その頃はあまりなかった。だったら自分で歌っちゃおうと思って、もともとDJでよく使ってた曲に歌を乗せてみたんです。最初は自分のDJ用として作ったんですけど、かけてると面白がってくれる人もいたんで、ブログで公開したり。
そもそもダブステップのようなUKのベースミュージックに惹かれているポイントは?
G.RINA:もともとドラムンベースとかジャングルが好きだったのもあるし、レゲエが好きになったのも、ジャマイカのものじゃなくて、UKのジャマイカ移民の人たちが作るものがきっかけだったんです。なので、DJでかけるのもイギリスのものが多くて、ダブステップを好きになるのも自然な流れだったんですね。ただ、私がDJをやる場合、あんまりハードなダブステップは選曲の流れになかなか組み込みづらくて。そういう意味で、流れ的にも不自然じゃなくて、なおかつダブステップの面白さが分かるようなものを作ろう思って。
最初はブログに1曲ずつアップされてましたけど、その頃はアルバムにしようという感覚はなかった?
G.RINA:なかったですね。そもそもオフィシャルな作品ではないので、いろんな人たちからの反応を見たかったんです。
実際の反応はいかがでした?
G.RINA:それが意外とよかったんで、どんどん曲が増えていったんですよ。で、結果的に曲が溜まったんでストリート盤として『Mashed Pieces #1』を作ったんです。
そのストリート盤がMelody&Riddimというご自身のレーベルの第1弾作品になったわけですよね。RINAさんのキャリアにとって、自身のレーベルを立ち上げたことは大きいんじゃないかと思うんですが。
G.RINA:もともと、DJミックスは非公式に自主で出してたんですよ。なので、非公式でリスクを負うものは自主で出してたわけで、今回もその延長上で考えてました。ただ、『Mashed Pieces #1』はDJミックスではなく歌モノ作品でもあったので、改めてレーベル名を付けたほうがいいんじゃないかと思って。とにかく思いついたことをすぐ形にして、現場で回してる人たちにすぐ使ってもらうのがテーマだったんですよ。
RINAさんにはシンガーソングライター的側面もあるわけですが、DJ/シンガーソングライターという二面が共存した作品はこれまでなかったですよね。
G.RINA:作品に落とし込んだのは確かに初めてですね。私の場合、ライブよりもDJのほうがパフォーマンスの機会が多くて、自分にとってもDJは切っても切れないコアな活動なんです。なので、シンガーソングライターとしての私の歌を聴いてくれてる人にも、DJとしての私を知ってもらうきっかけになればと思って。トラックに関してもそういうことを考えながら選びました。
その『Mashed Pieces #1』に続いて、今回オリジナル・アルバム『Mashed Pieces #2』がリリースされたわけですが、この構想は前からあったんですか?
G.RINA:いや、全然なくて。前回同様、思いついたときに人のトラックでやろうかとも思ってたんですよ。でも、『Mashed Pieces #1』をリリースしたあと、たとえ遊びで作ったものだとしても礼儀としてオリジナルのトラックメイカーに伝えておいたほうがいいだろうと思って、それぞれにサンプルを送ったんですね、ラブレターみたいな思いも込めて。そこで反応がない人もいたんですけど、連絡があった人に関してはすごくいい反応で、なかには“一緒に曲を作ろう”って言ってくれた人もいたし、DJミックスで使ってくれた人もいて。それはすごく嬉しいことだったんですけど、ただ、会ったことのない海外のトラックメイカーに対して自分をプロモートするような形じゃなくて、日本に住む素晴らしいビートメイカーたちと一緒に作品を作るべきなんじゃないかっていう気持ちも徐々に芽生えてきて。
それで、『Mashed Pieces #2』の方は全て日本人ビートメイカーが制作したオリジナルのトラックに差し変わってるわけですね。
G.RINA:そうですね。日本人ビートメイカーに私のアカペラを渡して、それに合わせてトラックを作ってもらう形で、対比になる作品ができればいいなと思って。ダブステップ・ビートメイカーと謳ってない人たちにダブステップに近いBPMの素材を渡すことで、(イギリスの)借り物じゃないものができるんじゃないかと思ったんです。
ブログの公募に参加してきたビートメイカーによるトラックも今回は入ってるんですよね。
G.RINA:最初はブログにアカペラをアップしたんですね。で、やりたい人は好きに使ってください、と。別にそのリミックスをコンペしてアルバムにしようとも考えてなかったんですけど、そうしたら送られてきたもののなかに興味深いトラックがいくつかあったんで、それをブラッシュアップして作ってもらいました。BETA PANAMAさんとTNDさん、それとTOFU BEATSくんとはそうやって作っていきましたね。
他の方はどうやって選んでいったんですか?
G.RINA:DJの現場でよく会う人だったり、いつか一緒に作ってみたかったり、そういう人ですね。ダブステップに興味があっても、それだけを作ってる人じゃないビートメイカーにお願いした感じです。
でも、LUVRAW&BTBは……。
G.RINA:彼らも現場でのつながりです。同時に単純にファンでもあったし。彼らの音の雰囲気だけ結構違って聴こえるかもしれないですが、ダブステップって140とか150ぐらいのBPMなんですけど、その半分ぐらいに感じる感覚もあって、彼らにお願いすることでその半分ぐらいのメロウな空気感が出たらいいなと思って。
RINAさんご自身のトラックも入ってますね。僕はちょっと夏祭りっぽい“OMATSURI BLOOD”が好きです。
G.RINA:こういう雰囲気はスキットだけでも入れておきたかったんです(笑)。本当だったらもうちょっとトライバルなトラックとかも入れたかったんですけどね。DJのときにはブラジルのバイリ・ファンキだとかクンビアもゴチャ混ぜでかけてるんですけど、そこまでアルバムに盛り込みきれなかったので、ギリギリのところまではいこうと(笑)。
ひとりでレーベル運営もやってるわけですが、そういう環境だからこそ自由に音楽制作ができる、という感覚もあります?
G.RINA:もともと制約のなかでやってたわけじゃないんですけど、レーベルとかレコード会社のあり方が変わってきてるなかで、アーティストのあり方も多様化してると思うんです。私にしても最初から波打ち際にいたというか、砂浜に寝そべってやってたわけじゃなかったんですよ(笑)。なので、波打ち際から海に飛び込んでいくのはそんなに抵抗がなくて。いろいろトライするにはやりやすい場所にいると思いますし、そのトライ&エラーを見て、他の人が“このやり方は面白いな”“これはあんまり好きじゃないな”って思ってもらってもいいですし。なので、そういうトライ&エラーのプロセス自体をブログで公開してるんです。
メジャーで活動されていたこともありますが、そのときの経験が反映されてる部分もありますか?
G.RINA:私はメジャーの前にインディーでもやってたんですけど、インディーからメジャーに移っても、やんなきゃいけないことは変わらなかった。例えば、ビートメイカーにお願いをしたり、ミュージシャンに参加してもらったりする場合、間に事務的な人が入らないほうが上手くいくことが多いんですよ、私の場合は。アーティスト同士が面と向かって話をするのが大事だと思いますしね。もしかしたら経理やプロモーションの面では他の人がいたほうがいいのかもしれないけど、制作について言えば本人が動いたほうがベストだと思うんですよ。もちろん、私だってやりたくないこともあるんですけどね(笑)。
この『Mashed Pieces』というシリーズは今後も続いていくんですか?
G.RINA:まだノープランですね。音楽マーケットが変化しているなかで、単に作品を出すだけじゃなくて、どうやってパフォーマンスをやっていくのかが重要になってきてると思うんですね。聴いてくれてる人とのコミュニケーションの場として。これから出産もあるので、どれぐらいでDJに復帰できるか分からないんですけど、その先にはライブをやっていきたいとも思ってます。ただ、ライブのたびに数人のメンバーを集めようとすると機動性に欠けるところもあるので、それを踏まえた作品作りをしていくかもしれないですし……今後は現場をどう踏まえて作品作りを続けていくか、考えながらやっていきたいですね。
MASHED PIECES #2
発売日:2010年9月8日
レーベル:MELODY & RIDDIM
価格:2000円(税込)
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